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悪意と害意と帝王学
しおりを挟む「見て、色無しの子供よ」
「何より自己治癒力のある聖者なんですって」
皇妃宮を出れば時たま聞こえてくるそんな言葉には二人とも慣れている。
陛下は怖い人だけど、偏見なく接してくれるので自然と周囲も僕たちに良くしてくれるようになったが、一定数、信仰の強い者ほどこの思想を持つ人達は居る。
(まぁ、しょうがないよね)
(レイ、また元気ない顔してる……)
どうしてもドルチェ様だとやり難くて、手合わせをしたい時には周りに居る強い人を探すのだが、今日に限って皆忙しそうで捕まらない。
「やっぱり陛下しかいないかな?」
「ドルチェ様に怒られるよぉ」
「あ、何あれ?」
「お姫様?なんか豪華だね!」
キラキラとドレスの裾を持つのを手伝って貰わないと動けないほどの豪華なドレスを着た女の人。
皇宮のお客様だろうか、フィアが「わあ綺麗な宝石」と指差したブローチには見覚えがあった。
「聖晶石……」
「あ……っ」
ドルチェ様や陛下の魔力が底なしに多いのと似たようなもので、僕たちの聖力もまた底は勿論あるけど膨大に多い。
それをひたすらとあの水晶石に込めさせられたのもまだ遠くない記憶だ。思い出したのかフィアの瞳から光りが消えて慌てて僕はフィアの手を強く握った。
「信者かな」
「アレがどうやって出来たのかも知らない癖に」
忌み子という扱いを受けてきた僕たちを気味悪がる癖に力を私物化しようと水晶石に毎日限界まで聖力を込めて絞り取らされた。
フィアは限界を越えて三日起きなかったこともある。
「あら、可愛い子供ね」
「「ありがとう」」
「私は遥か遠く海を渡った島国、アンドラの王女よ」
授業で習ったことのある地名に二人で顔を見合わせた。
アンドラは水晶石の採れる島だったが、近頃は採掘量が減り小さな島国の立場が危うくなっているのだと習った。
何か陛下にお願いがあるのだと察して面白そうなので付いて行く事にする。
「「よろしくね王女さま!」」
謁見室に近づくに連れて、陛下だけじゃなくドルチェ様の魔力を感じて嬉しくなる。
お客様の謁見の為に陛下から呼び出されただろうドルチェ様が、興味なさそうな顔で椅子に座ってる事を想像してフィアと口元を緩めた。
「アンドラの聖女が、皇帝陛下に謁見申し上げます」
そう言って礼をしようとした王女さまは自分の持て余したドレスの裾が靴先に引っかかって転んでしまった。
「あっ……、申し訳ありませんっ」
ドルチェ様に至っては王女さまより僕たちを見て目を見開いているし、陛下の表情は……変わらないから分からない。
「私が治してあげる」
フィアが王女さまに手を差し伸べると、動揺している王女様の爪が頬を掠った。
ドルチェ様が「フィア」と心配そうに声をかけると、僕たちはドルチェ様に安心してほしくて笑いかけた。
「大丈夫だよ、このくらい自分で治せるから」
フィアが自分で頬を治療すると、「偉いわね」と誇らしげなドルチェ様や、関心するような陛下とは違って王女様の表情は見る見るうちに険しくなって僕達を拒絶するように悲鳴をあげて先の尖ったヒールで近くにいたフィアを蹴った。
「「!!」」
「フィアっ!」
「陛下っ……忌み子が紛れ混んでおりますわっ!!」
この程度どうって事ない。けれど心はどうしたって痛い。
「何をしたか分かっているのか?」
陛下のいつも通り抑揚のない声がそう言うのが先か、ドルチェ様が席を立ったのが先か、フィアを抱き上げて僕の手を掴んだドルチェ様は「もう重いわね」と笑うと魔法で浮かせてドルチェ様の椅子に僕達を座らせて「忌み子をそんな所にっ!」と騒ぎ立てる王女さまの腹を、蹴った。
「ーう"ぁ」
「先が尖って無くてごめんなさいね」
「いいのですか……?親交を深める為に参ったのですよ、私は」
「馬鹿ね。水晶石が採れなくなってるんでしょ?で、親交を深めて来いと言われたの?」
「ーっ!そんなことは……っ」
「この子達は忌み子じゃないわ、恵まれた子で、私の愛し子よ」
「「ドルチェさま……」」
フィアも僕も何故か涙が止まらなかった。
陛下が笑っているところを見ると、きっとドルチェ様は恐ろしい事をするのに、ドルチェ様が会ったことも、見た事もないお母様に見えた。
「そんなに信仰が大切なら、何処かで僧侶にでもなりなさいな」
王女様の見事な蜂蜜色の髪が一気に燃え上がった。
陛下が「煩い」と音を遮断したおかげで悲鳴は聞こえない。
だからまるで踊っているように見えて可笑しくて二人で笑った。
次の日から僕達の形容する「忌み子」という言葉は消えて
代わりに「皇妃の愛し子」と呼ばれるようになった。
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