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失敗は墜落の始まり
しおりを挟むオーレンの訃報はすぐに公爵家へと伝わった。
そのお陰でアエリを訪ねてくると両親から手紙が届いた所為で慌てて皇宮に戻ることになったアエリは苛立っていた。
「何で、オーレンは失敗した訳!?」
「アエリ様、ドルチェ様には皇帝陛下しか勝てません……っ!」
「そんな訳ないわ!ただの伯爵令嬢だったのよ!?」
「力を隠していたのでしょう……皇宮に来てからは……キャッ!」
アエリの平手打ちが侍女に当たって、侍女は床に転んだまま怯えた目で彼女を見上げた。
酷ければ処刑される、そう忠告したにも関わらず義弟であるオーレンを送り込んだアエリは案の定彼を失ったという事だ。
養子とは言え、才能を見そめられて後継となったオーレンを私情で殺してしまった責任を問うつもりで公爵夫妻は皇宮に押しかけてくるだろう。
もしも、後ろ盾に見捨てられたアエリの価値を皇帝はどう計るだろうか?
もしかしたらこの人に仕えていれば自らも一緒に破滅するかもしれない。
(に、逃げなきゃ!)
「どこ行くの?」
「痛ッ!」
髪を掴まれて強引に立たされ馬車を用意するようにと命じられ、恐ろしくてガタガタと身が震えた。
「早く支度なさい、くれぐれも陛下に見つからないように!」
「は、はい……!」
アエリは内心酷く焦っていた。
オーレンは後継だった自分の代わりで、優秀だったが気に食わない奴だった。スカした態度も物分かりの良いフリも嫌いだった。
だから日常的に良く虐めて、くだらない用事でしょっちゅう呼び出した。両親も見て見ぬふりをしたし皇帝に嫁いだ形式上、代わりの後継を立てただけの話なので私より大切にされる事も無かった。
だから私の奴隷として永遠に傀儡の公爵にならせてあげるつもりだった。
ムカつく事に私を凌ぐ魔法の才も、さらには剣の才も持っていてそれがなお憎らしかった。
けれど、殺すつもりは無かった。
ずっと上手く使う気で居たのに……
(何故こうなったの……?)
金と時間をかけて育てたオーレンを失い、優秀な人材を引き連れて行ったものの全滅。
両親はきっとこの損失にひどく怒っているだろう。
ドルチェの所為だと言うことが分かれば、証拠が出れば……まだ何とかなる。焦る事はないと言い聞かせる。
「死体を回収しないと」
どうにか回収したオーレンの遺体が強い火力で燃え上がっていることを確認してアエリは後にニヤリと笑った。
「これが証拠に出来れば良いのよ」
数日後、視察から帰ってくるであろうドルチェをどうやって追い詰めようかを考えるだけで楽しい。
今までの妃のように、立ち上がれないほど虐げて他の妃に勝つことで自分の強さを証明し、価値を皇帝に見せつけて来た。
権力、策略、精神、見た目の美しさ、魔力の強さ、それを無理なく見せつける為には丁度妃たちを虐めるのが良かった。
恐怖で縛りつけた部下や使用人達からの目もまた気持ちよかった。私こそが暴君である彼に相応しいと思っている。
「ドルチェ、貴女も私の踏み台にしてやるわ」
皇宮で待つ両親は相変わらずで、オーレンを惜しんでいる訳では無くて安心した。
「オーレンに幾らかけたと思ってるんだ!」
「そうよアエリ、いくら何でも限度があるでしょ!」
「でもね……お父様、お母様」
ギロリとこちらを睨む両親に怯えるフリをして、オーレンの遺体を持ってこさせる。
「これはね、第三妃が殺したのよ」
「「!」」
「これは、公爵家への宣戦布告だと思うわ」
これで排除できる、いくら第三妃といえどたかが伯爵家の出。
帝国の公爵家を敵に回して無事でいられる筈がないのだ。
そうなれば皇帝もきっと彼女から興味を無くすだろう。
「お父様、お母様……どうか私を助けて下さいな」
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