暴君に相応しい三番目の妃

abang

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重なる偶然は仕組まれたもの

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近頃やけに会うアエリにストレスを感じない訳ではないが、こんな所でまで会うとは思わなかった。


「あら、ドルチェさん。奇遇ね」



奇遇?おかしな話だと思った。

ここは皇帝のプライベートな場所の一つ。

皇宮の奥にある大浴場で、彼の膨大な魔力操作で疲れた心身を癒すお気に入りの場所なのだから。


その道中、まるでそこから出てきたという様子のアエリに出くわした。



「ほんとですね、近頃良く会いますね」

「ふっ……陛下なら大浴場ですわよ?」



例え、ドルチェとしてはアエリがヒンメルと一緒に湯浴みをしていようが仕方がないので、知った事ではないのだが、いかにも何かありましたと言う風なアエリがあまりにも必死に見えて少し付き合ってあげることにした。



「そう……邪魔をしたみたいですね」

「そうね、貴女が来るから仕方なく席を外したのよ?」

にやりと口元を緩めて扇子を開くアエリは続けてまるで皇帝の代わりとでもいうような素振りで尋ねて来るではないか、ドルチェはなんて馬鹿な人なんだろうと内心で首を傾げた。




「で?何の要件で態々来たのかしら?」






(ああ、知らずに居る方が幸せだったのにこの人って……)




(何て可愛い人なの?)



「第ニ妃ともあろう方が、そんなに気になるんですか?」


「私は貴女の為に気を使ってあげたのよ?折角の夫婦の時間に……」



「呼ばれたんです」


「は?」


「だから、呼ばれただけなので私にも分かりませんわ」


「……私を差し置いて第三妃を呼んだと?」



「少し、語弊がありますね」



ほらやっぱり、そんな表情をしたアエリは期待するようにドルチェの言葉を待っていてそんな様子が滑稽に見えた。



「さっきまで、一緒に居たので呼ばれたと言うよりは……」



「何ですって!?」


「ひと足先に行っておけと言われたんです」


「なんで……っ、そんな虚勢を張ったって……」


「ふふ、汗をかいたので」





そのまますれ違いざまにドルチェの髪に手を掛けようとしたアエリの手を取って微笑む。



「あぁそれと……この間うちの家門に圧力をかけたらしいですね」


「ふっ、何の事かしら?」


「ありがとうございます」



にっこり、清々しい笑顔で礼だけを言い残して去ってしまったドルチェを高いヒールで足がもつれるのも気にせずに追いかけて、

憎いほど綺麗な銀髪を掴んで後ろに引っ張った。


「ーっ!」

「あんまり調子に乗らない方がいいわよ、ドルチェ」




「いいんですか?好きな人の目の前でそんな醜い姿で」



「なにを……っ、え、陛下ッ!?」





ヒンメルは特に驚いた様子もなくいつもより幾らか薄着なだけの涼しい表情でアエリの背後に居て、ドルチェが避けなかったのはまさか……と考えてアエリはざわりと胸に気色悪い感じがした。


「その姿もまた煽情的だな、ドルチェ」

「まさか、加虐趣味が?」

「さぁな……だが、俺以外にその姿を見せるのは何故か気に食わないな」


「じゃ、手を貸して下さる?」


「生意気な……ッ!!」


アエリが更に手を振り上げた所でヒンメルの抑揚のない声がアエリを呼ぶ。



「第二妃」


「……っ、陛下」


「この先は俺の個人的な場所だったと思うが?」


ドルチェに手を差し出しながら横目で見るヒンメルにアエリは叫ぶ他無かった。


「陛下は、変わったわ……!!!」

「……変わった?」


ヒンメルの眉間の皺が深くなって、アエリが不味いと感じた時にドルチェのよく通る声が通り抜ける。



「変化は誰にだってありますわ、良くも悪くも変わりゆくものです」


「はっ!移り気な女の言いそうなことね!」



「変わらないものがひとつ、あればいいのです」


「変わらないもの?」


「私にとってのヒンメルのように……」




してやられた、そう顔に書いてあるアエリがやっぱり滑稽で思っていたよりも可愛い人だと思った。






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