上 下
29 / 44

エバンズの決心と解放

しおりを挟む


「結界は私とアシェルで貼り直しました」

「これで、僕達以外は入れない筈だよ」




皇帝にセレスティーヌの復活と、ヘスティアの加護がティアラにある事を悟らせぬ為にヒスタリシスには結界を張り外側は今までの荒れた姿に見えるように細工をした。



あれこれと、試してみたもののティアラはあくまでルナエリアの守護でたる美の女神の力を授かったのであってではないので、



汚れたものや、朽ちたものを姿浄化する事は出来ても、聖力のように治癒や蘇生は使えず元々治癒の魔法が苦手なティアラにとっては膨大に膨れ上がった魔力量以外は特に変わった実感は無かった。



暫くは、ゼファーとセレスティーヌの姿を隠す為に彼らをアシェルの邸に匿う事にしいつも通りにティアラはアシェルの邸で落ち込んで暮らす姿を装う事にした。


「これならば私が通っても不自然ではないだろう」


「そうね……。でもエバ様はそれでいいのですか?」


「ああ、寧ろその方がいい」


そう言って微笑んだ表情は何処か解放されたような、ほっとしたような表情だった。


「……僕はなんで」



「貴方の存在もまだ露見する訳にはいきませんだから、ティアラ嬢の父君に協力してもらうのですよ」




ティアラと一緒に住めるのだとばかり思っていたアシェルは、ウィンザー伯爵の元で、に備えよという自らの配置に肩を落としていたが、アシェルの姿を見たウィンザー伯爵がなりふり構わず駆け寄り彼を抱きしめた瞬間に、アシェルは初めて涙を流した。




「アシェル……よく戻った!」



「ウィンザー伯爵……僕っ」



「全部聞いた、……本当に生きていて良かった」



「パパ、暫くは手筈通りにお願い」


「ああ…….お前達、いや。野暮な事はやめよう」



「ちゃんとケジメをつけます」


「アシェル、」



「ティアラを傷つけてばかりだったから……僕は僕の無知や無力をどこかで境遇の所為にして投げやりに生きていたんです。僕の為に傷ついてくれる人がいる事に自分の居場所を求めてしまう程に歪んでいた」




「……次に、ティアラを傷つける事があったらいくらお前でも許さんぞ」



「ティアラが受けれてくれたなら、誓って幸せにします」



「アシェル、私は……」


「ティアラ。きちんと考えて返事をしなさい」


「パパ……、えぇそうね。私達はまず全てを終わらせないと」



(エレオドーラの王侯貴族は腐敗している)





エバンズは皇宮に戻り、長く暗い廊下を歩いていた。

少し前まで賑やかだった所為か、とても冷たく寂しく感じる皇宮では頭を下げてすれ違う使用人以外とは言葉を交わす事もなくそれが更にアシェルやティアラと居た時間とのギャップを感じさせた。


皇后を護衛する第二騎士団や、彼が率いる第三騎士団。

多くの使用人がエバンズを慕っているし彼もそんな人々を大切にしてるが、皇帝や聖女であるアイリーンを支持する者の方が圧倒的に多い。




「殿下、皇帝陛下がお呼びですが……」


「すぐに行くと伝えてくれ」


エバンズを慕う使用人が控えめに皇帝からの呼び出しを伝えると、あっさりと聞き入れたエバンズはどうみても平常通りの彼だった。



皇帝は今の時間帯は大抵がな時間帯であり、まだ薄ら明るいにも関わらず酒に溺れ、椅子にだらけてもたれかかる姿はいつ見ても皇帝としては目を背けたくなるほど愚かだった。


「エバンズ……、やっと来らか。このノロマめ」



「申し訳ありません、用事がありましたので」



「生意気らな……まぁいい、あの小娘は手に入れられたのか」



「いえ、良き友人です」




「アイリーンが使えない以上、あれくらいの魔力の女を掴まれねばならんぞエバンズ」




「ええ、もうすぐ父上の気苦労も無くなるでしょう」




エバンズは含みのある笑顔で皇帝に言った。


まさか、自分に歯向かう訳がないと信じている皇帝はそれは愉快そうに笑ってエバンズを初めて褒めた。


「ハハハハハハハハ!!!!初めてお前を息子だと感じたぞ!!!」





「そうですか」



「よい、しっかりとあの忌まわしきウィンザーを獲ってこい」



「さて、獲られるのはどっちか」


「ん?何か言ったか?」




「いえ。



皇帝に背を向けて歩き出しエバンズの表情は憑き物がとれたかのような清々しい表情だった。


無礼にも、エバンズに挨拶をすることなくすれ違った皇帝の部下である男が気にもならない程に。



「陛下っ!大変です!!!アイリーン様がっ……!」




「!」

(アイリーン?)


「また騒いでおるのか、離宮にでも閉じ込めておけ。処分は後々考えることにする、面倒な役立たずだ全く」



「皇后陛下の体調も思わしくありません……どうがご指示を」


「あー、あの孕み袋か。エバンズに任せている、


そうエバンズの背中に投げかけたどうでも良さそうな声のの意味が分かるエバンズは吐き気すらするほどだった。



「ええ。任せてください、私の母ですので」



「ハッハッハッ!アイリーンの影に隠れていたか!皇太子らしくなったなエバンズ!期待しているぞ!」


「はい」


「ヘマはするなよ、妹のように」



(ヘマをしたのはそっちだ、父上)

「はい。では、父上……





「ああ、さっさと行け」

























しおりを挟む
感想 227

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ! ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。 エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。 ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。 しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。 「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」 するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【本編完結】隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさんでも掲載中。

処理中です...