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予想外で、規格外な新しい妻
しおりを挟む優雅に着席したドルチェの所作は非の打ち所がない。
流して片側に寄せた銀髪も、食事の為の派手すぎないドレスの選択も、物音が立たない丁寧な食べ方も、多過ぎない口数も一緒に居て心地良い。
(邪魔にならないというのか?煩わしさを感じないな)
女性と話すたびに感じる「私を見て、私を知って」という猛烈な圧力。
明らかに自分の反応に大袈裟に一喜一憂する相手の感情の起伏の差に疲弊する。その癖に期待に沿わない反応には過剰に傷ついたり腹を立てるのだから煩わしいことこの上ない。
そんな女達を黙らせる為に一番物分かりが良く、強かで私の目の届かないところでもある程度自分で危険を回避できる強さと賢さを持つアエリと契約結婚した。
正妻にしなかったのも女性として愛している訳ではない為に夫婦の義務を全うしなくても良いようにだし、彼女も納得している。
次に来た妃は大人しく、時々無駄な会話を交わせるほど害のない女だったがいかんせん弱かった。
魔力など持っているだけで使いこなせる才能は皆無だったし慎ましく賢い女だったが目を離せば危険な状況に陥っていた。
元々は敗戦した他国の末娘が貢物のように贈られて来たものの、あまりに弱々しく捨ておけず仕方なく側に置いただけだったが、癒しを求めていたのか、情が湧いたのかいつしか夜を共にするようになり仕方なく第三妃へと召し上げたがそれがきっかけだった。
元より臆病だった性格は、気を病んだように崩れていった。
別に愛していたわけでは無いが、無害な第二妃への無惨な仕打ちにアエリからの強い執着を感じた。それは第三妃がアエリによって殺されたと知ったのがきっかけだった。アエリは正妻でない事に納得していないと知ったのだ。
執念深く、嫉妬深い。
健気な第二妃を演じるアエリは俺にとっては狐というより蛇のような女だった。それでも……愛を求める女や、すぐに壊れてしまう女、庇護してやらないとすぐに死んでしまうような手のかかる女達よりはマシだった。
(どの道妻を娶らなければならん立場だ。居ないよりマシだ)
けれどだんだんとあからさまに愛を求めるようになったアエリにとうとう疲れて、その後何人か魔力の条件を満たしかつ有能な女を娶り愛している振りをしたがどれも呆気なく心か身体を壊されて死んでしまった。
三番目の妃の座は、使い捨ての皇帝の情婦とまで噂が流れるようになった。
帝国内でもうこの座に娘を召し上げようとする貴族は居なくなり、とうとう近隣国で評判の娘に打診を送ったが身代わりに来た姉には全く期待などしていなかった。
(どうせすぐ死ぬかと思ったが……予想外だ)
「綺麗だな」
「……え」
意思とは別に、目を奪われる透明感と存在感。
強い瞳に凍えるほど冷たい雰囲気。
それにこの規格外な魔力とその恩恵を一身に受けたような美貌。
「お前は、長命種だな」
「わかりません。魔力測定をした事がありませんので」
「だが人より優れている事は自覚しているな」
「両親の誇りである妹があの程度なら」
「ほう」
「あ、でも陛下は妹を妻にと仰ったんでしたね」
「別に、どっちでも良い」
「へぇ」
普通なら妻が姉妹のどちらでも良いだなんて怒る所だろうが、ドルチェは少し嬉しそうな表情をした。
不覚にも可愛いと感じ自分でも驚くが辛うじて表情には出さない。
(なんだ、今のは)
(私と妹を比較してより良い方を選んだ訳じゃなかったのね)
「「……」」
「食事の後、散歩でもするか」
宰相がフォークを落とす音がやけに大きく響いた。
あからさまに動揺している執事やメイドの様子を見ても今の発言は自分らしく無かったと分かる。
「や……」
「はい」
「!」
「丁度、夜風にあたりたい所でした」
「そうか」
取り消そうとしたものの、遮られて返ってきた返答に安心する。
何故かやけにドルチェに興味が湧く。
甘くて綺麗なだけじゃない、食えば毒まで喰らいそうな女。
面白いと思った。
ただ、それだけだ。
夜風に靡く銀髪が綺麗だと思ったのは、自分に並ぶほどに恩恵を受けた人物を初めて見たからだ。
(きっと、そうだ)
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