暴君に相応しい三番目の妃

abang

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堕ちるのは、どっち?

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ゴールディ公爵家、金と汚職、古くより続く家門でありながらも今も勢いの衰えない王宮派の貴族。

アエリはそこの一人娘で、実質的な跡取りともいえる。



ゴールディ公爵夫人がわざわざ皇宮まで来たことは特に予想外では無いし、オーレンを死んだ事にした時点でこうなる事は決まっていた。ドルチェも特に気にした様子は見えない。


それよりも今は何が一番腹立たしいかと言うと、たかが数日ですっかりと実力をつけたリビイルの存在だった。


「すごいわリビィ、予想以上よ」

「全てはドルチェ様の為に」

「礼儀やお世話まで上手くなったのね」

「いや、これは、本心です!」

「……まあ」


微かに驚いたような表情で微笑むドルチェがリビイルの成長に満足していることは喜ばしいが、どうにもじわじわと胸の奥が熱を持って落ち着かない。

 
図太いのか、鈍いのか全くこちらを気にかける様子のないリビイルはその癖に飛んできた魔力の籠った矢には敏感に反応して見せた。


外部から何者かがこのような馬鹿げたことをするなど皇宮の、このプライベートな領域ではあり得ないし出来得ない。


ただは常にドルチェを狙っている。
こんなのはただの忠告だろう。


後宮など早々に取り壊してやったが、妃の同士の権力争いに口を出さないのは同じでましてや皇后ではない者達。政治や皇宮にまで影響が出ない限りは黙っておくのがマナーでもある。


けれどもまぁ、生意気なことにこのリビイルという餓鬼は射るような目で俺を見つめて何かを訴えかえてくる。


(妻を守らない夫など理解できないって所か)


「陛下は、ドルチェ様を愛しておられるのですか?」

「……は」

「駄目よリビィ、陛下には緊急時以外は勝手に私語を投げかけないで」


「お前に免じて流そうドルチェ」

「ありがとう、優しいのね」



内心、焦りで思考が乱れる。


"愛しておられるのですか?"


これはきっとと言うことだろう。

リビイルから見て、俺がドルチェを愛している前提での話をしている。何故か重要な機密事項がバレたかのような妙な気分だ。


(いや待て、隠す理由はないのか?)


別にドルチェ自身と何か契約を交わした事は無い。
例えば、愛しているから隣に並んでくれと皇后に召し上げても誰も文句は言わないだろう。


「愛に殺されたくない」

そう言った彼女と同じで、愛に目を眩まされ寝首をかかれるのは俺も本望ではない。

いくらドルチェといえども、付き合いの短さを考えればそう簡単に皇后にはするべきではないだろう。


「リビイル」

「はい」

「その質問には、後に答えよう」


(何を考えているのかしら……?)



その質問に答えるべき時は予想通り、すぐにやって来た。



「陛下!オーレンの事についてはもうご存知ですね」


「ゴールディ公爵、それについてはよく知っているが?」


「第三妃殿下が、私共の息子を殺したのです!!」


「夫の言うとおりです!!証拠は第二妃殿下が……」


アエリは口元を緩めた。皇帝からの処罰、これならばドルチェにも痛手を与えることができるだろう。


皇紀以上の身分にしか与えられない様々な権利をドルチェは持っていない。アエリもまた同じだが、だからこそ隠蔽に予算を費やしている。

勝手に公爵家の嫡男を殺した失態は許される事ではない。

当然罰せられる筈だ、そう考えていた。



(考えてることが全て顔に出てるわね)


(ふ、ドルチェは機嫌が悪そうだな)


ニヤリと歪む顔を隠しきれないアエリ、一か八かまるで賭けに全財産をかけたかのような顔つきのゴールディ公爵夫妻、面倒だと言わんばかりのドルチェに、表情の無いリビイル、


どれもが可笑しく感じた。


「ドルチェ、来い」

「はい」

「当然、越権となれば罰せなければならない」



やってみろとでも言いそうな表情と今にも噛みつきそうな魔力にゾクゾクする。

瞳を輝かせているアエリを鼻で笑うと何を勘違いしたのか、頬を染めて嬉々としている。



「どうそ、お好きなように」

「だか、確か俺はお前ににならないかと持ち掛けたな?」


(どうだ、これなら逃げられまい)

(上手いわね、ヒンメル)


「……そうですね」


「陛下、何を……!」

「順番であれば娘が先……」

「順番?そんなものを設けたか、アエリ?」

「い、いえ……」


選択肢を与え無かったことにドルチェはもう気付いているだろう、けれど駄目押しにドルチェに囁く。


「お前だけは殺さない。とも言った筈だが?」

「!」


くすくすと顔に手を当てて笑い出したドルチェは、観念したといった様子でゴールディ公爵家の者達を見下ろして、思わず見惚れるほど悪い顔をして笑った。


(乗ってやるわよ)

「……っふ、そうね。私は皇妃としての権利で仕事をしたまでよ」


嬉しくて思わず笑みが溢れたことに気付いたのはドルチェ以外の皆の大きく見開かれた目と合ってからだった。





(なんであの女ばっかり……っ!)



「さて、俺も欲しい物が手に入ったことだし。犯人が知りたいなら教えてやるが?どうだろう、アエリ」



「ひっ、え……オーレンはどうやら皇妃殿下に不信を感じていたようですね、可哀想ですが仕方ありませんわ」


突き落とすどころか、一段昇ることになったドルチェに公爵夫人も、アエリも強く奥歯を噛み締めた。






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