暴君に相応しい三番目の妃

abang

文字の大きさ
上 下
27 / 88

堕ちるのは、どっち?

しおりを挟む


ゴールディ公爵家、金と汚職、古くより続く家門でありながらも今も勢いの衰えない王宮派の貴族。

アエリはそこの一人娘で、実質的な跡取りともいえる。



ゴールディ公爵夫人がわざわざ皇宮まで来たことは特に予想外では無いし、オーレンを死んだ事にした時点でこうなる事は決まっていた。ドルチェも特に気にした様子は見えない。


それよりも今は何が一番腹立たしいかと言うと、たかが数日ですっかりと実力をつけたリビイルの存在だった。


「すごいわリビィ、予想以上よ」

「全てはドルチェ様の為に」

「礼儀やお世話まで上手くなったのね」

「いや、これは、本心です!」

「……まあ」


微かに驚いたような表情で微笑むドルチェがリビイルの成長に満足していることは喜ばしいが、どうにもじわじわと胸の奥が熱を持って落ち着かない。

 
図太いのか、鈍いのか全くこちらを気にかける様子のないリビイルはその癖に飛んできた魔力の籠った矢には敏感に反応して見せた。


外部から何者かがこのような馬鹿げたことをするなど皇宮の、このプライベートな領域ではあり得ないし出来得ない。


ただは常にドルチェを狙っている。
こんなのはただの忠告だろう。


後宮など早々に取り壊してやったが、妃の同士の権力争いに口を出さないのは同じでましてや皇后ではない者達。政治や皇宮にまで影響が出ない限りは黙っておくのがマナーでもある。


けれどもまぁ、生意気なことにこのリビイルという餓鬼は射るような目で俺を見つめて何かを訴えかえてくる。


(妻を守らない夫など理解できないって所か)


「陛下は、ドルチェ様を愛しておられるのですか?」

「……は」

「駄目よリビィ、陛下には緊急時以外は勝手に私語を投げかけないで」


「お前に免じて流そうドルチェ」

「ありがとう、優しいのね」



内心、焦りで思考が乱れる。


"愛しておられるのですか?"


これはきっとと言うことだろう。

リビイルから見て、俺がドルチェを愛している前提での話をしている。何故か重要な機密事項がバレたかのような妙な気分だ。


(いや待て、隠す理由はないのか?)


別にドルチェ自身と何か契約を交わした事は無い。
例えば、愛しているから隣に並んでくれと皇后に召し上げても誰も文句は言わないだろう。


「愛に殺されたくない」

そう言った彼女と同じで、愛に目を眩まされ寝首をかかれるのは俺も本望ではない。

いくらドルチェといえども、付き合いの短さを考えればそう簡単に皇后にはするべきではないだろう。


「リビイル」

「はい」

「その質問には、後に答えよう」


(何を考えているのかしら……?)



その質問に答えるべき時は予想通り、すぐにやって来た。



「陛下!オーレンの事についてはもうご存知ですね」


「ゴールディ公爵、それについてはよく知っているが?」


「第三妃殿下が、私共の息子を殺したのです!!」


「夫の言うとおりです!!証拠は第二妃殿下が……」


アエリは口元を緩めた。皇帝からの処罰、これならばドルチェにも痛手を与えることができるだろう。


皇紀以上の身分にしか与えられない様々な権利をドルチェは持っていない。アエリもまた同じだが、だからこそ隠蔽に予算を費やしている。

勝手に公爵家の嫡男を殺した失態は許される事ではない。

当然罰せられる筈だ、そう考えていた。



(考えてることが全て顔に出てるわね)


(ふ、ドルチェは機嫌が悪そうだな)


ニヤリと歪む顔を隠しきれないアエリ、一か八かまるで賭けに全財産をかけたかのような顔つきのゴールディ公爵夫妻、面倒だと言わんばかりのドルチェに、表情の無いリビイル、


どれもが可笑しく感じた。


「ドルチェ、来い」

「はい」

「当然、越権となれば罰せなければならない」



やってみろとでも言いそうな表情と今にも噛みつきそうな魔力にゾクゾクする。

瞳を輝かせているアエリを鼻で笑うと何を勘違いしたのか、頬を染めて嬉々としている。



「どうそ、お好きなように」

「だか、確か俺はお前ににならないかと持ち掛けたな?」


(どうだ、これなら逃げられまい)

(上手いわね、ヒンメル)


「……そうですね」


「陛下、何を……!」

「順番であれば娘が先……」

「順番?そんなものを設けたか、アエリ?」

「い、いえ……」


選択肢を与え無かったことにドルチェはもう気付いているだろう、けれど駄目押しにドルチェに囁く。


「お前だけは殺さない。とも言った筈だが?」

「!」


くすくすと顔に手を当てて笑い出したドルチェは、観念したといった様子でゴールディ公爵家の者達を見下ろして、思わず見惚れるほど悪い顔をして笑った。


(乗ってやるわよ)

「……っふ、そうね。私は皇妃としての権利で仕事をしたまでよ」


嬉しくて思わず笑みが溢れたことに気付いたのはドルチェ以外の皆の大きく見開かれた目と合ってからだった。





(なんであの女ばっかり……っ!)



「さて、俺も欲しい物が手に入ったことだし。犯人が知りたいなら教えてやるが?どうだろう、アエリ」



「ひっ、え……オーレンはどうやら皇妃殿下に不信を感じていたようですね、可哀想ですが仕方ありませんわ」


突き落とすどころか、一段昇ることになったドルチェに公爵夫人も、アエリも強く奥歯を噛み締めた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

処理中です...