暴君に相応しい三番目の妃

abang

文字の大きさ
上 下
1 / 98

家族の愛なんてもう信じない

しおりを挟む

由緒ある家門であるだけの貧乏な筈のこの伯爵家は表面上、昔と変わらない輝きを放っている。


アカデミーに通う兄の為に金策、社交会でより良い縁談を見つけたいと言うの妹の為に金策、貧しくて使用人が少ない為に貴族令嬢なのに家事や雑用もした。 


「苦労をかけて御免なさいね」と涙する母の為に、後継者である兄と可愛い妹に付きっきりで忙しい父の為にこの伯爵家を守る為にひとり屋敷に篭って帳簿と睨めっこして来た。


けれど、どこから聞きつけたのか帝国から来た手紙には第三妃の喪が開けた途端にとてつもない結納金と借金の肩代わりの約束を代償に美しいと評判の末の娘を妃に寄越せという手紙だった。

暴君とは言え、皇后空席の今この大陸で二番目に権力のある女性になれるのだから名誉なことだが妹はひどく反発した。



「お父様!私嫌よっ……!帝国へ行くなんて!」

「あなた、シェリアはまだ十六歳なのですよっ……」

「うむ、だが帝国からだ……大陸が統一された今皇帝からの命令には逆らえない」


(どうして?皇帝の妻であればいい縁談じゃないのかしら)



泣き崩れる妹と母を目の前に困惑する。

妹に自分より目立つな。と父親譲りの艶やかな銀髪はありきたりな茶色に染めさせられ、貧乏故に社交会に出られない私は妹のお古のドレスを着ているがこれ程の大金があればもう新しいドレスを着られるし、妹だって皇帝の妃として裕福に暮らせるのでは?


なのに何故、使用人を含めた皆が私を見ているのだろう。


まるで、「私が代わりに行くわ」という言葉を待っているかのように。


 
(何かワケがあるのか、暴君だから?)



けれど本当はもっと前から勘付いていた。


「愛されている」血の繋がった家族にはそう思われていると何故か信じたかっただけだ。


兄や妹とは違う扱い「ごめんね」と言いながらも緩む口元を隠そうとする家族の表情。



「今日はシェリアお嬢様のお部屋を掃除して下さいね、ドルチェ様」とまるで見下したような侍女長の目。


ぜんぶ見れば分かる。それほど私は馬鹿じゃない。

家族は私が一番の宝だと言うが、本当は上手く利用されているだけ。


それに、もう隠せない。ずっと良い子で居た私を全て覆えしてしまうような込み上げる黒い感情。


今更になってあんなにも欲しかった「家族からの愛情」が無意味に思えた。

だって家族はいま「宝」を身代わりにしようとしているのだから。


(なら、欲しい言葉をあげるわ)


「お父様、私が行きます」



ほら、私の言葉を聞いた瞬間の表情が物語っている。


と心が透けて見える。

見た事もないほど醜悪に歪んだ妹の表情と、ホッとしたような母の表情。

ただ冷ややかに当たり前の事だという憎たらしい目で私を見た父の表情が何故か今日はやけに気に触る。



行くのが自分ではないと分かるが否や明るい表情で悪気の無さそうに、無邪気な声で私へと向かってくる残酷な言葉。


「見た目は劣るけれど、ただの情婦だし……お姉様でも大丈夫よね!」

「そうねシェリアが可哀想だものね」

(私も貴女の娘だけど、可哀想じゃないの?)


でももうどうだっていいとすら思えた。

あんなにも求めていた母からの愛情も、父からの信頼も。



「そうね、シェリア。此処よりはマシかもしれないわね」


「!?」

「お前……気が触れたのか?」

「お姉様、どうしたの?怒ってるの?」


ほんと、分かりやすい子。

今も私の醜態を目に口元が弛んでいるというのに、まるで声色だけは怯えたように装っている。


酷く驚いた様子の母親と、怒りを隠しきれない様子の父親を冷めた目で見下ろした。



「では、準備がありますので。お先に失礼します」


毎日あれ程楽しみだった家族との食事の時間が煩わしい。


(皇帝について調べなきゃ……)







しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。

藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。 どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。 そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した…… はずだった。 目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

正当な権利ですので。

しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。  18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。 2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。 遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。 再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。

冷遇された妻は愛を求める

チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。 そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。 正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。 離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。 しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。 それは父親の死から始まった。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

処理中です...