暴君に相応しい三番目の妃

abang

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騎士選抜試験 

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ヒンメルが第二演舞場を貸してくれたのは意外だったが嬉しい誤算だった。



良く整備されている場内には想定よりも多い志願者。



真剣な面持ちで此方を見上げる者、ただ真っ直ぐ足元に視線を向けて目を合わせず静かに佇む者、ニヤニヤと下卑た笑みで此方を見る者やヘラヘラしている者、怯えている者と様々な者達が皇宮の第二演舞場に集まった。



別に軍隊ほどの人数を揃える必要もないだろうと、

皇妃宮の近くには騎士の宿舎を数十名程度の定員で建てたがこれならもう少し多くても良かったかもしれない。



軽い面接と、演習をする予定の今日。
彼らの指導役は勿論団長となるオーレンである。


隣で驚くほど冷ややかな表情で立つリビイルもまた皆を纏める役割であるが彼らにはただ「殺すな」と伝えてある。


彼ら、とはオーレンを除く彼らのことでそのもう一人は私の隣でいつも通りの表情をしているララである。



オーレンは案外、衝動や感情で行動する事は無いので
心配なのはリビイルとララなのだ。

とにかくアエリの義弟だと思えないほどオーレンは心優しいのだ。



先日も騎士服を仕立てに行くのに同行していたオーレンは、現在はメイドとなったライアージェに街中でまんまと詐欺にあったばかりである。


「彼、大丈夫かしら……リビィお願いね」

「安心して下さい」


壇上に上がり、軽い形式的な挨拶を済ませる。


「これから選抜された者は皇妃専属の騎士団となるわ、異論無ければこのまま試験を受けて頂戴。皆、期待してるわ」



「質問のある者は今申し出て」



おずおずと手を挙げた気弱そうな女性と、真面目そうな男性。



「あ、あの……宿舎があるの聞いたのですが……っ」

「住み込みで働けると聞きました」



見た所どちらも貴族の出に見えるが訳ありだろうか?
それか、宿舎での生活に抵抗があるのだろうか、



「遠くなければ、出勤でもいいわよ。強制しないわ」


「「いえ!」」


「……そう、なら良かったわ」


全力で否定する二人に不思議に思いつつも他に挙手する者が居ないのを確認して試験を始めようとした所で、さっきから卑しい笑みを向ける数名の者達が揶揄うような声色で尋ねてくる。




「妃殿下はと言われていますが、俺たちにもご褒美ってあるんですか?」


「やだぁ、やめなさいよ。隠れてするものでしょ~」


「金は勿論だが、後ろ盾もない力無き皇妃に仕えてやるんだから勿論タノシマセてくれるんですよねぇ?」




男女数名、身なりから傭兵出身だろう彼は明らかに舐めた様子で此方を見くびっているようだ。


「楽しませるって



一瞬で静まり返り、腰を抜かした女と足元を濡らす男、目の前には先に発言した彼らの仲間だった、今は首の無い男。


重くて鈍い音がして、赤が舞う。


「あら、可哀想に」


「ひっ……!」

「きゃ……やめ、ごめんなさいっ!!!」


「赤子は要らないの、それと、力の差を推し量ることが出来ないその程度の者もね。あなた達は帰った方がいいんじゃない?」



戦闘体制になった他の仲間らしき男達を最も簡単に軽めに痛めつけると、慌てて逃げ出して行った。


その者達の後を追い場内から逃げる様に出ていく者達の騒ぎように首を傾げてから「じゃあ、試験を始めてね」と面接の部屋へと先に向かう。



(情婦と言われて何故、少し悲しくなったのかしら)


一瞬の考えを振り払って、面接の順番と説明を受ける残った者達を眺めた。


(ちゃんと信用できて腕の立つ者を選ばないとね)



リビイルが魔法で強化した足で転がった頭を踏み潰した事で気を失った者は善意で不合格にしておくことにしよう。



「皇宮では良くある事だものね……」

「ララは、そんなドルチェ様も陛下も尊敬しております」

「ありがとう……」


少し手荒だったかとも思ったが、私だけでなくヒンメルをも軽視していると受け取られかねないあの者を見逃す事は出来ない。


私一人を揶揄ってやる為に引き合いに出してもいい人では無いのだ皇帝は。


(見せしめ……ってところかしら)


とはいえ、さっきより広くなった演舞場を見渡して

時間を無駄にしなくて済んだと思うことにした。















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