暴君に相応しい三番目の妃

abang

文字の大きさ
上 下
75 / 90

悪女の手下?出世馬?

しおりを挟む


皇妃宮から本城へのお使いの帰り道、ララは新しい側妃がくるという噂を耳にする。

(側妃……?念の為に調査しておくべきね……)

詳しく調べてみるとまだ年端もいかぬ頃に放浪の旅に出た皇帝の友人が帝国に戻ったとのことだった。
どうしてそれが新しい側妃という話になるのか?
それは容姿や性別の所為だとすぐに分かった。

そしてララから件の報告が終わるや否や、ドルチェはすぐに彼女と遭遇することになった。

   
翌日、皇帝への謁見を門前で派手に志願している女性に遭遇する。いつもは厳格な衛兵達が心なしか困っているようにも見えたのでリビイルに止められたものの、その女性に声をかけた。

「なにか問題が?」

「はっ!皇妃殿下!それが……」

「貴女がヒンメルの奥様ですね、初めてお目にかかりますわ」

「……で?」

やけに堂々と、無礼なほどの自信に満ちた態度でドルチェに声をかけたその女性の声色は柔らかくて落ち着いているが、ドルチェは特に返事を返すことなく、当初声をかけた衛兵から視線を逸らさずに彼の返事を待った。


「そ、それが……皇帝陛下の幼馴染だと仰られていまして」

「事実なの?」

「帰還のお噂もございますので、只今確認中です」

「いいわ、私が確かめてきましょう」

「まぁ!とても親切な方ですのねっ!」

「……」


相手の態度に違和感を感じつつも、いつもの笑顔だけを向けて本宮へと入るとドルチェはすぐに当初の目的の執務室へと向かい、彼女の素性をレントンに確かめた。


「ミルクティー色の髪に同じ色の瞳の小柄な女性ですか……」

「ええ。門の前が動かないらしいわ」

「確かに……容姿は似ていますが、陛下の確認が必要ですね」


そうこうしている間にヒンメルが来て、さほど興味も無さそうな様子で魔道具に映し出された彼女を指して「間違いない」とだけ返事をした。

彼女、ティアラ・フリンは皇帝の知り合いで幼少期の当時はヒンメルと同格にやり合うほどの実力者だったという。
大きな家門の出ではないが、実力を買われ皇宮で魔法騎士団への入隊が約束されていたが、彼女は様々な自然に触れ、魔法の根源を辿りたいと放浪の旅に出たらしい。


「陛下、どうなさいますか?」

「入隊希望か?」

「いえ、それはまだ何も……」

「謁見を希望していたわよ、その人」

「……分かった。ドルチェも来てくれ」


まるで潔白を証明する普通の夫のようだとレントンが内心で考えていることをドルチェが知る由もなく、ただ微笑んで頷いた。


「会えてうれしいです、ヒンメル!」

「そうか。よく戻ったな」


前髪を綺麗に切り揃えられ、髪が緩く巻かれて愛らしい印象の小柄なその友人はおっとりしている風でヒンメルの琴線をうまく避けて会話をする。

だからか、いつもより柔軟な態度のヒンメルにドルチェは少しチクリと胸を刺すような気がするも深く考えなかった。


「ご友人だと聞いたわ、ティアラと呼んでも?」

「ええ、もちろんですわ!」

「……」

嫉妬一つしない様子のドルチェが気になるヒンメルは気付いていないが、あからさまな好意が見え隠れするティアラにレントンはあまりいい印象を抱いていない様子だ。

「そういえば、旅先でヴァニティ伯爵家の方々を知りました」

「そうか」

「まさか、妃殿下は違うと思いますが……ヒンメルが心配になりました。妃殿下があの愚かな家門の出だなんて……」

「何が言いたい?」

「わ、悪気はないのです!ただ私は愚かに身を滅ぼしたヴァニティの血筋を持つ妃殿下が不憫で……」


俯き涙を拭く姿を見せるが、レントンの角度からはきちんと口角が少し緩みかけているのが見えた。


「そうね、けれどヴァニティを堕としたのは私だもの」

「えっーーー」

「ふふ、だから安心して頂戴」

意外だったのか、その程度も予想していなかったのか、ティアラは相当驚いた様子で言葉を失った。


「くっく……ドルチェ、来い」


楽しそうに笑うヒンメルにドルチェは首を傾げながら指示されたとおりに彼の膝に座る。

ティアラは笑顔をヒクつかせてヒンメルの初めて見る穏やかな表情に内心で悔しくて仕方がない。



(噂ほど強そうに見えないわね)


それもそうだ、ヒンメルとて幼い頃から成長しているし努力もしている。ドルチェもまた成長を遂げても努力を怠らない性格。

自信過剰で、ヒンメルの幼馴染だと謳って楽に旅をしてきたティアラとは過程もなにもかも全てが違った。


ヒンメルの膝に座るドルチェに仕えるリビイルやレンを見渡したティアラはドルチェに「奔放なんですね」といかにもヒンメルを心配するかのように言った。


それを見逃さないのが覗き見をしていたレイとフィアで、出てくるなりララやライアージェ、ジェシカを指さす。


「見えてないみたいだね、フィア」

「嫉妬ってやつかな?ドルチェ様美しいから」

「そうだよね、じゃ敵わないよね」

「な、なんですか!?この子達は……!」

「ごめんなさいね、ウチの子達なの」

「ヒンメル、この子達を正当に罰して下さい!」



けれど、ティアラはヒンメルの冷ややかな目に見下ろされた上に、ドルチェの魔力で威圧され萎縮する。



「何故、俺がそんなこと?」

「え……でも私たち、幼馴染じゃ……」

「友人だったが、ドルチェは妻だ」

「ウチの人間に手を出すつもりなら歓迎はしないわよ」


ドルチェの悠々とした様子とは違う刺すような魔力と言葉。
そんなドルチェしか写していない金色の瞳にティアラはただ力なく引き下がった。


「申し訳ありませんでした、旅の帰りで気が立っていたようです」

「別宮の来賓室を用意したわ。ゆっくりして頂戴」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

魅了魔法にかかって婚約者を死なせた俺の後悔と聖夜の夢

恋愛
  『スカーレット、貴様のような悪女を王太子妃にするわけにはいかん!今日をもって、婚約を破棄するっ!!』  王太子スティーヴンは宮中舞踏会で婚約者であるスカーレット・ランドルーフに婚約の破棄を宣言した。    この、お話は魅了魔法に掛かって大好きな婚約者との婚約を破棄した王太子のその後のお話。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※魔法のある異世界ですが、クリスマスはあります。 ※ご都合主義でゆるい設定です。

処理中です...