暴君に相応しい三番目の妃

abang

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平民には珍しく、発現した魔力。

ジャスピア王の統一より遥か前、乱世の最中敗戦し消滅した南部の小国。そこが故郷だった。


屈強な身体と、優れた運動神経、体術、だから剣の扱いもそこそこ上手い方だった。

幼い頃から料理が好きな事もあって、軍でも進んで料理人としても働いた。

その時に出会ったのは人質として捕らえられていたある国の王族の末娘だった。身分の差こそあれど毎日食事を運んでいる内に互いに惹かれ合って、とうとう恋仲になってしまった。


そして、彼女を娶る為に軍功を上げ続け、料理人としても腕を振るってハンセンが昇進を重ねて行く内にとうとう彼女のお腹にはハンセンとの子が宿った。


命を取られるかもしれない、けれども報告して此方できちんと家族になるつもりだった。


自分を想ってもくれない国の家族よりも、ハンセンを選んでくれた彼女を一生大切にするはずだった。


なのに、子供が産まれてすぐだった。

彼女の祖国が宣戦布告もせずに突然攻め入った。

彼女は……シンディは赤子の息子を一人残して暗殺された。

内部からの裏切りだった。


その時に発現したのがこの瞳だった。


息子を抱きしめながら、魔力が巡る感覚と妻を失った悲しみを感じていた。


この力があればもっと強くなれるのか?

そう思ったが、判定の結果私の適性は「鑑定」だった。

戦闘には役立たないハズレスキル。

辛うじて魔力での身体強化は出来るようになったものの、それ以上はこの無駄に情報が流れてくる瞳が煩わしいだけだった。



案の定、暫く持ち堪えたものの祖国は敗戦し地図から消えた。


息子を連れて様々な所で料理人として働いている内に、乱世はとある青年の手によって終わった……


ヒンメル・ジャスピア王、彼は私達の仇であるあの国をほんの半日で壊滅させたらしい。お得意の闇討ちでヒンメルの怒りを買い国ごと潰されたのだと言う。


それほどの力があればとひどく嫉妬した。

貴族出身のアタリの魔法を使う者達と比べて、鑑定のスキルは全くどの軍にも相手にされなかった。

今でも息子を守る為に身体は鍛えているが、唯の少し鍛えられた料理人のおじさんと言ったところか、それでも料理人としては腕が認められて帝国の「ブオノエデン」に引き抜かれた事は光栄だった。

帝国に来たお陰で、息子を平民の学校に行かせる事も出来た。


それだけでいい、もう「無能だ」「役に立たない」と罵られ、好きな料理を「料理でもしておけ」と雑な扱いをされずに済む。


料理人として生きるんだ。そう決めた。
この力は生涯隠しておく。


なのに……

「貴方、目がいいのね」

「なら、ソイツは無能ね」

「貴方の力が必要よ、ハンセン」


美しいが、シンディとは似ても似つかない勝ち気な小娘だった。

必要とされたのは家族以外には初めてだった。


あの後すぐにリビイルと言う従者が来て、妃殿下の元で学べばその力が「アタリ」だと言った言葉の意味が分かるだろう。

そう言われ、馬鹿な事に今更「ブオノエデン」を辞めた。

皇妃宮の料理人なんてのは給金も良いだろうし、何よりあのジャスピアを一目見れるかもしれない。

そして、まだ私から見れば子供同然の皇妃があれほど急いで大人にならなければいけなかった理由が知りたいと思った。


「飯食ってる時は、幼いのにな……」


安心して食えるものを、腹一杯食わせてやりたい。

単純にそう思った。


「妃殿下はお子様も一緒に住み込みでと申しております」

「……待遇良すぎないか?」

「能力のある者には価値相応の待遇をすると仰っています」

「価値相応……」

「皇妃宮の敷地内に使用人の住む場所を下さいましたので、そこに家を建てたと聞いています」

「は、断られる予定無しかよ」

「そういうお方ですので」


段々と話す目の前の小僧もまたどこか嬉しそうに、愛おしそうに目を細めた。

「ほう、主君を愛してるのか?」

「そんな邪な感情ではありません。ドルチェ様は神なので!」



(また、変わった奴だな……)



「いいぜ、明日行くって伝えな」

「ふ、お待ちしています。ハンセン・ロジャード殿」

「んだよ、調査済みかよ……」


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