暴君に相応しい三番目の妃

abang

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それじゃあ、まるで……

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初めは日が落ちて、食事も入浴も済んで輝く程磨き上げられた私の所をヒンメルは訪ねていた。



元よりそれが仕事だと分かって来たし、何よりここに来てから皇帝の特殊な体質と強すぎる力を発散する為にも必要なことだと知ったので特段嫌がることもなく受け入れられた。


あの家族の元にずっと居れば遅かれ早かれ酷使されて死ぬ。

良くてお金の為にタチの悪い貴族に売られるだろう。
そうなれば命の保障が無いのは別に此処でも同じだ、義務を果たし役立つことを証明することで与えられる権利が皇宮ここにはある。


生きる為に生き残って、程よい信頼関係を皇帝と築くこと。
そこに愛など無くても良いのだと考えていたのに、






「遅かったな、ドルチェ」





やけに食事が多いと思ったら、いつもは私が座る上座に佇むヒンメルが得意気に口角を上げている。


近頃やけに早く来る時があるな、とは思っていたがそれでも今日はまた特別早いなと軽く驚いていたら、あろう事かヒンメルは立ち上がってドルチェをエスコートした。



(椅子まで引いてくれるなんて……)



「ありがとうございます、遅くなってごめんなさい」

「良い」

「好きそうなものを用意させた」

「!」

わざわざ晩餐のメニューまで直接考えたというヒンメルに、とうとう此処まで来たら何かおかしいと思って尋ねた。



「特別な仕事があるの?」

「いいや?」

「じゃあ、邪魔な人がいる?」

「居るには居るが、妻に始末させる理由はない」

「じゃあ熱でもあるのかしら……」



そう言って顎に手を当てると「失礼な奴だな」と不服そうな彼の声が聞こえて、視線はステーキに向けたまま「ごめんなさいね」とだけ返事をしておいた。


(ん?そもそもヒンメルってこんなに感情豊かだったかしら)


まだ此処に来てそれほど長くはないが、確かにヒンメルは無表情が多いし初めは目と眉の動きで感情を何となく察知していた程だった。


なのに近ごろのヒンメルは、小さくだけどよく笑うし、拗ねたり、怒ったりする。


「湯浴みはまだか?」

「……まだよ」

「なら一緒に……」

「どうぞ、先に入って」



ほらまた、不服そうな表情のヒンメルに首を傾げる。


近頃、人を呼びつけてはこうやって日常生活を共にしようとする。散歩、買い物、食事、入浴、就寝……


ララの事は気にも留めないくせに、リビイルにはやけに突っかかる。なので扉の近くに待機させているリビイルに視線を軽く送ると突き刺さるような視線を感じた。




「やはり、一緒に入ろう」


「近頃やけに訪ねてくれるのね」


「別に意味は無い」


「そう、じゃあリビィを虐めるのはやめて頂戴」


「……使用人は全員女にしろ」


「私のものにケチをつけるつもり?」


「勝手にしろ」



おおよそ食事も食べ終わる頃、ヒンメルがデザートを食べながら珍しい話をした。



「帝国に宗教の決まりは無いが、リベリア女神を知ってるか?」


「ええ、私は無宗教だけど。好きな女神ね」


「では、彼女がどうやって死んだかも?」


「確か愛する人に箱庭に囚われて、自由を失った彼女は彼女ではなくなったと」



「そうだ、結局リベリアは自由で美しい自分を失い絶望し女神としての美しい心まで失った」



「愛する相手が悪かったのね、自由を象徴する女神がそれを差し出すなんて。けれど愛していたのね、それ程に」


「……! お前なら、どうした?」


「さぁ……昔の私なら差し出したかもしれないわね」


「好きな男が居たのか?」


「いいえ、家族よ。けれど結局私は自由を選んだ」


「そうか」


「愛に殺されたくはないの」


ドルチェは自分がどんな表情をしているのか分からないが、ヒンメルから見た彼女の表情は凛々しくて美しかった。


ごくりと喉を鳴らした音が聞こえて、まるで譫言のように呟くヒンメルが「俺なら箱庭には閉じ込めない」と言った。


「えーー」


「お前の為に何人殺しても、お前は殺さない」


「それじゃあ、まるで……」


「ーっ、」



「私を愛してるみたい」



ドルチェの言葉にハッとして、

染まった頬と潤んだ瞳、見たことのない切なげな表情を隠すように勢いよく立ち上がって「先に湯浴みする!」と逃げ出したヒンメルの様子に思わずドルチェもまた顔が熱かった。
















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