暴君に相応しい三番目の妃

abang

文字の大きさ
上 下
19 / 90

熱くて拙い暴君

しおりを挟む



「変なひと」


逃げるようにして湯浴みへと向かったヒンメルに続いて、自分もまた別の浴場で湯浴みをする。


近頃まるで嫉妬深い恋人のような振る舞いをするヒンメルを不審とさえ思っていたが、案外気にする事はないのかもしれないと花の香りがする湯に沈んだ。



「すっきりした、ありがとう」


侍女達と和やかに会話しながら支度する相変わらず着る意味の無さそうな布の面積が少なくて上質な透けた服を身につけてローブを羽織った。


ヒンメルと身体を交えて、寧ろ調子がいいなんてのは珍しいことどころか初めての事なのだと最近知った。



「遅かったな」

「こういう支度って時間がかかるのよ」

「どうせ全部必要なくなる」

「それを言ってしまったら侍女達に悪いわ」



下らない話と、少しのお酒。


ヒンメルと過ごすこの時間は初めに想像していたよりも穏やかで楽しい。


そしてやっぱりヒンメルと過ごす夜は情熱的で、目覚めると調子がすごく良かった。



「変わった体質だな」


「相性が良いんじゃないかしら」


別に深い意味もなければ、ヒンメルに視線すらもよこさずに言った言葉だと言うのに彼は黙り込んで唇を噛んで、目尻の下を赤くし瞳を潤ませていた。



不覚にもこの暴君を相手に、可愛いと思った。



「その顔、すきです」


「ハ、そもそも俺の顔は好きだろ」


「そうね……」


魔法で鍵をかけた所為で開かない扉と、朝になっても部屋から出てこない二人にレントンが気を利かせてくれたのは後で知る事になるが、ただ今は互いを求めて知りたがった。




「明日の視察に同行しろ」



二度寝した後、起きるなりドルチェにそう投げかけたヒンメルを不思議に思って振り返る?


「私が?アエリ妃じゃなくって?」


「従者は連れてくるな」


(丁度リビィに魔法を学ばせたかったのよね)


「じゃ、彼は休みにするわ」


「やけに素直だな」


「いつも素直よ、陛下?」


ただ、学びを得る為にリビイルの休みが必要だったのと丁度一致したドルチェは「丁度いいわ」とヒンメルに付いていくことを了承した。



今回の視察には大きく分けて二つの理由があると見ていた。


一つは、帝国を脅かす程ではないが、何者かの勢力によって街全体が隠された武器庫となっていること。

二つ目は、徴収されている人員が兵として訓練されていること。


そしてその人員は不法に集められているという情報の真偽を確かめる為でもあった。


大きな街では無いが、帝都に近く大陸の中心部にあるその街で何かが起きれば厄介なのだろう。


それを何故ドルチェが知っているかといえば、侍女のララは案外、情報収集の能力に長けていたのだ。


けれどまさか第三妃の自分が同行するとは思いもしなかった。



(ヒンメルと二人で旅だなんて、大丈夫かしら)



「視察中……くれぐれも、忘れるな」


そう言って薬指に口付けたヒンメルはやっぱり嫉妬深い恋人のようだと思った。


(まぁ妻ではあるのだけど……)



「そっちこそ」


「ふん、生意気な奴だ」


首に感じるヒヤリとした感覚、憎まれ口に反して優しい手付きでつけられたのは華奢なデザインのネックレスでどうやら保護魔法がかけれられているらしく、千切れないらしい。

ヒンメルの魔力を感じた。


「ふふ、まさか追跡されてたりして」

「……してない」

(強制送還は付いてるがな)


「ありがとう、ヒンメル」










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...