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忠義と親愛と嫉妬
しおりを挟む「皇帝陛下、リビイルと申します。孤児なのでファミリーネームはありません」
黒い髪に黒い瞳、それなりの魔力を感じるリビイルと言う青年は見目も良く背丈もある体格の良い人物だった。
「子供だと聞いていたが」
「……」
(此処に来た理由を調べたのね)
笑顔のままのドルチェを無表情で見下ろすヒンメルとドルチェの背後に静かに控える従者の振る舞いがちゃんと板についたリビイル。
「確かに、妃殿下が最後に私を見られた時はまた子供だったでしょう。しかし近年背が伸び、声が変わりました」
「そうね、私も驚いたわ」
疑うまでもない、まるで親が子を見るような表情のドルチェ。
そして盲目なまでに初めて見た者を親だと慕う雛鳥のようなリビイルの様子にヒンメルは次第に自分の行動が馬鹿らしくなった。
それでも何だか気に食わない。
ララの時とは違う。
何故なら彼は立派な男なのだから。
「ドルチェ、来い」
「……」
笑顔での沈黙、ドルチェがヒンメルの側に来て彼の腕に収まる気配は一向に無い。
素直に従わない性質なのは分かっているがよくこうも思い通りにならないものだ。と苛立ちとも言える感情が湧き上がるが同時にまるで愛猫にそっぽを向かれたような感覚でもある。
観念した、と言うように眉間に皺を寄せたヒンメルがやっと
「来てくれ」と言えばドルチェはゆっくりと彼の隣に収まった。
驚いた表情のリビイルの思考など手に取るように分かるが、ドルチェの従者となるならばこの先何度もこのような場面を見せることになるだろうから放っておく。
「……」
「何でしょう、ヒンメル?」
普段と何ら変わらない表情で見上げるドルチェの手をからめとって薬指を唇で撫でる。
ぴくりと僅かに肩を揺らせたドルチェに追い討ちをかけるように囁く。
「コレを忘れた訳じゃ?」
「私がそれ程命知らずだと?」
くすくすと笑うドルチェの返答は気に入るものじゃ無くて、少し不機嫌になる。
そんなヒンメルの気を知ってか知らずか、
ドルチェは命知らずにもヒンメルの唇に触れるだけのキスをして勝気に微笑んだ。
「それに、私が浮気者にみえるのですか?」
喉を嚥下させて、生唾を呑んだ。
愛嬌もありながら艶やかでもあるこの美しい女を独り占めしたいとさえ思う気持ちに自分で驚く。
あれほど強い者に、魔力を持つ者に拘っていたというのに寧ろドルチェが自分より弱ければ……などと考える。
自分を求めて狂ってしまうほど弱ければ、魔力で縛って、ずっと自分だけの目の届く所に隠して独り占めしてしまうのに。
そんな考えに自分で身震いすると、そんな考えを振り払ってドルチェの髪を撫でた。
「いいや?俺以外に見合う男がいると思うか」
「傲慢な人ね」
少し笑ってそっぽを向いたドルチェにやはり猫を連想した。
(猫など愛でたことはないが)
「リビイル、と言ったな」
「はい、陛下」
「教育はちゃんと受けろ、それと変な気を起こすな」
深く頭を下げて返事をしたリビイルをチラリと見て、口数も多くないし魔力もそれなりに強く、賢そうだなと思案した。
「それは、お許しを頂いたって事でいいのよね?」
「言っても聞かんだろ」
普段なら問答無用で気に食わない奴は殺すが、そうすればドルチェはきっと軽蔑するだろう。
嫌われるのが嫌だなんてまるでどこにでも居る優男にでもなった気分だと溜息を吐いて何やら説明をしている後ろ姿を眺めた。
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