暴君に相応しい三番目の妃

abang

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地味で醜女、身代わりの長女

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真っ白な髪に金色の瞳、体格の良い酷く美しい目の前の男を見て宰相は肩を落とした。


見目こそ完璧だが、中身は欠陥だらけのこの幼馴染は見目に嫉妬し自分に酷く暴力を振い続けた兄弟達も、母とこの男の魔法の才能に嫉妬し酷く虐めた前皇帝である父親も僅か十歳の頃に全員殺してしまった。



「伯爵家から娘は来たか?」


「もうじき到着するでしょう、しかし……あの伯爵家は没落寸前な上に暫く期待する程に魔力が多くある者は生まれていません」


「魔力を多く持つ、選ばれた者は容姿を見れば分かる。人とは思えない程の美しさを賜るらしいからな」


つまらなさそうに手元のペンを弄り、まるで期待などしていないと言いたげに肩をすくめる。


「あの程度の女では困るのだ、まぁする賢さは買っているが」

「第一妃殿下の事ですか?」

「ああ。壊れない丈夫な妻だといいが」



皇帝は利用価値があるから側に置いているだけで、第二妃のアエリの事を愛していなかった。寧ろ心の中の醜悪さと嫉妬深さにうんざりしているようで、容姿は美しいが「胸焼けする」といつも言っているほどだ。


それでも女達や貴族達の中で図太く生き残る強かさや生まれた家門も利用価値があるし一々庇護しなくても手のかからない都合の良い妃だった。

人より多い魔力も持っているのも選ばれた理由だった。

自分が魔力の差で家族と上手くいかなかったこともあって彼はなるべく対等で、生まれる子の為にも強い妻を願っている。


「ですが、本当に良かったのですか?」

「何がだ」

「美しいと評判の末の娘ではなく、醜女だと噂の長女だなんて……」

「姉妹でそう変わるか?」

「ただの噂だと良いけど……」

「まぁどっちでも良い。会えば分かる」


暫くしてあまりにも質素な馬車と少ない荷物で来たドルチェには驚いたが、更にがっかりしたのは地味な焦茶色の髪は顔を隠すように前髪が長く、サイズの合わないドレスは時代遅れだったことだ。


(センスも、容姿も、微妙だな恩恵があるように見えないな)

悪くはないが微妙。

それが宰相レントンからドルチェへの第一印象だった。


「ようこそ、貴女がドルチェ嬢ですね?」

「はい」

「私は宰相のレントン・ビエラスタです」

「……宜しくお願いします、宰相様」


何となく笑顔が可愛いと感じる、その程度でとびきり美しいだとかそう言うわけではないドルチェはとても魔力に選ばれた人間だとは思えない。


(今回もハズレだな。可哀想に、いつまで持つか……)


「今から皇帝陛下に会いに行きますが、お疲れでしょう。まずは少し休んでから支度を手伝わせますので案内に従って食堂へお越し下さい」


「分かりました」


(気が弱そうな訳ではないが物静かな人だな……これではすぐアエリ妃に……)



「あの……宰相様」

「何ですか?」

「髪の染料を落とせるものはありますか?」

「用意は出来ますが……」

「では、お願いします。後ハサミをお借り出来ればと……」

「そちらも一緒にご用意致します」

「ありがとうございます」



まぁ別に染料を落とす薬やハサミで何か出来る訳でもないし、あの皇帝がその程度で万が一にでも何も起こるはずが無い。


(髪でも染めているのか?伯爵はどんな髪色だったかな……)


まさか、レントンの第一印象が全て覆されるとは思いもしなかったのだ。




「見て、あの方が次の第三妃ですって」

「……地味ね」

ヒソヒソと話す声が聞こえて後ろのドルチェを見るが聞こえていないのか、気にしていないのか特に反応はない。


この程度で泣かれても困るが、なんせ結婚相手はあの皇帝なのだから。


血筋に魔法の才能があり、政治的に弱いなるべく力の無い家門の娘でもう当てはまるのはこのドルチェくらいだ。

レントンは正直あまりアエリにいい感情を抱いていないので、彼女よりはマシそうなドルチェに心の中から応援した。


(頑張って下さいね、ドルチェ様)



あの蛇のような女が皇后になるよりは、大人しい女の方がマシだろう。


その程度にしか思っていなかったレントンの予想は大きく裏切られることとなった。



「遅いな」

「おかしいですね……もう来る筈ですが」


「お待たせして申し訳ありません……」


「「!!」」


作り物かと疑うほどに整った顔、体型が良くわかるドレスに浮かぶ理想的な女性らしい曲線と、陶器のような滑らかな肌。


なによりも、かつて偉大な魔法の使い手を沢山生み出したヴァニティ伯爵家の全盛期を思わせる輝かしい銀髪。間違いなく彼女が魔力に恵まれた証だ。


皇帝、ヒンメルの口角が上がったのをレントンは見逃さない。


ヒンメルは「こっちで正解だったか」と母譲りなのか美しい金髪だった彼女の妹の写真を思い出して思わず口に出した。



「はい、後悔はさせませんわ。陛下」


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