私の愛しい婚約者はハーレム体質

abang

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最期はちゃんと……

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「旧国、エレオドーラに変わって新たに新ルナエリア帝国はここに新たに、アシェル・ヴォルヴォアを皇帝として任命する」





シンとした観衆は少しの間を開けて、ヘスティアを信仰する者達から徐々に轟く歓声となる。



聖女の贅沢の為に、民に苦心を課すエレオドーラとは違うことを願っての期待でもあった。



そして、仮にも英雄であるアシェルだ。

その隣にはこの国の美の象徴ともいえるヘスティアの加護を受けたティアラが微笑んでいる。




公爵位を授かり、静かで広大な領地に宮を建てたエバンズは彼の母の旧姓、シルヴァンダを名乗りこの政権交代の功臣として、またアシェルやティアラの良き友として新帝国への忠誠を誓った。



そしてじきに、力を失ったにも関わらず聖女を偽り私利私欲の為に皇宮の兵を常日頃から酷使していたアイリーンの裁判が行われる。



その後は元皇帝の裁判である。



この戦いによって政権だけでなく勢力図は一気に変わり、


親ルナエリア帝国の皇族として、アシェルとその実の両親であるゼファー、セレスティーヌが認められた。


新しい政権では、功臣グラウディエンスは陞爵し公爵に、

同じくウィンザーも異例の陞爵で公爵となり


親ルナエリア帝国を支える三つの公爵家となり、旧国より着いてきた各傍系家門で上位貴族は固められた。


功績を残した騎士に、子爵位や男爵位を与え、同じく著しく功績を残し帝国に忠誠を誓った傭兵には騎士として騎士爵を与えた。




貴族達は一新され、健全な貴族のみが旧国より残る形となった。



「魔法院は私が預かろう」


「父さん、本当なら僕がそっちをしたいんだけど」


「お前はもう皇帝だ、仕方ないよ」


よく似た柔らかい響きの話し方、「親子なんだなぁ」と実感してティアラはおもわず少し笑った。


同じことを考えていたのか、セレスティーヌも笑っていて目が合う。


彼女こそ、容姿はまさにアシェルと瓜二つで少しだけドキリとする。



「ティアラ、あなたも皇帝の婚約者などと面倒な事になってしまって……後悔していないかしら」



「いいえ、私とアシェルのことはちゃんと私達の意志で考えていきますから、ご心配をなさらないで下さい……」



「え"っ、考えるって言うのはティアラ……っその……」

「別れるとは言っていません。きちんと向き合っていく必要があると言っているだけよ」


突然、ぐりんと顔を勢いよく回してこちらを見た顔面蒼白なアシェルに呆れたように言ったティアラにゼファーとセレスティーヌは可笑しそうに笑った。



「お前……一体何をしたんだアシェル」


「……父さん、聞かないで」


「しっかりと許しを乞うのよアシェル」


「か、母さん……わかってるよ」


しゅんと叱られた子犬のように身を縮めたアシェルに仕方なさそうに息を吐いて、ティアラがそっと彼の額に口付けをした。



「!!」


「あなたはまず、皇帝として国を導かないと。傍に居るわ、きっと大丈夫よ」




アシェルの脳裏にはひどい後悔が巡る。父と前皇帝の戦いがキッカケになったとはいえ、一人でなければこんなにも簡単に自由になれたのかと自分の無知と無力を悔いた。



けれども、もう違う。


「今度は間違えたりしない。君たちのおかげだけれど僕はもう無力じゃない……それでもこれからの僕の優先順位は常にティアラ、君だよ」


「アシェル…….」



「君だけの僕で居る、それでも大切なものは全部守ってみせる」




「……ええ、もう誰の元へも、どこへも行かないと約束して」


「約束するよ、ティアラ……左手を」


ティアラが、アシェルの言われるがままに左手を差し出すと、彼は彼女の白く滑らか手に自らの左手を絡め取るようにして口付けた。


すると、アシェルの左手の薬指とティアラの左の薬指に魔法の紋様が出現する。



「これは……誓約魔法」


心から信頼し合える者同士にしか使用できないという誓約魔法、それも最高位のものだった。


けれども、と言う事はと言う事、セレスティーヌは目を見開いてアシェルへと声を上げた。


「アシェル……誓約魔法はお互いの命をかけるものよ!?勝手に……」


「待ってください、セレスティーヌ様。これは……」


「驚かせてごめん、僕が改良したんだ。紋様の色が違うのが証拠だよ。この誓約はあくまでを縛る誓約」


「アシェル……そんな事までしなくても私は」


「そうやって信じてくれたティアラを裏切って来たんだ、簡単に僕を信じる事は難しいよねきっと、だから僕なりの誠意だと思って欲しいんだ」


「僕がティアラを裏切った時、ティアラが僕に裏切られたと感じた時に魔法は発動する。ティアラに対しての発動条件はない」



「アシェル、あなた……」



「ティアラ嬢、どうか息子の想いを受け取ってやってくれないか?……かなり重いが」


苦笑しながらいったゼファーに、気が抜けたようにふぅっと息を吐いてティアラはゆっくりと頷いた。



「……分かりました。けれど、アシェル沢山話をしましょう、誤解やすれ違いで貴方を失ってしまわぬように」


「ティアラ……いつも勝手でごめん」



「何度も言うように、別れるつもりなどないもの。今更アシェルに振り回される事も嫌とも思わないわ」


「ティアラっ!!!ごめん!!」


抱きしめたアシェルの腕は、二度と離すもんかといわんばかりに強くて


ティアラもまた、同じように抱きしめ返した。



「……もし貴方が二度私を裏切ることがあれば魔法より先に私が大丈夫よアシェル」


ぼそりと耳元で囁かれた、甘く柔らかい声に似合わぬセリフに一瞬青ざめ、身を堅くしたアシェルはすぐに笑顔になり「そうならないよ」と彼女が自分への関心を失っていない事に少しだけ嬉しそうに言った。



「「約束」」



迫り来る、残酷な決断の時を前に堅く愛を誓った二人にかつての自分達を重ねて微笑んだゼファーとセレスティーヌは今目の前に愛する人達がいることを噛み締めるようにそっと手を握った。


















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