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とある皇帝の憂鬱

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「ダニーあれは誰?」


「あれは、建国パーティの来賓でラハウェイ王子殿下ですね」


「なぜ僕のティアラと一緒に?」


「さぁ?おおよそ偶然会っただけか、迷ったのかと……」



来賓のもてなしを担う皇后が不在の為もあり、殆どの業務はダニエルへと回っていたが、皇帝の婚約者であるティアラは実質の皇帝のパートナーである為が来賓への対応に忙しくしているようだった。



そして、もう一つ気に入らない事と言えばまるで護衛騎士かのように至る所に現れるエバンズがティアラに言い寄る他国の者達を上手くかわしていると言う事実だった。



「何故、あんなに上手いタイミングで現れるの彼奴は」


(それでティアラがエバンズに惚れたらどうしよう)



「心の中が明け透けですが、陛下。もう少し余裕を持っては?」




「ティアラを相手に余裕だって?」


「では、早くプロポーズされては?」



「……」


「アシェル!!」


無言で硬直したアシェルが熱いお茶入りのティーカップを中身ごと落とした。


驚いて思わず、素の状態でアシェルを呼ぶダニエルにハッとしたように魔法で自らを守って火傷を逃れるアシェルにダニエルは「自分が魔法をかければよかった」のだと咄嗟に彼を呼ぶ事しかできなかった自分に悔やんでいる様子だったが、アシェルにとってそんな事は問題ではなかった。



「ぼ、僕を受け入れてくれるかな……」


(……でなければもう別れていると思いますが)

ダニエルが何か言葉を飲み込んだのをとりあえず見逃して、ティアラにプロポーズする自分を想像してみる。



「……」

「……陛下?」



暫く、何度も何度もシミュレーションしているとダニエルが訝しげに覗き込んできた。



「………だめだ、三度もフラれた」


「は?」


「いや!まだ駄目だ……ちゃんと僕が証明しないと!」



(この人は本気で言っているのか?)



「陛下、でしたら尚更プロポーズされては?」



ダニエルの言葉にふと不安が募って返事が出ない。



(信じられないから無理だと言われたら?)


皇帝になった今では、国民を守る義務が付き纏う為に非現実な話となったが、こんな事なら皇帝になどなる前に鬱陶しい令嬢共をぜんぶおくべきだったのではないか。とさえも思ってしまう。



(いや、一番悪いのは僕だな。どうしたらティアラが安心して僕の妻になってくれるか考えないと)




「……あっ」


ダニエルがふと窓の外をみて呟いたので、何となく自分も目を向けると……



「あら~、ティアラ様。今日も

「まぁまぁ……そういえば、ティアラ様は知っていますか?」



「挨拶よりも先にどうしても話したい事があるようですね?」



「ーっ、生意気だこと!いくらウィンザー家とはいえ……」

「いいえマルシアさん、ウィンザーともあろうものがと言った方がいいでしょう」





「何を仰りたいのでしょうか?生憎忙しいのです」



いつのまにかラハウェイ王子と離れていたティアラがとある二人の令嬢達に絡まれている様子で途切れ途切れにしか聞こえないものの、はっきりと聞こえた「皇后気取り」という言葉に苛立つ。



「何処かで見たことあるね」

「ああ、きっとで貴方に上手く躱された令嬢達でしょう」

「……邪魔だなぁ」


「ですが、今貴方が出て行く事をティアラ様はお喜びにならないでしょう」




魔法をかけて、音がこちらまで届くように仕掛ける。



ティアラを嘲笑うような声、

「パトリシア様のことを知らないのですね?」


クスクスと笑う令嬢達を澄ました表情で見つめるティアラ。




だけどもと言う名前には聞き覚えがあった。




『アシェル……私を彼女だと思ってもいいのよ』


『私を満足させられたら、解放してあげるわ』


『私のがいつでもティアラを襲えるわ、彼らも腕利きの魔道士よ』




今はもう新国になった際に一掃した家門とはいえ令嬢ならば何処かに嫁いで没落を逃れていても可笑しくはない。


ティアラのような神秘的な美しさは無いが、確か白金の髪と暗がりで見るとティアラの瞳の色にも思そうな青い瞳をした女性だった。



ティアラのように小柄ではなく、どちらかというとグラマーなタイプで似ても似つかぬ彼女を抱いたのは半ばやけくそだった。




穢れていく自分、ティアラへの劣等感

ティアラを穢して、傷つけてしまうことへの恐怖と現状から抜け出せない虚しさ、永遠にも感じる地獄の中でその女も自分を喰らう悪魔の一人だった。



いつものように、貴族のお遊び感覚で無理やりねじ伏せては自分の要求だけを主張する傲慢な奴ら。



毎日毎日、訪ねてくる女達。幻術で対策しているとはいえ、ティアラへの罪悪感で彼女の手も握れなかったその日は特に苛立っていた。




一瞬だった、ひどい怒りと苛立の中で力任せに重ねたその行為は暴力といえるものだったが僕の魔力の圧力も重なって彼女はボロボロになりながらも口元をニヤリと歪ませた時はゾッとして我に返った。



子供なんてものは魔法で後から、避妊できる為に心配は無いが今になって分かるのはに意味があったのだ。


その令嬢の魔力は微々たるものだったがさしずめ隷属や従属の魔法だったのだろう。


アシェルの逃げる手口にも気づいていたようだった。


アシェルには通用していない事を知ると、尻尾を巻いて逃げたのだが今更になって名前を聞くとは、過去の自分の愚かさに頭を抱えた。


「弱味を作ってしまった僕の落ち度だ」


「そうですね、陛下はヘタレのクズですから」


「ダニー……」


「けれど今は違うでしょう?」


「!」



すると、外から声が聞こえる。

透き通る芯のある声はティアラの強い意志が感じられた。




「ええ。知りません」


「やぁねぇ、パトリシアとアシェル様は前に……」

「ダメよ~、ティアラ様がお可哀想だわ~」



「陛下……アシェルとはたくさん話をしました」



「「は?」」



「その中で私はアシェルの気持ちに疑う所はないと感じたのです。だから……には興味はありません」




「私達に必要なのは、共に生きる未来と深い愛です。貴方達など今更スパイスにもなりませんわ」





「でも、パトリシア様とアシェル陛下は……」



「ええ、それでも私はアシェルを信頼しています。そして愛しているので、通り過ぎたは振り返りません」




「まぁ!なんて図々しいの?」

「ふ、ふん!ご勝手になさって!パトリシア様の方が数倍綺麗なのよ!」





「アシェルがに気を揉むほど、暇じゃありませんので」



「「なッ!!??」」





「そこまでだ」


「アシェル……」



















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