上 下
39 / 44

とある皇帝の憂鬱

しおりを挟む




「ダニーあれは誰?」


「あれは、建国パーティの来賓でラハウェイ王子殿下ですね」


「なぜ僕のティアラと一緒に?」


「さぁ?おおよそ偶然会っただけか、迷ったのかと……」



来賓のもてなしを担う皇后が不在の為もあり、殆どの業務はダニエルへと回っていたが、皇帝の婚約者であるティアラは実質の皇帝のパートナーである為が来賓への対応に忙しくしているようだった。



そして、もう一つ気に入らない事と言えばまるで護衛騎士かのように至る所に現れるエバンズがティアラに言い寄る他国の者達を上手くかわしていると言う事実だった。



「何故、あんなに上手いタイミングで現れるの彼奴は」


(それでティアラがエバンズに惚れたらどうしよう)



「心の中が明け透けですが、陛下。もう少し余裕を持っては?」




「ティアラを相手に余裕だって?」


「では、早くプロポーズされては?」



「……」


「アシェル!!」


無言で硬直したアシェルが熱いお茶入りのティーカップを中身ごと落とした。


驚いて思わず、素の状態でアシェルを呼ぶダニエルにハッとしたように魔法で自らを守って火傷を逃れるアシェルにダニエルは「自分が魔法をかければよかった」のだと咄嗟に彼を呼ぶ事しかできなかった自分に悔やんでいる様子だったが、アシェルにとってそんな事は問題ではなかった。



「ぼ、僕を受け入れてくれるかな……」


(……でなければもう別れていると思いますが)

ダニエルが何か言葉を飲み込んだのをとりあえず見逃して、ティアラにプロポーズする自分を想像してみる。



「……」

「……陛下?」



暫く、何度も何度もシミュレーションしているとダニエルが訝しげに覗き込んできた。



「………だめだ、三度もフラれた」


「は?」


「いや!まだ駄目だ……ちゃんと僕が証明しないと!」



(この人は本気で言っているのか?)



「陛下、でしたら尚更プロポーズされては?」



ダニエルの言葉にふと不安が募って返事が出ない。



(信じられないから無理だと言われたら?)


皇帝になった今では、国民を守る義務が付き纏う為に非現実な話となったが、こんな事なら皇帝になどなる前に鬱陶しい令嬢共をぜんぶおくべきだったのではないか。とさえも思ってしまう。



(いや、一番悪いのは僕だな。どうしたらティアラが安心して僕の妻になってくれるか考えないと)




「……あっ」


ダニエルがふと窓の外をみて呟いたので、何となく自分も目を向けると……



「あら~、ティアラ様。今日も

「まぁまぁ……そういえば、ティアラ様は知っていますか?」



「挨拶よりも先にどうしても話したい事があるようですね?」



「ーっ、生意気だこと!いくらウィンザー家とはいえ……」

「いいえマルシアさん、ウィンザーともあろうものがと言った方がいいでしょう」





「何を仰りたいのでしょうか?生憎忙しいのです」



いつのまにかラハウェイ王子と離れていたティアラがとある二人の令嬢達に絡まれている様子で途切れ途切れにしか聞こえないものの、はっきりと聞こえた「皇后気取り」という言葉に苛立つ。



「何処かで見たことあるね」

「ああ、きっとで貴方に上手く躱された令嬢達でしょう」

「……邪魔だなぁ」


「ですが、今貴方が出て行く事をティアラ様はお喜びにならないでしょう」




魔法をかけて、音がこちらまで届くように仕掛ける。



ティアラを嘲笑うような声、

「パトリシア様のことを知らないのですね?」


クスクスと笑う令嬢達を澄ました表情で見つめるティアラ。




だけどもと言う名前には聞き覚えがあった。




『アシェル……私を彼女だと思ってもいいのよ』


『私を満足させられたら、解放してあげるわ』


『私のがいつでもティアラを襲えるわ、彼らも腕利きの魔道士よ』




今はもう新国になった際に一掃した家門とはいえ令嬢ならば何処かに嫁いで没落を逃れていても可笑しくはない。


ティアラのような神秘的な美しさは無いが、確か白金の髪と暗がりで見るとティアラの瞳の色にも思そうな青い瞳をした女性だった。



ティアラのように小柄ではなく、どちらかというとグラマーなタイプで似ても似つかぬ彼女を抱いたのは半ばやけくそだった。




穢れていく自分、ティアラへの劣等感

ティアラを穢して、傷つけてしまうことへの恐怖と現状から抜け出せない虚しさ、永遠にも感じる地獄の中でその女も自分を喰らう悪魔の一人だった。



いつものように、貴族のお遊び感覚で無理やりねじ伏せては自分の要求だけを主張する傲慢な奴ら。



毎日毎日、訪ねてくる女達。幻術で対策しているとはいえ、ティアラへの罪悪感で彼女の手も握れなかったその日は特に苛立っていた。




一瞬だった、ひどい怒りと苛立の中で力任せに重ねたその行為は暴力といえるものだったが僕の魔力の圧力も重なって彼女はボロボロになりながらも口元をニヤリと歪ませた時はゾッとして我に返った。



子供なんてものは魔法で後から、避妊できる為に心配は無いが今になって分かるのはに意味があったのだ。


その令嬢の魔力は微々たるものだったがさしずめ隷属や従属の魔法だったのだろう。


アシェルの逃げる手口にも気づいていたようだった。


アシェルには通用していない事を知ると、尻尾を巻いて逃げたのだが今更になって名前を聞くとは、過去の自分の愚かさに頭を抱えた。


「弱味を作ってしまった僕の落ち度だ」


「そうですね、陛下はヘタレのクズですから」


「ダニー……」


「けれど今は違うでしょう?」


「!」



すると、外から声が聞こえる。

透き通る芯のある声はティアラの強い意志が感じられた。




「ええ。知りません」


「やぁねぇ、パトリシアとアシェル様は前に……」

「ダメよ~、ティアラ様がお可哀想だわ~」



「陛下……アシェルとはたくさん話をしました」



「「は?」」



「その中で私はアシェルの気持ちに疑う所はないと感じたのです。だから……には興味はありません」




「私達に必要なのは、共に生きる未来と深い愛です。貴方達など今更スパイスにもなりませんわ」





「でも、パトリシア様とアシェル陛下は……」



「ええ、それでも私はアシェルを信頼しています。そして愛しているので、通り過ぎたは振り返りません」




「まぁ!なんて図々しいの?」

「ふ、ふん!ご勝手になさって!パトリシア様の方が数倍綺麗なのよ!」





「アシェルがに気を揉むほど、暇じゃありませんので」



「「なッ!!??」」





「そこまでだ」


「アシェル……」



















しおりを挟む
感想 227

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ! ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。 エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。 ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。 しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。 「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」 するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【本編完結】隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさんでも掲載中。

処理中です...