暴君に相応しい三番目の妃

abang

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オーレンの新しい身分

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「遅いですよ、お二人とも」


「ふ、ごめんなさい。レンは呼んでおいたわ」



やはり眉を吊り上げているレントンにドルチェがなんだか安心して笑うと、ヒンメルは思っていたよりも嫉妬深いのかこういう些細な事にも反応し、私を膝の上に乗せた。



「それじゃあドルチェ様の仕事が捗りませんよ陛下」

「……黙ってろ」

「ふふ、大丈夫よ。このままでも」



呼び出しに応じ、後から来たレンはその光景に驚くことこそ無いが少しだけ呆れたような目をして何事も無かったように勧められた席に着いた。


「今空いた伯爵位をお前にやる。騎士団での功績と皇妃の護衛での功績を考え、時期をみて陞爵させる」


「ーー何故でしょうか?」


「役に立て。それだけだ」



ヒンメルがドルチェの髪をを大切そうに撫でながらそう言った事によってがはっきりした。


確かに、今後もしも皇后になるのだとすれば皇帝以外の貴族の後ろ盾も必要となるし、いくらレントンが高位貴族とはいえ手札は多い方が良い。

どのみちレンはオーレンとして爵位を継いでいたので、貴族としての立ち振る舞いも完璧である。
確かに適役ではあるのだ。

そういった意味で異例ではあるものの、功臣として空いた伯爵位にレンを立てることはヒンメルにとって決定事項のようでらドルチェもレンならば間違いないだろうと思った。


それに、ヒンメルは暴君。
彼がそう決定したのならばもうこれは決定事項。



レンは席を立つと、ヒンメルとドルチェの足元に膝を付いて騎士の誓いを立てた。

ヒンメルがいつかドルチェを皇后にしたいのだという意思も勿論ドルチェを除く二人には伝わっている。


「……謹んでお受け致します。陛下に感謝致します」



その表情は一見冷ややかだが、確かに満足そうに目を細めたヒンメルにレンは胸を撫で下ろした。


どうやらそれが三人だけの世界になってしまったようで、ドルチェがそろそろ良いかしら?と言わんばかりに手を小さく合わせ、ぱちんと鳴らせた。



「さて、まずはこの大陸をちゃんと一つにしなきゃ」

「一つに……?」

「ドルチェの言う通り、どちらにせよ向こうは成り立っていない」

「ちゃんとした先住の者が居るのか調査中です」


息ぴったりな三人に少しばかりレンは嫉妬した。
これほど毎日ドルチェに仕えているというのにまだ、届かないのかと思わず悔しんでから見の丈に合わない考えだと自分を内心で諌めた。


身分だけではない。彼らは実力もまたドルチェに相応しい人間なのだから。


(いつか、私もドルチェ様のように……)



やっと膝から下ろして貰えたのか、椅子に優雅に座るドルチェはレンの姉だった女性とは違う。
暴君だが愛情も自由も与えてくれる人だった。

想像していたよりも遥かに充実した毎日を送り、好きな事に没頭しながら尊敬できる主人を自分の意志で護るこの生活がレンは好きになっている。

皇妃宮では、使用人もドルチェが可愛がっている子供達もとても幸せそうに見えて、自分もその一人なのだから。

案外とまともな会議をする会話を聞きながらも、必ず役に立とうと心の中でレンは意気込んだ。


「あ、そういえば……」

「なんだ?」

「仕立て屋を呼んで欲しいの、かなりの出費になるわ」

「いくらでも呼べば良い」

「ありがとう、ヒンメル」


ドルチェは特に派手な買い物をする方ではないのに珍しいと思っていると、やっぱりヒンメルも気になるようで「欲しいものが?」と聞いた。

「ええ、子供達の成長が早くて。それとレンも貴族になるなら幾つか仕立ての良いものを持っておかないと」

「えーー、私ですか?」

「そうよ。また後で日時を送るわね」

「ーーっ、はい!」

何となくつまらなさそうに見えるヒンメルをレンが気にかけていると、ドルチェは穏やかな顔のレントンに微笑みかけてから「ヒンメル」とよく通る声で呼んだ。


「なんだ」

「今日は良かったら皇妃宮うちに寄って頂戴」

「……」

「駄目かしら?」

「行く」


情婦と揶揄されていることなど気にもしていないようで、ドルチェはたびたびヒンメルを宮へと誘う。

けれど、彼女を知る者なら知っている。
それが別に色事を示すことではないのだと。

ヒンメルもまた分かっていながらもつい期待をしてしまう自分に苛立つが、どんな形であれドルチェと過ごせる時間を楽しんでいた。

そしてヒンメルが皇妃宮で過ごす日を楽しみにしているのもドルチェはちゃんと分かっている。


「レイとフィアが会いたがってるの」

「……あの餓鬼共はうるさくて堪らん」

「ふふ、あれでも慕ってるのよ貴方のこと」


ほんの少しだけ上がったヒンメルの口角にまたドルチェは心の中に小さな火が灯るような暖かさを感じた。






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