暴君に相応しい三番目の妃

abang

文字の大きさ
上 下
13 / 90

品のない情婦?

しおりを挟む


ウエストの両端に、切れ目。

ドレスの裾から膝あたりまでギザギザで、胸元は元よりも深く切れ込みが入れられた独創的なデザインのドレスが届いて、ドルチェは流石に「してやられた」と思った。


アエリが急に夜会を開くなんて言うから何か魂胆があるとは思っていたが……


「まさか、業者を買収するなんてね」


けれど裾なんて切り取って仕舞えば問題は無いし、ウエストもいっそコルセットを外してくびれの部分をあえて見せれば、それはそれで斬新で良さそうな気さえしてくる。


ドレスを作る人達はこんな気分なのだろうか、急遽開かれることになった明日の夜会の為にこのドレスを修復するのが少しだけ楽しみになった。




「あなた達、裁縫はできるかしら?」



意気揚々と返事をした侍女、メイド達に紙におおよそのイメージを描いて説明していくと優秀なこの子達はすぐに作業に取り掛かった……



皆で夜遅くまで作業して、やっと出来上がったドレスを今度はもう安全だとカバーを掛けて解散したのが深夜。




翌朝、鏡の前でくるんと回ると支度を手伝ってくれた皆から口々に称賛を受けて、ドルチェもまた皆の手腕を称賛した。





「ありがとう……!うん、素晴らしいわ」




「皆のおかげよ。行ってくるわ」



皇宮で行われるこの夜会にはきっと国中から貴族達が集まる。

そんな場で恥をかかせるのが目的だったのだろう。

悲惨ドレスを着て会場へ急いだ。


皆、知りたがっているだろう、他国から来た皇宮の端に引き篭もる三番目の妃がどんな人なのか……




「何よ、あれ……!?」

「なんて甘美なんだ……」

「あの方が……お美しい人ね」

「でもちょっとドレスが斬新じゃなくて?」


先ず目を引いたのはドルチェの引き締まった白い脚、身体にぴたりと沿った膝までのスカートのドレス。


「脚を出すなんて……」

「それに、コルセットは着けてないの?」

初めこそあまりに甘美で美しいドルチェに失敗したと思ったアエリは混乱する貴族達に内心にやりとした。


「あんなの、まるで本当に情婦だわ……」


アエリの言葉に皆が口々に戸惑いを表し、これでは面子の立たないヒンメルは激怒するだろうとほくそ笑む。


ドルチェと目が合うが、特に傷ついた様子もなければ気にした風でも無いのが憎たらしくて席に着いたままのヒンメルを盗み見る。



(早く、ドルチェの鼻をへし折るのよ)


早く、早くとドルチェの破滅の始まりを願うアエリの思いが届いたのかヒンメルはゆっくりと席を立ってドルチェに向かって進んだ。




チョーカーから胸元までのシースルーで辛うじて隠れている谷間も、露わになった腰元の肌も、脚も、全部が貴族どころか大陸中を探しても居ないだろう斬新なファッションは、保守的な貴族にはにわかには受け入れ難いだろう。


そして、自らの名を汚したドルチェをヒンメルは無能だと判断するだろう……そう予想していたのに……




ヒンメルと目が合ったドルチェは怯える様子もない。


ゆっくりと距離の縮まった二人、会場の空気はこの先どうなるのかと皆息を殺して傍観している。


アエリはドルチェに主役を奪われた気分で気持ちよく無いが、これでドルチェの鼻を折ってやれるなら良いかとも考えていた矢先、



何を思ったかヒンメルは上着を脱いでドルチェの腰に巻きつけると、そのまま横抱きにして席まで歩き出した。


「ちょっと、陛下……!?」


声を上げるアエリを無視して、珍しく呆気に取られたような表情のドルチェを膝に乗せて座ると彼女の肩に口付けた。



「陛下?」

「ヒンメル」

「……ヒンメル、どうしてこんな事」

「美しいが、生憎全部俺のものだ」

「……嫉妬深いのね」

「嫉妬?馬鹿なことを言うなお前は」



黄色い歓声、驚愕、祝福、会場は予想外のヒンメルの行動に盛り上がってドルチェを「寵妃」として受け入れる。


とうとうレントンの上着まで剥ぎ取ってドルチェの肩にかけた暴君に人々の想像は盛り上がるばかりで、


アエリの予想とは裏腹に、ドルチェを嫉妬するほどに寵愛するヒンメルを焼き付けただけの失敗に終わった。


「ーっ!良いわ、この程度は通用しないって事ね」



ならもっと、痛めつけてやるわドルチェ……

アエリの視線を感じながら、ドルチェはそのままヒンメルの首に手を回した。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...