暴君に相応しい三番目の妃

abang

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準備期間と、追われる者

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ドルチェとティアラの決闘には突然の申し出でもあった為、公務などを考慮し十日の準備期間が設けられた。

帝国の大きな闘技場が会場となるが、周辺への被害を考慮し皇妃宮から安全対策が練られる為、それに対しての準備期間という意味あいでもあった。

ティアラにとっては自分を見つめ直す期間になるだろう。
その結果もし決闘を取りやめたとしてもドルチェは別に咎めようとは考えてはいなかった。


「頑張ってるのね」

「お仕事が忙しいようですが、大丈夫ですか?」


二人が演舞場で会ったのは偶然だった。

皇妃宮の騎士団も参加する合同練習の為、ドルチェはレンや皇妃宮の騎士団の様子を見に来たのだ。

皇宮の魔法騎士団のレベルはかなり高く、剣の腕だけではなく魔法の器用さも必要になる。

かつてティアラが入るはずだった騎士団は、彼女が想像していたよりも過酷で、ハイレベルな場所だった。

ドルチェとの決闘に向けて参加した合同練習では、ティアラは頭角を見せるどころか皇妃宮の面々の足元にも及ばず体力を切らせた。

それでも感覚を取り戻せた気がして自信が付き、まるで身動きが取れるのか不思議なほど綺麗なドレスで演舞場に現れたドルチェを見て思わず過信してしまったのだ。


ティアラが足元にも及ばない皇妃宮の面々の鋭い視線。

ティアラを心配する一部の騎士達、見学に来たメイド達……

その全員がスリットから白い太ももを覗かせてドルチェがティアラの方へと一歩踏み出すと途端にドルチェの所作の美しさに息を呑んだ。


「心配しないでいいわ、殺さないから」


別宮の騎士達へ微笑んで言うドルチェに付き添うリビイルは全くの検討違いだと内心でため息をつく。

(見惚れているんですよ、ドルチェ様……)

家門での扱いの所為か、自分への好意に少し鈍感なところがあるドルチェのそういった部分をリビイルを筆頭に皇妃宮の面々は人間味があって好きだと思っているが、本人はそれにすら全く気付いていない様子だ。


表情を歪ませたティアラの顎を掬って、頬を撫でると微笑んだままのドルチェは「震えてるわよ」とだけ囁いて、ティアラを通り過ぎて自らの部下達の元へ行ってしまった。


両の手を見て確かに震えている事に気付いたティアラはハッとしてドルチェを振り返るが、彼女はもうティアラを見ることはない。


その代わりにドルチェの後に続くリビイルがティアラを見下ろして立ち止まる。


「追われる重圧を背負うには弱すぎますね」

「は……?」

「対峙してみれば分かりますが……覚悟くらいは持っておいた方がいいかと」

「何を言って……っ」



「リビィ?」

「申し訳ありません、すぐに」

きっと聞こえていたのだろう。ドルチェは僅かに目尻を下げて仕方ないな……とでも言うようにリビイルを呼び駆け寄った彼の頭を撫でた。


「あなたが気を張らなくていいわ」

「あなたに刃を向ける者には容赦しません」

「全くうちの家族達は血の気が多いわ……」

「誰に似たんでしょうね」

「! ……ふふっ」


不覚にも羨ましいと感じてしまったティアラは、ドルチェに向けられる全ての視線、地位、彼女の持つ全てを欲しいと思ってしまった。


「どなたか、もう一度手合わせお願いします!!」

(絶対に私の居場所を取り戻すわ)


やけにドルチェの表情が憎らしく感じて、あの顔に大きな傷の一つでもつけてやればヒンメルは自分を選ぶのだろうか?とさえも考えた。


皇妃宮の騎士達と一言二言、なにやら短い話をした後にすぐ演舞場から消えたドルチェの甘い残り香が妙に彼女を恋しくさせ、その場の皆が畏怖している筈のドルチェの姿を焼き付けて思い浮かべていた。


「私のものよ、全部取り戻すわ……!」


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