暴君に相応しい三番目の妃

abang

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優しい姉などもうとうにいない

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アイオライトの瞳に見下ろされる。

家族で一人だけ違う色の瞳を怖いと思ったのはこれが初めてでは無かった。だからこそ姉を押さえつけて貶めたのだから。


どう見積もっても有能、容姿だって一目見れば分かる。
姉が魔力に恵まれた人物だってこと。

だからこそ気に入らなかった。

 
兄は唯一の跡取りで、姉はズバ抜けた魔力を持っている。
私には常に劣等感が付き纏った。

だがそれは母も同じだった。

外から嫁いで来たヴァニティの血を持たぬを持つだけの令嬢だった母は息子にも娘にも劣等感を抱いていた。


だからこそ自分に似た私だけを猫可愛がりした。

けれどそれすらも気に食わなかった。
母親がやけに情けなく感じてならなかったが、都合が良かった。



母を愛して止まない父も、私と同じように姉の潜在能力を畏怖する父や兄も、情けない母も全てが私の味方だった。


そして、そんな家族にと願うドルチェお姉様もまた好都合だったのにーー



(この人は、本当にお姉様なの?)



「シェリア?」

「ぁ……、ぇ……っと、その」

「可哀想に、こんなに震えて」


お姉様を見守るように佇む皇帝もまた、近寄れば近寄るほどに禍々しい魔力が触れて肌がピリピリとする。


直感的に、絶対に勝つことの出来ない強者に感じる恐怖。


お姉様は今までそれを必死で抑え込んで来たのだろうか。今は惜しみなく放つソレがお姉様を絶対的な君主として暴君の妻に相応しい皇妃たる姿にしている。


差し伸べられた手に思わず肩を揺らせた私をくすりと笑ったお姉様が憎たらしくてぎゅっと拳を握りしめた。



(お姉様如きが、調子にのらないで……っ)


「お姉様っ、私、第二妃殿下はお姉様ととても仲良しなのだと思って……!信じていたのに……っ!」


泣き崩れた私に形の良い唇が寄せられる。



「お掃除手伝えて、偉いわシェリア」

「ーっ、」


わざとらしく哀しげな表情を披露したドルチェお姉様に皆が丁度を合わせるように「お可哀想に!」「姉妹の仲を引き裂くなんて」とアエリ妃をチラチラと見ては責め立て始める。



「側妃ともあろうお方が皇妃殿下の妹君を貶めるなんて……」と言った言葉に触発されたようにアエリ妃が攻撃魔法を放つ。


チャンスだと思った。


震える脚で、目一杯の見栄を切って瞬間移動の魔法を最速で使い、その者の前に庇うように両手を広げて自らをある程度の力で防御しながアエリ妃の魔法をわざと受けた。




これでお姉様は、実質に身体を張って協力した私を無碍にはしないだろう。


そして……



「皇妃の親族を攻撃するなど、とち狂ったか第二妃」

「はっ……陛下、私は、私があなたの寵妃だった筈……っ」

「そんな事を言った覚えは無い」

「でも……っ」

「お前を側妃の座から降ろし、公爵家へと帰す」

「嫌よ!陛下!私達上手くやって来たじゃ……っひぃ!!」



恐ろしい目でアエリ妃を見下ろした陛下に正直身震いしたが、ヴァニティの血がそうさせるのか強い彼の魔力がひどく魅力的に見えた。




「あ、の……それなら側妃候補として私を此処に置いてくれませんか?」


「……シェリア」

「ドルチェの好きにするがいい」



「お姉様の役にも立ちます、多くは望みません!ただお姉様が心配なだけなんです……!!」



他国の見知らぬ貴族を庇い負傷し、

姉の恋敵に利用され、

それでも姉の心配をする愛らしくも健気な令嬢を世間は同情の目で見るだろう。


姉のモノを全て奪うまでは国に帰らない。

そう決めた。



ドルチェお姉様の青ざめた顔が見たくて、わざわざ涙目で顔を上げて見てゾクリとした。


口角を上げ、狂気的に笑う姉が見下ろしていたからだ。

まるで「待っていました」と言わんばかりに愉しそうに笑うドルチェを愛おしげに見守る皇帝にも寒気がした。


「あ、やっぱ……」

「いいわよ」

「へっ……あのっ私、」

「おいでなさいシェリア」

「……はは、嬉しいわお姉様」



くすくすと笑うドルチェお姉様は腰に添えられた皇帝の手に指を絡めて見上げると「側妃の宮を用意してあげてもいい?」とまるで気楽に尋ねる。



「ああ、好きにしていい」

「ありがとう、ヒンメル」



「栄誉にあずかり、光栄です……皇妃殿下」



「気を付けるのよシェリア」

「……」

(さっきから偉そうに……けど震えて動けない)




「此処では自分の身は自分で守らなきゃならないから」


ーーきっと、殺される


そう感じて、私の意識は暗転した。


けれど何処かでまだ自信が残っていた。

私はお姉様よりも愛される才能があるのだと。




















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