暴君に相応しい三番目の妃

abang

文字の大きさ
上 下
48 / 97

妹の役目と兄妹の絆

しおりを挟む

シェリアがいつもの方法で私の評判を傷付けている事は想定内だ。あえて「側妃候補」にしたのは次々と命を落とすその地位に就かせて危機感を煽る為。



窓の外では子供の遊びと言うには過激な魔法を使って組み手をする双子のフィアとレイ、当たり前のようにそれを受け入れて遊ぶフェイトの実力がめきめきと上達しているのを微笑ましく眺めながら、ドルチェは独り言のように呟いた。



「力が全て、そう言っても過言ではないこの世界でもし、私の子が強者では無かったら?」


「そんな事はあり得ません、陛下とドルチェ様では天地が返ってもそのような事は起きないでしょう」


「何があるか分からないでしょ?でも、を掛けられるとしたら?」


「保険?」


「魔力の無限貯蓄、私にとっては日々の些細な貯金のようなものね。私の万が一の武器にもなるし、子に譲ることもできるわ」




(それに、あれはお祖父様とお祖母様から貰った唯一の物)



唯一、私を認めてくれた祖父母は自分達ですら魔力の消費が惜しくて使い熟せ無かった代物を私に託した。

ヴァニティで一番優秀な者に譲り渡されるその指輪は、機能以上にその名誉が掛かっていた。


跡取りである兄にと両親に取り上げられたその指輪を取り戻すには兄に会う必要がある。




「そんな物が存在するんですか!?」

古代兵器アーティファクトのようなものね」

「兄君はアカデミーでは?」

「ええ、アカデミー内に入るには複雑な手続きが必要だし、追えばあの弱虫は逃げる筈よ」

「では、どうやって……」



思わず口角が上がる、シェリアが此処に来てヒンメルに興味を持ったのは好都合だった。


兄と妹、そう言うにはあまりにも複雑な感情をシェリアに抱いている兄は命の危険がある皇帝の側妃候補などという地位にシェリアが就いて、虐げられていると聞くと飛んで来るだろう。


長い間、愛なんてもので縛られた愚かな私を舐めていることも違いないし今、彼が怖いのはこの地位だけ。


だからシェリアを同じ舞台に立たせてあげた。


「今に声高らかに側妃の兄だと抗議しに来る筈よ」



次期当主の証だと見栄をはって肌身離さない、使えもしない指輪をぶら下げて来るはずーー。




何があったのか、シェリアは数日もしない内にすぐに兄へと手紙を書いたとララから聞くことになった。



(思ったより早いわね、何かあったのかしら?)



もうすぐ卒業する筈の兄は必ず、シェリアの為に早期卒業をして帝都まで来る筈だ。アカデミーから帝都はそう遠くない。


そしてその予想は見事に的中し、長く待たずとも兄のアンドレオは皇宮を訪ねて来た。




「誰が来たと?」


一緒に温室で茶を啜っていたヒンメルが眉を顰めて、リビイルに聞き返した。


「ドルチェ様の兄君で御座います」


暫くの休憩時間を邪魔されて不服そうなヒンメルに「見に来る?」と尋ねると不思議そうな顔で頷いた。






「ふふ、きっと楽しいわ」

「そうか。レントン調整してくれ」

「はい。どうやら妹君も皇妃宮に向かわれたと……」


「良いわ、丁度良かった」


皇妃宮に戻ると応接室に通された兄のアンドレオとシェリアが怖い顔で待ち構えていてあまりにも予想通りで笑ってしまった。


おずおずとヒンメルへ形式的な挨拶をした後、人が変わったようにくるりと此方を睨みつける兄がやはり滑稽だ。



「何が面白い?ドルチェ」
 
「何しに来たの?」

「シェリアに相応しい座を譲るべきだろう」

「それをお兄様が言うの?」

「どう言う意味……はっ!」


大人しく傍観する姿勢を示したヒンメルにありがとうと耳打ちしてからアンドレオの首元からチェーンに通された指輪をそっと引っ張り出す。


「お姉様!ふざけないでよ!!!!」

「シェリア……」

「私をずっと虐げて!陛下達までも騙して!みんなお姉様は酷いって噂してる!!私が可哀想だって!!」

「そう……黙ってなさい、シェリア」

「はぁ!?」

「ドルチェ!!お前はどうしてそう醜いんだ!!」


喚く二人を魔法で圧しながら睨みつける。



「貴女は初めから眼中に無いの、静かになさい……」


「ねぇ、お兄様……」


「お兄様は、どうしてそれを着けていないの?」




しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

10年前の婚約破棄を取り消すことはできますか?

岡暁舟
恋愛
「フラン。私はあれから大人になった。あの時はまだ若かったから……君のことを一番に考えていなかった。もう一度やり直さないか?」 10年前、婚約破棄を突きつけて辺境送りにさせた張本人が訪ねてきました。私の答えは……そんなの初めから決まっていますね。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。 そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。 最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。 何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。 優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

処理中です...