暴君に相応しい三番目の妃

abang

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アンドラの怒りと教育

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あのまま逃げ帰ったアンドラの王女は、王である父と王太子の兄に泣きついたらしくすぐに抗議文が届いた。


それを見事に灰にしたヒンメルはアンドラの「帝国に水晶石を輸出しない」との言い分が可笑しくて笑った。


「ドルチェに子を愛しむ情があれほどあったとはな」

「ドルチェ様は過激ではありますが、お優しいでしょう」

「知ったような口を聞くな」

「はいはい……」



レントンの椅子をコツンと蹴ってから「さてどうしてやろうか」とあの枯れかけた島国を考える。


(島ごと沈めるのはドルチェの反感を買うだろうしな)

(まさか、陛下なら島ごと沈めるんじゃ……)



レントンが微妙な顔つきで此方を見ているので、何かと問えば「アンドラを沈めるのか」と尋ねてきたので、流石に親友で側近ともなれば思考も似てくるのかと関心した。


(だがーー)


「いや、得策じゃない」

「……頭でも打ちましたか?」

「アレは女子供に優しすぎるからな」

「アレ?」

「黙って仕事しろ、この件はドルチェにでも任せる」



普通の妃にこんな事を任せるなどと言えば、無理難題を押し付けたと思われるだろうが、相手がドルチェなのだ。


彼女ならきっとこれが、皇妃としての手柄と皇帝からの信頼だと受け取るだろう。


こうして自分の意図を簡単に汲み取ってくれるところもまた、ドルチェの心地よい一面でもある。


(まぁ……餓鬼どもの教育には驚いたが)


あの後、怯えて動けなくなり、泣き崩れる王女が床に芋虫のように寝そべってもがくのに足を乗せたドルチェが呆然とする双子に笑顔で「こう言う時は、?」と言い聞かせた瞬間、俺は鳥肌が立った。



子供の教育とすれば、帝王学よりももっと過激な、名付けるならば暴君学ともいえるだろう非常識なものだが、何故かドルチェから愛と慈悲が溢れ出てているように見えた。


とてつもなく美しい生き物を見た瞬間でもあった。


あの瞬間、ドルチェは確かにとても怒っていた。

綺麗な笑顔を崩さないまま、その瞳は「愛し子」の心を傷付けた目の前の取るに足らない女に怒りを露わにした。



その癖に温度を感じさせない華麗なやり口。

穏やかな声色。


暴君と呼ばれる俺ですら驚かされる、奇異な行動。

けれど何故かいつも胸がすっきりするのだ。

感情をあまり露わさなかったあの双子の餓鬼の瞳からボロボロと涙が流れるのを横目に、あまりにも美しい女にぞくりとした。



それに、暴れるだけの馬鹿とは違う。


聡明でもある彼女が短い間にこの皇宮に培ったものは、どれも強固である。



俺が居なければ半減する本城の防御は例えばその上でレントンも居なければもう普通の城より少し強いだけのものだが、


それと違ってドルチェの皇妃宮はこの帝国一の防御力を誇るだろう。それに、どの妃にも苦い顔をしていたレントンがこうも簡単に陥落しているのだから大した者だ。


「ヒンメル、使いが来たわ」

「本城で魔法を使ったのか?」

「歩くのが面倒で……」

「レントン、探知は?」

「正常な筈ですが……」


この本城で魔法を使える者は、俺とレントンのみ。

その他は万が一使えても感知され居場所が特定されるはず。


「あ……」

「ふふ、気付いた?」

「なるほどな。俺の所為か」

「貴方が昨夜離してくれなかったお陰で、まだ



よく見ればドルチェの魔力に混じり込む自分の魔力。

この所為で結界が感知し難かったのだろう。

ある意味精巧にヒンメルの魔力を汲み取っているともいえるが、なにより異質なのはドルチェのこの体質なのだ。


「まぁいい……ドルチェ、アンドラの件を任せる」

「私で良いのかしら?」

「少し距離がある。自ら足を運ばずとも上手く処理さえ出来ればいい」


これではまるで自分が寂しいようじゃないかと言ってから後悔したが、レントンのニヤケ顔がまた更に効果させた。


「すぐに帰ってくるわ」


そう言って、初めこそ猫が毛を逆立てるように警戒していた癖にもうすっかりと膝の上に慣れた様子のドルチェが、軽く俺の膝に腰掛けて頬に挨拶のキスを落とした。



そのまま扉に向かう後姿から目を離せずにいる俺は、柄にも無くドルチェが遠くに行くのを不安に思っている事をもう否定出来なかった。



「ドルチェ」

「ん?」

「すぐに帰ってこい」

「ふふ、仰せのとおりに」




すぐに引き止めたくなる反面、ドルチェがどのようにアンドラを手中に収めてくるのかが楽しみでもあった。



数日後、ドルチェは少数精鋭を引き連れてアンドラへと向かった。






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