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染められるものならばどうぞ
しおりを挟むドルチェのドレスは行事の開催に合わせて定期的に仕立ててある為に何となくの色味やデザインを知る事が出来る。
だが直前で買い足したものや、その他の皇妃宮の者達がどのような装いで付き添うのかまで把握する事は不可能。
なので、流石にレントンも予想していなかったーー。
皇妃宮から本城までの短い距離にも関わらず、まるで有り余る魔力を見せつけるように転移魔法で到着したドルチェ達一行のあまりにも目立つ到着に思わずレントンまでもが驚いた。
ドルチェに付き添うララも、社会勉強の為にヒンメルから出席を許された三人の子供達もその世話係のメイドも黒を基調とした正装をしており、まるでドルチェの所有印のようにアイオライトの装飾が着けられている。
後ろで護衛するリビイルとレンもまた同じ色味で統一されており、リビイルの指輪やピアス、レンの仮面にもアイオライトがふんだんに使われていた。
深くスリットの入ったワンショルダーの黒のドレスに身を包んで、金の装飾品で統一したドルチェは一見シンプルだが、全てヒンメルが贈った特級品ばかりだ。
周囲の貴族達は騒然としたり、見惚れたりと忙しそうだ。
魔法で収納すれば良いものの、あえてホルダーを購入したという情報を知る限り、きっとあの美しいドレスの何処かにヒンメルが送ったいつかの小銃が忍んでいるのだろう……。
いくつかの家門の令嬢達は、ヒンメルの髪色に合わせて白いドレスを着ているが、それこそ変わり映えしないアピールの方法だとレントンもヒンメルも飽き飽きしていた所だった。
ティランド公爵令嬢、彼女もまたそうだったーー。
美しい白金の真っ直ぐな髪に綺麗に分けられた前髪。
白のドレスがよく似合う清廉な雰囲気と、所作。
金と白の豪華な馬車で先に到着していた彼女は使用人に高級品を着せたり、太ももを見せる事もない。
貴族の令嬢らしい女性だ。
「皇妃殿下、ごきげんよう」
「ごきげんよう。ティランド公女」
思ったよりも早い二人の接触に、ヒンメルの使いでドルチェ
を出迎えにきたレントンは冷や汗をかいた。
「何かある、見張っておけ」なんて柄にも無い事をヒンメルが言うものだから来てみたものの、ひしひしと感じる笑顔の裏の敵意。
一方、敵意を向けられているドルチェ本人は微笑みを崩さず飄々としているが、危ういのは幼く自制が効かないレイとフィアだ。
それを感じ取ったのかドルチェが二人の頭を撫で、フェイトに「先に休憩室へ行って遊んでてくれる?」と機転を効かせる。
そんなドルチェを見下すような瞳で、自慢するようにドレスの生地を持ち上げたティランド公爵令嬢は綺麗に微笑んだ。
「陛下の髪色に合わせました。真逆の黒色の殿下のドレスも素敵ですね。よくお似合いですわ」
淑やかに微笑むティランド公爵令嬢の言動はきっとワザとだ。
けれど、私が遅いからか、ドルチェ様を待ちきれなかったからか、降りて来たヒンメルによってティランド公爵令嬢の言葉は止まる。
「ドルチェ、遅いな」
「ごめんなさいヒンメル、少し寄り道を」
「寄り道とはコレか?」
「ふふ、ドレスを褒めて貰ったわ」
波風を立てないつもりか、意図が伝わっていないないのか、穏やかに微笑むドルチェの行動の理由を思案していると、次に振り返ったドルチェの髪から香る甘美な香りと瞳にゾクリと栗肌立った。
「黒にしたのか、似合うな」
「ええ。あなた、白はあまり着ないでしょ?」
「ーーえっ!?」
自然にドルチェ様を引き寄せるヒンメルの腕、ドルチェの言葉にハッとするティランド公爵令嬢。
そして、思わず口角の上がった自分。
白髪のヒンメルは白よりは黒の装いを好む。
派手よりはシンプルな物が多いし、今日の装いとて黒だ。
間接的に「負け」を宣告するドルチェの手法の鮮やかさには本当に感服する。
負けじと「白にはあなた色に染まると言う意味もありますの」と意地らしく、頬を染めて言うティランド公爵令嬢にヒンメルが適当に「そうか」と相槌を打つとドルチェの腰を抱いて歩き出す。
「でも、それでは使用人達も陛下と合わせた装いになりますわ」
なんとか引き止めようとティランド公爵令嬢が吐き出すように慌てて言葉を投げかけるが、キョトンとした表情のドルチェが「だめかしら?」とヒンメルに投げかけるだけで「いい」と解決してしまう。
「私達は、誰の色にも染まらないという意志があるの」
「陛下を前にして傲慢では?」
「じゃあ、この白い髪があなた色に染まるとでも言うの?」
ヒンメルの髪に手櫛を通しながらくすくすと笑うドルチェの瞳は笑っていない。
「そっ……!そういう訳じゃ……申し訳ありません考えが至りませんでした。言動には以後気をつけますわ……」
分が悪いと見たティランド公爵令嬢はすぐに身を引いたが、地面を見つめる瞳は暗く濁っていたように見えた。
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