暴君に相応しい三番目の妃

abang

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妹の役目と兄妹の絆

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シェリアがいつもの方法で私の評判を傷付けている事は想定内だ。あえて「側妃候補」にしたのは次々と命を落とすその地位に就かせて危機感を煽る為。



窓の外では子供の遊びと言うには過激な魔法を使って組み手をする双子のフィアとレイ、当たり前のようにそれを受け入れて遊ぶフェイトの実力がめきめきと上達しているのを微笑ましく眺めながら、ドルチェは独り言のように呟いた。



「力が全て、そう言っても過言ではないこの世界でもし、私の子が強者では無かったら?」


「そんな事はあり得ません、陛下とドルチェ様では天地が返ってもそのような事は起きないでしょう」


「何があるか分からないでしょ?でも、を掛けられるとしたら?」


「保険?」


「魔力の無限貯蓄、私にとっては日々の些細な貯金のようなものね。私の万が一の武器にもなるし、子に譲ることもできるわ」




(それに、あれはお祖父様とお祖母様から貰った唯一の物)



唯一、私を認めてくれた祖父母は自分達ですら魔力の消費が惜しくて使い熟せ無かった代物を私に託した。

ヴァニティで一番優秀な者に譲り渡されるその指輪は、機能以上にその名誉が掛かっていた。


跡取りである兄にと両親に取り上げられたその指輪を取り戻すには兄に会う必要がある。




「そんな物が存在するんですか!?」

古代兵器アーティファクトのようなものね」

「兄君はアカデミーでは?」

「ええ、アカデミー内に入るには複雑な手続きが必要だし、追えばあの弱虫は逃げる筈よ」

「では、どうやって……」



思わず口角が上がる、シェリアが此処に来てヒンメルに興味を持ったのは好都合だった。


兄と妹、そう言うにはあまりにも複雑な感情をシェリアに抱いている兄は命の危険がある皇帝の側妃候補などという地位にシェリアが就いて、虐げられていると聞くと飛んで来るだろう。


長い間、愛なんてもので縛られた愚かな私を舐めていることも違いないし今、彼が怖いのはこの地位だけ。


だからシェリアを同じ舞台に立たせてあげた。


「今に声高らかに側妃の兄だと抗議しに来る筈よ」



次期当主の証だと見栄をはって肌身離さない、使えもしない指輪をぶら下げて来るはずーー。




何があったのか、シェリアは数日もしない内にすぐに兄へと手紙を書いたとララから聞くことになった。



(思ったより早いわね、何かあったのかしら?)



もうすぐ卒業する筈の兄は必ず、シェリアの為に早期卒業をして帝都まで来る筈だ。アカデミーから帝都はそう遠くない。


そしてその予想は見事に的中し、長く待たずとも兄のアンドレオは皇宮を訪ねて来た。




「誰が来たと?」


一緒に温室で茶を啜っていたヒンメルが眉を顰めて、リビイルに聞き返した。


「ドルチェ様の兄君で御座います」


暫くの休憩時間を邪魔されて不服そうなヒンメルに「見に来る?」と尋ねると不思議そうな顔で頷いた。






「ふふ、きっと楽しいわ」

「そうか。レントン調整してくれ」

「はい。どうやら妹君も皇妃宮に向かわれたと……」


「良いわ、丁度良かった」


皇妃宮に戻ると応接室に通された兄のアンドレオとシェリアが怖い顔で待ち構えていてあまりにも予想通りで笑ってしまった。


おずおずとヒンメルへ形式的な挨拶をした後、人が変わったようにくるりと此方を睨みつける兄がやはり滑稽だ。



「何が面白い?ドルチェ」
 
「何しに来たの?」

「シェリアに相応しい座を譲るべきだろう」

「それをお兄様が言うの?」

「どう言う意味……はっ!」


大人しく傍観する姿勢を示したヒンメルにありがとうと耳打ちしてからアンドレオの首元からチェーンに通された指輪をそっと引っ張り出す。


「お姉様!ふざけないでよ!!!!」

「シェリア……」

「私をずっと虐げて!陛下達までも騙して!みんなお姉様は酷いって噂してる!!私が可哀想だって!!」

「そう……黙ってなさい、シェリア」

「はぁ!?」

「ドルチェ!!お前はどうしてそう醜いんだ!!」


喚く二人を魔法で圧しながら睨みつける。



「貴女は初めから眼中に無いの、静かになさい……」


「ねぇ、お兄様……」


「お兄様は、どうしてそれを着けていないの?」




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