暴君に相応しい三番目の妃

abang

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視察最終日

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教会の件のお陰で粗方片付いた仕事、ある程度の目星をつけておけば後はもう兵を送るだけで心配ないだろうと言う所まで仕事は終わって、今日は穏やかな朝を宿で過ごせている。

これでは視察というよりも旅行だな、なんて考えて思わず新婚旅行という文字が頭に浮かんだので、それを振り払うようにドルチェに声をかけた。



「思ったよりも早かったな」

「そうですね」



優雅に紅茶を啜るドルチェは愛も変わらず美しいのと、高質な魔力に覆われた姿がもはや神々しいのとで、つい目が離せない。

熱に浮かされたような感覚だった。

つい口からこぼれ出た本音に戸惑いながらももう一度呑み込む事が出来ない言葉に腹を括った。



「……お前のお陰だ」

「……え」



まさか、そんな事を言われるだなんて思いもよらないといった反応のドルチェは思わず彼の方を向いたが、彼もまたドルチェの反応に驚いた。


てっきり自らの功績をアピールして、有能さを訴え、価値があるからそばに置いてくれと期待の籠った目で見つめられるのが普通だったのでドルチェも得意げな表情くらいはすると思っていた。



それでも自分から「お前のお陰だ」と声をかけたのは彼女だからかもしれないし、試してみたくなったのかもしれないし、


本心かもしれない。



なのに、彼女の気の抜けたきょとんとした表情にただ呆気に取られてしまう。


まるでそんな事を言われるとは思っていなかったという表情、

それどころか「急に何よ」とこちらを怪しむような目で睨みつけてくるドルチェに段々とおかしくなってきて思わず吹き出してしまった。



「何で笑うの?」

「今のは多分、本心だ……くくっ」

「からかってるのね」

「疑ってるのか?」

「裏がありそう、とは思ってるかもしれないわね」



本当に何も意図は無かったのだろう。

寧ろ本気の疑心に他意のない純粋な反応だったと分かる。


意地の悪い笑顔が噂よりもより一層悪女に見える。
けれどもヒンメルにすれば、より一層愛おしい表情だった。



「残念ながら、裏は無い」

「ほらねーーって、え……?」

「ドルチェは、有能で、素晴らしい妻だ」


褒めら慣れていないのか、みるみる内に染まる頬がまた堪らなく愛おしく感じる。

思わず引き寄せて、深く口付けるとドルチェも、周囲で帰り支度をする使用人達もひどく驚いた様子だった。


騎士達に至っては何故かひっくり返る始末で、装具の音が煩い。

なんて騒がしい部下達だとヒンメルは顔を顰めたものの、今は誰も罰する気にはならなかった。



(妻、だなんて……そう認めていたのは意外ね)


「何か失礼なことを考えてるな?」

「そうね、人に認められたのは初めてで驚いたわ……」

「どうやら伯爵家は愚かだったようだな」

「私は彼処には勿体ないわ、貴方に命を預ける方が本望よ」



そう言ったドルチェの声色はいつも通り飄々としたものだったが、その瞳は燃え尽くすほどの熱を孕んでいて息がとまりそうになった。


何故か、この女性に必要とされたい。

自分だけのものにしたい。

なんて感情が渦巻いている事に気付いて何となく居心地が悪くなってドルチェの頭を自らの胸に押し付けた。


笑顔で文句の一つでも言うと思った彼女は予想外にも、


「安心する」


とだけ呟いて瞳を閉じてしまったので、かえって更に落ち着かなくなった。


「暴君を捕まえて、安心する、とはな……」


「暴君でも何でも良いわ、ヒンメル貴方なら例え腰抜けでも、不細工でも良い気がして来たわ」


「それは、愛されてるのか?」


「分からないけど、主君としては最高よ貴方」


やはり、色恋には鈍いのだろうドルチェの様子に俺もまだまだだなと内心で考えながら彼女の髪を撫でた。


「じゃあもっと頑張らないとな」

「?」


今度は執事が物を落とす音が聞こえたが、別に気にならなかった。




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