暴君に相応しい三番目の妃

abang

文字の大きさ
上 下
14 / 90

暴れ馬どころか、悪女

しおりを挟む


自らの膝上、手袋をしているとはいえ腰にまわした手から感じる体温はドレス越しよりも幾分か生々しい。



「暑いわ……」


独り言のように呟いたドルチェは心底煩わしそうに、折角かけた上着を脱いでレントンに返した。




「ありがとう、レントン」


「いえ、お気になさらず」

(良い匂いがする……)




何処と無くそわそわした様子で視線を合わせないレントンの耳が微かに赤い。ドルチェの肌に直接触れたものをレントンが着たことが何となく腹立たしくて腹いせのつもりでドルチェの耳先を少し噛んでやった。



「~っ、陛下」

「ヒンメルだろ」

「公の場でしょ?」

「お前は許可する」


軽く驚いた様子のドルチェの胸元に嫌でも目が行く。

見下ろしているからかやけに気になってまるで、これではまだ多感で未熟なそこらの子供だ。


第二妃を無視したことに今気付いて、一応主催であるアエリを呼ぶと表面上の笑顔とは裏腹に鋭い殺気をドルチェに当てた。



「良い夜会だ」

「光栄ですわ、陛下」


目の前には寵妃だと言う事に拘り、周囲からの視線を気にする貴族の女の手本がいる。


と、いうのに膝上のドルチェはまるで「退屈だ」と言わんばかりに俺の装飾品を指で突いて遊んでいる。



もはや「早く下ろしてくれませんか」なんて言い出す始末で、人目どころか俺のことすら気にしていない。



それが更にアエリを煽るのだが、半分分かってやっていて、半分は本当にどうでも良いのだろう。




驚くことにきっともうドルチェにとってアエリは取るに足らない存在となったのだろうと理解した。



魔力も俺と対等、それに妻としての役目がドルチェで務まる以上、後は政略的な理由だがまぁ焦る必要はないだろう。



「陛下、勿論今夜はお祝いしてくれますのよね?」



ただ、言葉通りの意味だ。


けれど人々はそうは受け取らない。

「やっぱりな」とアエリと俺との色っぽい関係を口にし始め、寵妃だ、跡取りを産むのはやはりアエリだと隠しきれていないヒソヒソ声で噂し始める。


そうなればドルチェのこの格好も「皇帝の情婦」という言葉にもっともらしさが増す。


「アエリ様、お可哀想ね」なんて女達からドルチェへの非難の声が上がって大抵の女はこういう策に脆く傷ついた顔をする。


まるで「私が悪い訳じゃないのに」って顔を。


別に心配してやる訳じゃないが、なんと無くドルチェを見ると特に変わった様子は無い。

それどころかレントンが目を見開いたまま俺の膝の上で遊んでいるドルチェに釘付けになっているではないか。


美しい銀髪なのに、邪魔になったのか片側に避けて俺の席、俺の膝上から皆を見下ろして





ー笑った






(この程度の悪口なら、言われ慣れてるのよ)





ざわり 騒がしいだとかそう言う訳じゃない。

皆がドルチェの雰囲気にのだ。


体勢に疲れたのかまたは挑発か、俺の肩に頬を預けて首元に鼻先を掠める体勢で皆から視線を逸らす。



「美しい……」


聡く強い者が好きなレントンのうわごとに少し苛立って、軽い静電気のようなもので痛めつけてやると恨めしそうにしている。


なにも反論をしていないのに、全員を黙らせたドルチェに感心した。



(いつもならこの程度、放っておくが)


「勿論だ、お前には贈り物を用意してる」


「……! 嬉しいですわ、陛下」



「なんだ、そう言う事か」なんてがっかりする皆の声を遠くに聞きながらとんだ暴れ馬どころかとんだ悪女を第三妃程度の椅子に座らせてしまったなと思う。



ドルチェとレントンくらいにしか聞こえない声で、意図せず溢れるように囁いた自分の言葉に何を言ってるんだとハッとした。



「皇后にでもなるか?」


レントンがびくりと肩を揺らして、俺をハッと見る。

けれど、ドルチェは肩に埋めたままの顔を上げさえしないで気怠げに返事をした。




「嫌よ、長生きをしたいの」

(そういうのは本命とか、家柄の良い人がなるものでしょ)


「……揶揄わないで」




レントンが笑いを堪えているのにまた腹が立って、チクリと地味な魔法で痛めつけてやった。












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏
恋愛
 大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。 メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。 (そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。) ※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。 ※ヒーローは変わってます。 ※主人公は無意識でざまぁする系です。 ※誤字脱字すみません。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...