暴君に相応しい三番目の妃

abang

文字の大きさ
上 下
71 / 96

目に見えるものと見えぬもの

しおりを挟む

近頃社交界ではとある姉妹が噂に持ち上がっていた。

片方は品行方正、片方はそれはもう遊び人らしく、けれどとても仲の良い姉妹だと言う。

けれど遊び人だと噂の姉には婚約者がおらず、品行方正な妹はいつもを恋人として連れていた。


「へぇ」

「ドルチェ様、どうなさいましたか?」

ヒンメルと共に様々なパーティーに出席するうちに知ったいくつかの噂の中で近頃もっとも貴族達の関心を集めているこの噂が少し気になった。

特に派手では無いし、大きな家門でもないが貧困しているわけでは無く領地経営はどちらかと言えば上手くいっている方だ。
調べた所、遊び人の姉は商才にも長けているらしく、交渉や商談が好きだという。


「なのに、家門を継ぐのは妹なのね」

「はい。品行方正な生活態度が男爵を安心させるようです」

エスキュリー男爵家の当主は大人しく保守的な人だったはず。
その妻もまた大人しく人の良い人間だった記憶がある。
では本当に姉は妹に後継者の座も、婚約者も全て譲ってしまったのか?

それほどまでに仲の良い姉妹なのだろうか?

次のパーティーでは声をかけてみよう。
そう思っていた矢先だったーーー


「婚約?相手は妻に先立たれた74歳の伯爵でしょ?」

「はい……なんとも商団を大きくする為の政略だとか」

「そう」

今日婚約の発表があるのだと言うエスキュリーのパーティーに参加する手筈を整えて、付き添いのララとライアージェをとびきり美しくした。


案の定、この婚約は幸せなものではないようで、パーティーでは顔色の悪い姉とそれを心配そうに支える妹、哀しげな母と一応は平常を保っている様子の男爵が伺えた。

なるべく静かに入場するも、私の出席に騒めく会場、そして私を見るなり前に飛び出て床に頭をつけた一人の侍従。

初っ端からこのパーティはどこか変だった。

「なにかしら」

冷えた声色に静まる会場。

私をかばうように前に出たララとライアージェの「無礼者」「下がりなさい」と言う言葉以外には他に声を発する者は居ない。


ひどく驚愕したような男爵家の面々、別に今足元で頭を下げ続けているこの侍従が近づいて来る事に気づかなかった訳じゃない。

殺意や害意を感じれば別だが、面白そうだと思った。

魔力の纏い方で分かる、それなりの実力者なのだと。

よほど出生の身分が低いのか?見た感じの実力ならば高位貴族に雇われる事だってできる筈だ。強い人材は用心棒役としてだけでも好まれる。それでもこの男爵家に留まっている理由は何か……


「お嬢様を助けて下さい……っ!!ぶ、無礼は承知です……!」


「リース……っ」

遊び人の姉、ジェシカは私の足元の男をそう呼んだ。

今更、慌てて駆け寄って来る者達を静止して「何から、誰を助けるの?」と意地悪くも尋ねると頭を上げぬままリースは悲痛な声で半ば叫ぶように訴えかけた。


「ジェシカお嬢様を、お救い下さい!」

「お姉様は幸せになるのよ、リース」

まるで小動物のような女性、品行方正な妹ミレイユはおそるおそるといった様子でリースに近づいて来てそう言った。


その言葉に何故か崩れ落ちて泣く夫人と、慌てて私の元に駆け寄って無礼を謝罪する男爵とジェシカ……まだ入場しただけだというにも関わらずドルチェの存在は大きくこの場を動かしてしまったようだった。


とりあえず、パーティーの進行をミレイユと夫人に任せて、当事者であるリースとジェシカ、そして当主である男爵との三人を連れて場所を移した。


別室でまずドルチェが声をかけたのはリースだった。


「リースだったわね?先程のはどう言う事かしら?」

「殿下、大変なご無礼をお許し下さい。けれどもお嬢様を救えるのは妃殿下しかいないとあの瞬間に思ったのです」


「一体どう言うことだ、リース、ジェシカ……!」

思わず話に割り入るほど混乱している様子の男爵の肩に手をそっと添えて宥めたジェシカは「説明は私が……」と固く閉ざされた口を開いた。


「我が家には早急にお金と、実績が必要なのです」

ジェシカの説明した内容はあまりにも悲しい話だった。
姉妹愛と言って仕舞えば綺麗だが、彼女は犠牲になったのだ。


しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。

新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」 「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」  新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。  わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。  こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。  イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。  ですが――。  やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。 「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」  わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。  …………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。  なにか、裏がありますね。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。

碧野葉菜
恋愛
フランチェスカ家の伯爵令嬢、アンジェリカは、両親と妹にいない者として扱われ、地下室の部屋で一人寂しく暮らしていた。 そんな彼女の孤独を癒してくれたのは、使用人のクラウスだけ。 彼がいなくなってからというもの、アンジェリカは生きる気力すら失っていた。 そんなある日、フランチェスカ家が破綻し、借金を返すため、アンジェリカは娼館に売られそうになる。 しかし、突然現れたブリオット公爵家からの使者に、縁談を持ちかけられる。 戸惑いながらブリオット家に連れられたアンジェリカ、そこで再会したのはなんと、幼い頃離れ離れになったクラウスだった――。 8年の時を経て、立派な紳士に成長した彼は、アンジェリカを妻にすると強引に迫ってきて――!? 執着系年下美形公爵×不遇の無自覚美人令嬢の、西洋貴族溺愛ストーリー!

処理中です...