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どうして?私が一番の筈でしょ?、
しおりを挟む怒り心頭、それを隠しきれていないアエリの表情を見てヒンメルはドルチェの時とは違う嘲笑的な意味で笑った。
賢いと思っていた事自体が買い被っていたのか、賢さゆえに何も持たぬ筈の娘を脅威に感じているのかでまた違うが、今のアエリは見た事が無いくらい感情的だった。
強いて言うならば……
「まるで、浮気でもされたような顔だな」
「似たようなものですわ、陛下」
「そもそも第二妃とは契約上の関係な筈だが?」
「ーっ、それでも役に立つ内は私が一番の筈でしょ?」
「はっ、無礼講か?」
ヒンメルがアエリの砕けた口調を指摘すると、彼女はハッとして小刻みに震えながら慌てて謝罪する。
「あっ……ごめんなさい、陛下」
至極面倒そうに溜息をついて用件を急かすヒンメルに、アエリはぎゅっとドレスのスカートを握りしめた。
「で、結局何が言いたい?」
「立場をはっきりさせて下さい……っ」
「ドルチェは役に立つ上に、強いが?」
「あの女がどうやって役に立つんですか……!?」
レントンがヒンメルに耳打ちすると、ヒンメルは「ほぉ」と感心したような声を上げた。
「別宮の運営は少なくともお前より上手いようだが?アエリ」
近頃は嫉妬に狂い、選ばれた妃や愛人を追い出す為に悪事の口止や揉み消し、気に入らない使用人をすぐに消すのでまた口止めと、残らない金の使い方を繰り返していたアエリはぎくりとした。
「な、何も問題はない筈ですわ」
「使用人や俺の部下達からの信頼も厚いようだ」
「だからって……私には家門の力も築き上げてきた権力もあります!」
「なら、役割を果たせ。余計なことばかりしてる場合か?」
「ーっ」
そんなアエリを冷ややかや目で見ながら、抑揚のない声で忠告した。
「勝手に争うのは構わんが、がっかりさせるな第二妃。馬鹿は要らない」
「なら、私の寝室にも来て下さい」
「ハ、無理だな。つまらん」
(つまらない、ですって?この私が……?)
それもその筈だった。
魔力の弱い者には毒に、魔力がある程度多い者にはまた徐々に別の効果を露わす。
ヒンメルの力とのギャップに相手の肉体が持たないのも勿論だが、まるで依存性のある媚薬のような効果があり、徐々に身も心も崩壊して色狂いの化け物と化すのだ。
いくらか人より優れているとはいえ、目の前に居るこのアエリ程度ならば数日と保たないだろう。
彼にとってアエリは別にそこまでして触れたい相手でもないし、態々気遣ってやりながらするのも面倒なだけ、
(まぁ……あの生意気な三妃なら色狂いでもかまわんが)
けれどドルチェの場合、同格の力を持つ所為か彼女もまた強い力を持つ故の体質か、ヒンメルのものとうまく混じり合って強化されていたではないか。一時的なものだとしてもまるでマーキングようだと少し優越感があった。
「お前など持っても数日、死ににくるなら話は別だが」
「……っ、ごめんなさい陛下」
「ハ、さっさと帰れ。下らん事で来るな」
「ひ、ヒンメル……っ、愛してるの!」
「契約上の関係だ。変えるつもりはない、辛いならいつでも家に帰れ」
「でもっ!私以外にヒンメルに相応しい人なんて……っ」
「そもそも誰が、名前を呼ぶことを許可した?」
アエリはあまりの恐怖に悲鳴をあげながら尻餅をつき、護衛の騎士達に別宮まで送り届けられた。
けれどもアエリの別宮からは花瓶の割れる音や、ヒステリックか声が聞こえるようになり、ドルチェへの当たりは強くなるばかりだった。
「第三妃の行動を些細なことでも監視して!」
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