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熱くて拙い暴君
しおりを挟む「変なひと」
逃げるようにして湯浴みへと向かったヒンメルに続いて、自分もまた別の浴場で湯浴みをする。
近頃まるで嫉妬深い恋人のような振る舞いをするヒンメルを不審とさえ思っていたが、案外気にする事はないのかもしれないと花の香りがする湯に沈んだ。
「すっきりした、ありがとう」
侍女達と和やかに会話しながら支度する相変わらず着る意味の無さそうな布の面積が少なくて上質な透けた服を身につけてローブを羽織った。
ヒンメルと身体を交えて、寧ろ調子がいいなんてのは珍しいことどころか初めての事なのだと最近知った。
「遅かったな」
「こういう支度って時間がかかるのよ」
「どうせ全部必要なくなる」
「それを言ってしまったら侍女達に悪いわ」
下らない話と、少しのお酒。
ヒンメルと過ごすこの時間は初めに想像していたよりも穏やかで楽しい。
そしてやっぱりヒンメルと過ごす夜は情熱的で、目覚めると調子がすごく良かった。
「変わった体質だな」
「相性が良いんじゃないかしら」
別に深い意味もなければ、ヒンメルに視線すらもよこさずに言った言葉だと言うのに彼は黙り込んで唇を噛んで、目尻の下を赤くし瞳を潤ませていた。
不覚にもこの暴君を相手に、可愛いと思った。
「その顔、すきです」
「ハ、そもそも俺の顔は好きだろ」
「そうね……」
魔法で鍵をかけた所為で開かない扉と、朝になっても部屋から出てこない二人にレントンが気を利かせてくれたのは後で知る事になるが、ただ今は互いを求めて知りたがった。
「明日の視察に同行しろ」
二度寝した後、起きるなりドルチェにそう投げかけたヒンメルを不思議に思って振り返る?
「私が?アエリ妃じゃなくって?」
「従者は連れてくるな」
(丁度リビィに魔法を学ばせたかったのよね)
「じゃ、彼は休みにするわ」
「やけに素直だな」
「いつも素直よ、陛下?」
ただ、学びを得る為にリビイルの休みが必要だったのと丁度一致したドルチェは「丁度いいわ」とヒンメルに付いていくことを了承した。
今回の視察には大きく分けて二つの理由があると見ていた。
一つは、帝国を脅かす程ではないが、何者かの勢力によって街全体が隠された武器庫となっていること。
二つ目は、徴収されている人員が兵として訓練されていること。
そしてその人員は不法に集められているという情報の真偽を確かめる為でもあった。
大きな街では無いが、帝都に近く大陸の中心部にあるその街で何かが起きれば厄介なのだろう。
それを何故ドルチェが知っているかといえば、侍女のララは案外、情報収集の能力に長けていたのだ。
けれどまさか第三妃の自分が同行するとは思いもしなかった。
(ヒンメルと二人で旅だなんて、大丈夫かしら)
「視察中……くれぐれも、忘れるな」
そう言って薬指に口付けたヒンメルはやっぱり嫉妬深い恋人のようだと思った。
(まぁ妻ではあるのだけど……)
「そっちこそ」
「ふん、生意気な奴だ」
首に感じるヒヤリとした感覚、憎まれ口に反して優しい手付きでつけられたのは華奢なデザインのネックレスでどうやら保護魔法がかけれられているらしく、千切れないらしい。
ヒンメルの魔力を感じた。
「ふふ、まさか追跡されてたりして」
「……してない」
(強制送還は付いてるがな)
「ありがとう、ヒンメル」
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