暴君に相応しい三番目の妃

abang

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賑やかな皇妃宮

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数名のメイド達が皇妃宮の専属になったと言う噂はアエリの耳にも届いていた。

自らの宮からはメイドが辞めていくばかりだというのに、あんなにも残虐で我儘なドルチェの宮には何故か皆勤めたがった。


「ふん、皇妃になったからって大層なもんね」


当分、派手に身動きは取れないので何となく皇妃宮の近くを散歩を装って偵察する。

けれどさっきからやけに聞こえる子供の声。


皇妃が敷地内に使用人のエリアを作ったことは王宮内では有名な話だ。モリアという教師まで雇って使用人の子供に教育まで受けさせているという話はどうやら本当のようで、皇妃宮の塀の上を歩く二人の子供と目が合った。


「ーっ」


ぞくりとした。


冷ややかな青い瞳、白すぎる肌にかなり伸びた金髪。
子供ながら整ったそっくりな容姿に背筋の凍るような不気味な笑顔。


「レイ、この人きっとドルチェ様の敵だよ」

「分かってる、悪意ってわかりやすいもんな」


感じるものは聖力なのに、あの女にピッタリな恐ろしい笑み。

大人でも登れないこの塀を登り切るあたり身体能力に自信があるのかクルクルと小さなナイフを回している片方が、もう片方の手を握ったまんま私を見下ろした。


「フィア、どうする?」

「レイ、やめとこうよ」

「なんで?」

「ドルチェ様に怒られちゃうよ」



声からしてレイが男児でフィアが女児だろう。
その不思議な雰囲気が恐ろしくて呆然と立ち尽くしていると、向こう側から此方に届くほどの大声が聞こえた。


「いたーーー、先生スッゲー怒ってんぞーー!」

「「げ、フェイト」」


母方が王族だった所為か魔力への耐性が強いという特異体質を持ち、魔力の覚醒こそまだだが資質を持つフェイトは平民だった所為が無遠慮なところがある。

その癖、真面目でこうして座学の度にサボる二人を上手く探し当てて呼びに来るのだが、知らぬアエリにしてみればまだ末恐ろしい子供が他にも居るのかと言う思いだ。




「歳下の癖に生意気だよな、アイツ」

「でもフィア、嫌いじゃないよ」



此方をチラリと見下ろしてから少し考えて向こう側に飛び降りて行った二人はもう一人の子供と何やら騒ぎながら立ち去ったようで、ほっとする。



(どんな餓鬼連れてるのよあの女……っ!)


肩を撫で下ろしていると、すれ違う荷車。
最高級を扱う商人ではないが名の知れた商会のものだ。



「皇妃様も太っ腹だよなぁ、使用人達の為にものを揃えてやるなんて」

「あぁ、凄い美人だがおっかない人だけどな……」


「「分かっててもあの笑顔にゃ負けちまうよなぁ」」


商人達にもやけに好かれているようで、先程からやたらと騒がしい塀の向こうが気になって仕方がない。


ドルチェの評判はどうやら良いようだし、ヒンメルの気を引いているのも現段階では彼女だ。


(マズイわ、市民達には品行方正と人気のある私のイメージが影に隠れてしまうじゃない!)



どうやら数日後には、皇妃宮の騎士団の試験も行われるらしく
本城から来たスミルダという年寄りの婆さんは皇帝ヒンメルが皇妃宮に送ったらしい。


どう言う訳か、レントンと執事長、その婆さんは皇帝に近しい存在らしく本城から基本的に移動する事は今まで無かったと言うのに……


「悔しい……っ!」


(待って……)


近頃、新しく調査した結果ドルチェは実家と上手く行っていないことが分かった。

あの力無い伯爵家ごときに召使いのように仕事をさせられていたというじゃないか。


「ご招待、する必要があるわね。準備しなくちゃ、ふふ」



どうやって天敵をけしかけてやろうか、そればかりがアエリの頭の中を巡る。


そして思い付く、ドルチェは皇帝の寵妃なのだからそれを利用すれば良いと。彼に謁見し、皇妃を祝う夜会を開きたいと申し出る。それに彼女の家族を招待すればいいのだ。


今、圧力により仕事が上手くいかずに金も人脈も欲しいはずの伯爵家は飛びつくだろう。


「そこの貴女、陛下への謁見を申し込んでおいて」

「は、はい……アエリ様」

「急用だと伝えるのよ」





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