暴君に相応しい三番目の妃

abang

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実力と、信仰と、忠誠

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「きゃあぁぁ!!」



さっきまで大人びた蔑みや嫌悪の色を見せていた子供達の表情が恐怖に変わって悲鳴と泣き声が響く。


その場から動けない様子の子供達と「よく切れるわねこれ」なんて呑気に笑っているドルチェ様の目の前でもう普通の治療では塞がらない腹の傷を抑える大司祭。


大抵の聖職者が自分で自分を癒せないのは周知の事実だった。


「……っぐは……っ!何を……!?」


「治してみなさいな」


他の子供達とは違う、微かに口の端を持ち上げた双子に俺はゾクリとしたが興味を示したのは陛下で、同じように感心したように「治してみなさいな」と声をかけたのはドルチェ様だった。



顔を見合わせて「「やだね」」と声を揃えた双子に、ドルチェ様が何か耳打ちすると疑うような表情で二人は大司祭の傷を瞬時に治癒した。




「ほぉ、二人がかりとはいえ早いな」

「ええ、欲しいのはこの子達よ」



ドルチェ様と陛下の言葉に他の愛し子たちが「それなら私が」
「それなら僕が」と声を上げ始める。


まだ幼い子供達がこれほどまでに醜い表情を見せるのもまた大人の所為なのかと心苦しくなるほどの騒がしさだ。


まだ意識の戻らない大司祭を足蹴にしてドルチェ様が期待など捨てたような双子の前にしゃがみ込むと二人の頭を撫でて女神のように微笑んだ。



「その子達は忌み子です!!!」

「私の方が……っ!」



「黙りなさい!」


口々に騒ぎ立てる愛し子達の言葉を遮って「忌み子」と言う言葉に俯いた二人の顎を持ち上げた。




「貴方達、自分も治癒できるわね?」


「「……」」


「それは忌み嫌われる事じゃないわ、素晴らしい才能よ」


「え……」

「でも、卑しい力だって……」


「嫉みに過ぎないわ、私と来ない?」


悩む仕草の二人を急かす為か、大司祭に魔法で水をかけて意識を引き戻させると、途端に騒ぎ出す大司祭を抑えておくように俺に命じた。




「「で、でも……」」

「どっちが、強そう?」

「は、」

「そりゃ、皇妃様だけど……」


「私この後用事があるの、来るなら早く決めて頂戴」



血のついた靴を脱ぎ捨てて王座の方へと歩くドルチェ様に誘発されたかのように立ち上がった陛下は彼女を横抱きにして、もう一度座り直す。

すかさずレントン卿がドルチェ様の足を拭うも陛下はそれを睨みつけた。



「……レントン、何してる」

「御足が汚れてしまったので、拭いていますが」

「……っ、くすぐったいわ。けど、ありがとう」

「~~~っ!申し訳ありませんでした!!」

「……お前じゃなければ殺してた」



真っ赤になって謝罪するレントン卿と陛下のやり取りをポカンと見る皆を放ったらかしにしたと思うと、双子の子供達に手招きして王座の下まで近寄らせ、もう一度尋ねた。




「一緒に、おいで?」



二人はゆっくりと頷いて、膝を着き、女神に祈るようにドルチェ様に忠誠を誓った。


「「この身の全てを、皇妃様に捧げます」」


「あはは、信仰しないでね。忠誠だけ受け取るわ」




「レントン、リビイル」

「はい、陛下」

「……はい」


俺はドルチェ様の従者だ、陛下のものではない。

不服を隠す事なく返事をすると、くすりとドルチェ様が笑ったのが見えた。


「後は頼んだぞ、適当に帰しておけ」

「承知しました」


「リビィも、お手伝いお願いね?すぐに戻って」

「はい、ドルチェ様」


陛下に抱えられたままのドルチェ様は満足そうに子供達に微笑みかけた後、「ゆっくりお風呂にでも入ってきなさい」と双子をララとエミに任せた。


「パパとママが居たらあんなのかな?」

「は?やめろよ、あんな怖いワケないだろ」


ドルチェのアイオライトのような瞳を思い出してうっとりする片割れと、身を震わせるもう片割れの双子にララとエミは苦笑した。


「妃殿下はとても素敵な方ですよ!」

「そうね、エミの言う通りよ」


双子はドルチェがさっき耳打ちした言葉を思い出して頬を染めた。



「あなた達は私が守ってあげる」



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