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視察一日目
しおりを挟む一見、変わったところがあるようには見えない街並み。
「普通ね」
「さぁな」
フードと平民の服で身なりを変えて、顔を隠している二人は町人に紛れている護衛騎士とララを気にしながらも視察すること少し、ドルチェが目を輝かせた。
「何かしら、あれは」
目の前には高級感のある黒光りする武器がひとつ。
「あれは最新式の魔石を使った自動小銃だ」
「何に使うのですか?」
「欲しいのか?」
「そうね、何故か惹かれるわ」
ヒンメルはドルチェの手を握って店へと入ると、入るなりドルチェの興味を惹きつけた小銃を指差した。
「これを、特別な装飾と彫刻を施してくれ」
「ですが!これはかなり高額でして……!」
「あぁ……金が無いように見えるか」
ヒンメルがフードを下ろすと、大袈裟なほどに驚く店主に違和感を覚える。
(平民がヒンメルの顔を見てすぐに気付くかしら?)
「貴族と仕事をすることがあるの?」
「はい、ウチはお貴族様も御用達の正規品ばかりです」
「ねぇ、これ触ってみたいわ」
店主がショーケースに銃を取り出しに行っている間にヒンメルに教えて貰った銃の使い方を頭の中で復習する。
(まぁ試し撃ちには丁度良いわね)
「は、はい!」
店主がヒンメルの視線に恐縮しながらもドルチェにその小銃を丁寧に手渡すとあろうことかドルチェは銃口をを店主の眉間に当てた。
「ひっ!!」
「あら、安全装置はこれね。外し忘れてた」
「や、やめて下さい!何か気に触ることを……」
「貴方、やけに貴族の……いや、皇族の顔に詳しいのね?」
「何もやましい事はありません!!!」
「ほんとに?」
「本当です、妃殿下!!」
そう言った店主がハッとしたような表情をした所で、ヒンメルが髪を掴見上げた。
「なぜ、妃だと?」
「そ、それは……!」
「顔が出回ってるのか?」
「違いま…….っ!!!」
ドルチェが銃を眉間から外して、足元に撃ち込んだ。
「ひいっ!!!!」
「ほお、上手いもんだな」
「当たらなくて良かったわ、死なれちゃ困るでしょ」
「な、何でも話します!!」
「連れて行け」
何処からか集まってきた護衛達に連行される店主を尻目に、感心したようにドルチェの目尻を親指で撫でながら、ヒンメルは呟いた。
「お前には驚かされてばかりだな」
「そうですか?貴方も気付いたでしょ?」
「あぁ、だが……好きなやり方だったな」
くつくつと笑うヒンメルに内心「変わった人」と首を傾げるドルチェはにこりと笑って「じゃあ、次行きましょう」と今度はドルチェがヒンメルの手を引いた。
「……!」
「なに、行かないの?視察」
「そうだな」
すっかりと尻に敷かれ始めていることには気付いていないのだろうヒンメルはドルチェの握る小銃を護衛に預けて「レントンにさっきと同じ注文で装飾を頼め」と命じた。
「あれでよかったのに」
「お前には似合わん」
「どんなのならいいの?」
(そうだな……もっと美しくて、華々しい……)
「ヒンメル?」
「黙って待ってろ」
「あら、横暴なひと」
そう言いながらも特に気にした様子のないドルチェにくすりと笑ったヒンメルの笑顔を思わず目撃した護衛は震え上がった。
(槍でも降るのか……?)
その後もドルチェが目を輝かせるものは変わったものばかりで、思わずヒンメルは問いかける。
「お前は、殺し屋に育てられたのか?」
「いいえ?とんだ馬鹿な貴族らしい人達が親だって知ってるでしょ?」
「……」
「それか……」
「?」
「貴方に会って、強くなったのかも」
想像していたよりずっと純粋な笑顔に驚く、振り返りざまに見せたその表情はあまりにも柔らかくてどくんと大きく心臓を揺らした。
「暴君って、案外良いわね」
「なら暴君の妻は?」
「……!……満更でもないわ!」
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