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寵妃の意地と三番目
しおりを挟む私の住む西の宮には今日もメイドの悲鳴が上がった。
「何事?」
「どっ……ドルチェ様、また……!」
「貸してみなさい」
「見てはいけませんっ!」
執事やメイド達が引き止めるのを宥めて豪華な箱に綺麗に包装されたものを確認する。
「目玉ね、ほんっと悪趣味なんだから」
初めは爪や、髪の毛だったが効き目が無いと思ったのか段々と過激になってくる贈り物は宛名はないが明らかにアエリからのものだった。
「これから宛名のない贈り物は開けずに別の部屋に置いておいて、危険だし私が確認するわ」
「ですが……!それではドルチェ様が……!」
「私がそんなにか弱く見える?ふふ……ありがと」
メイドは頬を染めてぺこりと頭を深く下げた。
執事の咳払いで急いで仕事に戻ったが、その隙に私はその箱をその場で燃やしてしまうことにした。
「怖くはないけど……ずっとこれだと困るわね」
「では、こちらからも何か贈り物をしては如何ですか?」
「あら……、そうね」
物静かで口数の少ない執事の意外な言葉に少し驚く。
敵意こそ感じないが、皇宮の執事だ、それなりの家柄な筈。
情婦だと分かっていて嫁いできた妃など軽蔑の対象だろうと思っていたが、やけに好意的な侍女達と執事のまるで私に助言するような台詞に「嫌われてはいないのね……」と思わず零した。
「滅相もございません、私共はただ見守るようにと命じられていただけです」
「なら何で、今日は助言したの?」
「……独り言だと思って下さいませ。妃殿下」
「ふふっ、うん、分かったわ」
何にしようか、考えるついでに気分転換に宮の外へ出ようと提案すると少し考えてから「お気を付け下さい」とだけ言って仕事に戻った執事を視線で見送った。
侍女のララは快活な女性だ、どうやら私よりまだ若い彼女は追放という形で家門から追い出されて此処に来たらしい。
(まるで私に仕えるのが罰だとでもいうような制度ね)
けれどそれもそうだろう、最悪の場合は主と共に仕えている者も死んでしまうのだから。
それなのに、ララは私を気に入っているようだった。
「ララ」
「はい、ドルチェ様」
「貴女は何故、追放されたの?」
「……婚約者の恋人の髪を燃やして見世物にしたんです」
意外だった。彼女の淡い青色の髪は炎と言うよりも氷のようなのに、あまりにも情熱的な話だと思った。
「へぇ、ふふ。浮気者と婚約してたのね」
「! ……初めてそんな風に言われました」
「何故?髪を燃やしたのは良い案だったと思うわ」
ララは俯いたまま話しを続けた。
「皆、咎めます。私は怒りのあまり魔法を良くない方法で使ってしまったので、だから性悪だと……」
「じゃあ、私にピッタリね。見世物にはどうやったの?」
「結界魔法が得意で、閉じ込めて……」
「あははは! すっきりした?」
「……はい! 元婚約者が髪のない恋人を見て私に戻って来たのが滑稽で笑ったら、性悪な魔女だと此処に追放されました」
そう言って少し辛そうに笑ったララは真っ直ぐに私を見て言った。
「怒りに任せた事は反省しています。けれど、すっきりしました!それにドルチェ様ほどお美しくてお強いお方には会った事がありません。私は侍女になれて光栄です!」
「……良かったわ。宜しくね、ララ」
「はい!」
和やかな雰囲気を壊すような甲高い音。
見え難いように音の魔法だと直ぐに分かった。
ララの首を狙っているだろう軌道、思わず彼女を守ろうと魔法を出したが彼女ごと私を覆う結界魔法が目視出来た。
「大丈夫です、耐えきれない場合はご迷惑をお掛けするかもしれません……!」
「ふ、ありがとう。良い侍女を持ったわ」
攻撃が成功したのかを確認しに来るあたり、正確性が無いのだろう。使用人の格好をしたその者は私達が平気なのを確認して目が合うとマズイという表情をしてから取り繕った。
「申し訳ありません、草を刈っていたんです~」
「第二妃の使用人です、ドルチェ様」
「そう……」
私はララの話を想像してその使用人を魔法で作った箱に閉じ込めた。そしてじっくり焼く事にした。
「このままこれを、送り返して頂戴」
「やめ!痛い!熱い!!!!!」
「はい、承りました。ドルチェ様」
アエリの悲鳴が彼女の宮に響き渡ったのは、それから直ぐだった。
「ほう、好き勝手やってるようだなドルチェは」
「思っていたよりも暴れ馬ですね、陛下」
「まぁ少し……宥めに行くか」
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