暴君に相応しい三番目の妃

abang

文字の大きさ
上 下
21 / 91

視察一日目

しおりを挟む


一見、変わったところがあるようには見えない街並み。


「普通ね」

「さぁな」


フードと平民の服で身なりを変えて、顔を隠している二人は町人に紛れている護衛騎士とララを気にしながらも視察すること少し、ドルチェが目を輝かせた。



「何かしら、あれは」



目の前には高級感のある黒光りする武器がひとつ。



「あれは最新式の魔石を使った自動小銃だ」

「何に使うのですか?」

「欲しいのか?」

「そうね、何故か惹かれるわ」



ヒンメルはドルチェの手を握って店へと入ると、入るなりドルチェの興味を惹きつけた小銃を指差した。



「これを、特別な装飾と彫刻を施してくれ」

「ですが!これはかなり高額でして……!」

「あぁ……金が無いように見えるか」


ヒンメルがフードを下ろすと、大袈裟なほどに驚く店主に違和感を覚える。


(平民がヒンメルの顔を見てすぐに気付くかしら?)



「貴族と仕事をすることがあるの?」


「はい、ウチはお貴族様も御用達の正規品ばかりです」


「ねぇ、これ触ってみたいわ」


店主がショーケースに銃を取り出しに行っている間にヒンメルに教えて貰った銃の使い方を頭の中で復習する。


(まぁ試し撃ちには丁度良いわね)


「は、はい!」

店主がヒンメルの視線に恐縮しながらもドルチェにその小銃を丁寧に手渡すとあろうことかドルチェは銃口をを店主の眉間に当てた。


「ひっ!!」


「あら、安全装置はこれね。外し忘れてた」



「や、やめて下さい!何か気に触ることを……」


「貴方、やけに貴族の……いや、皇族の顔に詳しいのね?」


「何もやましい事はありません!!!」


「ほんとに?」


「本当です、妃殿下!!」



そう言った店主がハッとしたような表情をした所で、ヒンメルが髪を掴見上げた。



「なぜ、妃だと?」

「そ、それは……!」

「顔が出回ってるのか?」

「違いま…….っ!!!」



ドルチェが銃を眉間から外して、足元に撃ち込んだ。


「ひいっ!!!!」


「ほお、上手いもんだな」

「当たらなくて良かったわ、死なれちゃ困るでしょ」


「な、何でも話します!!」

「連れて行け」

何処からか集まってきた護衛達に連行される店主を尻目に、感心したようにドルチェの目尻を親指で撫でながら、ヒンメルは呟いた。



「お前には驚かされてばかりだな」

「そうですか?貴方も気付いたでしょ?」

「あぁ、だが……好きなやり方だったな」

くつくつと笑うヒンメルに内心「変わった人」と首を傾げるドルチェはにこりと笑って「じゃあ、次行きましょう」と今度はドルチェがヒンメルの手を引いた。


「……!」

「なに、行かないの?視察」

「そうだな」



すっかりと尻に敷かれ始めていることには気付いていないのだろうヒンメルはドルチェの握る小銃を護衛に預けて「レントンにさっきと同じ注文で装飾を頼め」と命じた。




「あれでよかったのに」

「お前には似合わん」

「どんなのならいいの?」


(そうだな……もっと美しくて、華々しい……)


「ヒンメル?」

「黙って待ってろ」

「あら、横暴なひと」


そう言いながらも特に気にした様子のないドルチェにくすりと笑ったヒンメルの笑顔を思わず目撃した護衛は震え上がった。


(槍でも降るのか……?)



その後もドルチェが目を輝かせるものは変わったものばかりで、思わずヒンメルは問いかける。


「お前は、殺し屋に育てられたのか?」

「いいえ?とんだ馬鹿な貴族らしい人達が親だって知ってるでしょ?」


「……」

「それか……」

「?」

「貴方に会って、強くなったのかも」


想像していたよりずっと純粋な笑顔に驚く、振り返りざまに見せたその表情はあまりにも柔らかくてどくんと大きく心臓を揺らした。




「暴君って、案外良いわね」

「なら暴君の妻は?」

「……!……満更でもないわ!」

 





しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

処理中です...