暴君に相応しい三番目の妃

abang

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あなたに許しを乞うてないわ

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ヒンメルと席に着くと次々に挨拶に来る貴族たちと何度も形式的な言葉を繰り返す。
うんざりした表情を隠さないヒンメルにレントンはまた少し怒って、大体の者が挨拶を済ませたのを確認するとヒンメルへそれを伝えた。


「それでは皆、楽しんでくれ」


抑揚のないヒンメルの言葉と共に音楽は踊りに合うものに変わり、人々はそれぞれの人脈作りや恋人探し、単純に踊りを楽しむ者と其々の楽しみ方で楽しみ始めた。


席のすぐ後ろの扉の奥の休憩室ではきっと三人が遊びたくてうずうずしているはずなので、レントンにお願いして連れて来てもらうことにして、念の為ヒンメルのことを誘う。



「社会勉強、あなたも来る?」

「いや。だがこれを着ていけ」


ヒンメルは自らの上着をドルチェの肩にかけて眉を顰める。


「なぜいつもそう薄着なんだ」

「自分の美しいと思う所を隠す理由が無いわ」

「……まぁいい、着てろ」


ヒンメルはドルチェのこういった部分も気に入っているので迂闊にこれ以上の文句を言えずにいたが、そんな気など知らぬドルチェはレントンが連れて来た三人と目線を合わせる。


「いい?陛下の許し無しで誰も殺してはダメ」

「「うん」」

「はい」

「あんまり私から離れないでね」

「「「分かった!!」」」

「作法は分かるわね?」

「「「……」」」

ドルチェの問いに三人は顔を見合わせてから自慢げに礼をする。
足音を抑えて美しい姿勢を披露し、一回転して見せると得意げなレイとフィアの手を繋いでフェイトが照れ臭そうに笑った。


「行こう、ドルチェ様」

「ふふ、そうね」


少し会場内を歩くと、見たことのない景色に夢中な三人はドルチェが貴族と言葉を交わしている間も離れ過ぎない距離で遊んでいる。


「あら、殿下は有力な者達の教育までなさっているのですね」

「ティランド公爵夫人、あの子達は私の宮の者よ」

「見れば分かります、力を持つ子達ですね」


友好的な会話にも聞こえるが、その目線は品定めするようにドルチェの全身をさりげなく往復している。


「ええ、毎日が楽しいわ」

「お忙しいのですね、女の幸せは愛される事。貴族となれば政略結婚も多く難しい部分もありますが」

「いえ、暇なくらいよ」

「陛下との夜は命懸けだと聞きます……昼夜問わず働かなくてはならない妃殿下のお身体が心配ですわ」


ティランド公爵夫人はさも本当に心配しているかのように眉を下げ、緩む口元を扇子で隠す。

これでは夜は皇帝の娼婦、昼は人財の教育係として昼夜労働を強いられているような言い方。
彼女の言う「愛される妻」が蝶よ花よと大切にされることを言うのならばドルチェはまるで奴隷だと言いたいのだろう。


「妃殿下、弱者への扱いを許してはいけませんよ?」


親切で言っているのだとでも言いたげなティランド公爵夫人。
周りで彼女に賛同し、盛り上がる夫人は達の目は厭らしく歪んでいて笑顔には見えない。


「私だったら許せませんわ」と段々調子付くティランド夫人はおおよそ娘か夫にでも私に社交会で恥をかかせてこいとでも言われているのだろう。


(幼稚ね)


「貴女に許してもらう必要は無いわ」

「はーー?」

「聞こえなかった?貴女の許しは不要よ」


ドルチェの開いた扇子の余りの豪華さに目が眩む。
惜しむことなく金糸と宝石を使ったそれはどう見てもヒンメルからの重すぎる想いが込められている。

ティランド夫人や、その他の婦人達の身が震える。

四方八方から突き刺さる殺気、それは会場内で其々楽しんでいる筈の皇妃宮の者達の視線だった。


「私をどう扱おうが、ヒンメル次第」


「よ、呼び捨てにするなんて……!」


「生かそうが、殺そうが、彼になら委ねてもいい。皇帝ではなく、ヒンメルにならね」


少し目立ってしまっていたのだろうか、どうやら周囲の視線はこちらに釘付けになっているようで、何処か嬉しそうなレントンに宥められる三人と、満足そうなリビイルの表情が窺えた。

周囲が騒めいて背後に感じるヒンメルの気配。
皇座を護衛するレンと待機するララは殺気を収め、唐突に静まった会場でくつくつと笑うヒンメルの声だけが響く。


「光栄だな、ドルチェ」

「そ、本音よ?」

「ならもう少し甘やかさせてくれるか?」

「なにを……」

「どうやら俺が妻を奴隷のように働かせていると、誤解されているようだからな」


まるで今にも殺しそうな目でティランド夫人を見下ろすヒンメルにとうとう震える手から扇子を落とした夫人は、力が入らないのか、かくりと時々不自然に膝を折りながら慌ててその場を去った。


「それと……皆、言葉は選んだ方がいい」


愉しそうに目を細めるヒンメルが視線でゆっくりと皇妃宮の者達をなぞる。
そして「お前達じゃコイツら相手に十分ともたないな」と少し考え耽るヒンメル。


大切そうにドルチェをエスコートするヒンメルの姿を見て、一人の夫人がぽつりと溢す。



「誰が……皇帝の情婦だと言ったの?どう見ても陛下は殿下を愛されてるわ……」
















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