上 下
28 / 44

英雄と魔王。相反するものの対面

しおりを挟む

ゼファーとアシェルが対峙した瞬間の記憶だろうそれは、ただの記憶だと言うにも関わらず肌に感じるジクジクと刺さる二つの魔力があまりに強くて実際にその身に傷がつかないにも関わらず、思わず身を抱いた。




「……君の名は何と」



「アシェル・ヴォルヴォア……なんかあんた嫌いじゃないね」



「ヴォルヴォア……母の名は?」



「知らない。それよりこれは意図したんじゃなくて、暴走だね?」



「もう、私にはどうにも出来ない……私の子は息子だったのだと知った時にはもう皇帝の手中だったと知り怒りが抑えられなかったのだ」




「息子?……まさか僕の父を名乗るつもり?あれが母だとか?」


魔法に覆われて眠る、若い女性を指差してアシェルが訝しげに言うと、ゼファーは頼りなく眉尻を下げて微笑んで頷いた。



「彼女はセレスティーヌ・ヴォルヴォア。ああ……お前は母似だな」



「え……」



「セレス、やっと見つけたぞ。私がエレオドーラに騙されたばかりに危険を察知して一人で子を産み隠したのだ」



「父さんと母さん……?僕は捨てられた孤児の筈じゃ」



「その瞳は旧国ルナエリアの宝石眼だ間違いない。私より先にエレオドーラが見つけたようだな……辛い目に合わせてすまないアシェル」




「ーっ」



「ああ、これが最期だなんて……ここに居れば確実に命を落とすだろう。どうにかアシェルだけでも」
 


「だめだよ。此処には僕の愛する人が居るんだ」


アシェルが暴発するゼファーの魔力に対抗するように自らの魔力を膨らませては魔法を組み立てていく。



うまくいけば、ここヒスタリシスだけの消滅で済むだろう見事な手腕と力量にゼファーは「流石セレスと私の子だ……」と呟いた。



それでも、そんな事をすればアシェルは共に死んでしまう。

せっかく見つけた我が子を、こんな形で失いたくは無かった。



「アシェル、やめなさい」



「うるさい……っ、僕に親は居ない」



「すまなかった、ずっと探していたんだ!」



「ティアラまで消えちゃうなんて僕がさせないだから一緒に消えてよ




微笑んだ表情はゼファーの頼りなく優しげなものにそっくりだったが、


その容姿は疑うことも出来ぬ程にセレスティーヌによく似ていた。



「アシェル…….っ!!!」



ゼファーの叫び声と、セレスティーヌの瞳が開くのを確認したところでティアラとエバンズの視界が暗転し聞き覚えのある声だけが響いた。





『もう二度と、失う訳にはいかないの』





「「アシェル!!!」」




「セレス……?」

「だ、れ?母さん……?」



真っ暗な闇の中の三人、咄嗟に衰弱したゼファーを庇うように抱きしめたアシェルは自分のその行動に戸惑った表情を浮かべたが、そんな二人に「大丈夫」だと優しげな声で包み込むように言ったセレスティーヌ、



三人の身体がふわりと柔らかい光に包まれて、はぐれないように二人の手を取ったアシェルに軽く目を見開いてから「大きくなったのね」と涙ぐみながらいったセレスティーヌにまたアシェルは戸惑った表情を返しただけだった。



「暗いね」

「ええ、アシェルきっと目覚めるわ信じて」


彼らは深い深い暗闇でただお互いの沢山の記憶を見た。



アシェルはどこからかティアラの声が聞こえたような気がしてハッとすると、突然何処かに引き戻されるような感覚がして目の前が鮮明な色を得た。


(湖……?)


なんだか懐かしいような温かい気持ちだった。



「ああ、やっと闇が晴れたよ。父さん、母さん……」




ーー



そこまで記憶がたどり着くと、ティアラとエバンズの意識は引き戻され目の前で不安げにオロオロとするアシェルと未だ目を覚まさぬゼファー、


そして、涙を流しながら微笑むセレスティーヌが居た。



「私達を暗い闇から救ってくれたのは貴女です、ティアラ嬢」


「そして……エバンズ殿下。あなたは皇帝とは違います」





「いえ……、私はティアラを……」


「僕がそう言ったからだろう。そもそも君は曲がったことが嫌いだろう」


そう言ったアシェルの表情は不貞腐れたようなものだったが、小さく言った次の言葉は確かにエバンズに届いた。


「ティアラを、皆を守ってくれてありがとう」



「……!!」



(ただ、背に隠していただけの事。何もしていないのに)



「そう、そうだったのね……っごめんなさいアシェル、エバ様。私何も知らないまま、また守られていたのね」


ティアラは一筋の涙を流して、悔いるように言った。


エバンズは抱きしめようと伸ばした手をぐっと握って下ろした。


(もう、私の役目は無いな)


アシェルはそっと手を伸ばしてティアラを抱きしめたが泣き止まないティアラにどうしていいのかわからずにオロオロと視線を彷徨わせて、ついにはエバンズともセレスティーヌとも視線が合う。



「……私にはわからん」

「ふふ、そう言う時は優しく口付けてあげるものよ」




そう言ったセレスティーヌにアシェルは複雑な表情を返しただけだった。


(さっきかなり勇気を出して、口付けようとしたら拒否されたのに)


再会の昂りと、感動。どうしても伝えきれない気持ちを勇気をだして行動にしたつもりだったが見事に一刀されてしまったアシェルは二度も拒絶されては立ち直れないとそっとティアラの額に触れるか触れないかのキスをした。






「今まで、振り回してごめん。裏切って、こめん」



「大抵の事はわ。けれど簡単には許さないんだから」



「やるべき事を終えたら、ティアラにだけこの生を捧げると誓うよ」



「また、一人で何かするつもり?」



「いや……、今度は君やと一緒のつもりなんだけど……」


まるで、伺うようにティアラとエバンズの表情を見たアシェルにエバンズは少しだけ笑ってからため息をついた。


「ふ……、はぁ、私は友人と言って貰えて光栄だが?」


「僕は……その、まだ」


「元々ここはルナエリアでその王族の血を引く者が、オロオロするな」


「……」


「こんな血と裏切りに塗れた国の皇族など返って不名誉だ私は。……私達は似た者同士だと思わないか?アシェル」




「……帰ったら、ダニーを紹介するよ」


「あぁ」



何だか分からぬがとても、仲睦まじげに見えるアシェルとエバンズに少しだけ驚きながらも嬉しそうかセレスティーヌと、ティアラ。



そして、セレスティーヌは遥か向こうにある帝都を睨みつけて言う。






「ヘスティアの加護と、鍵となるルナエリアの血が戻ったわ。裏切りと血の歴史を正す時よ」



しおりを挟む
感想 227

あなたにおすすめの小説

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 完結まで執筆済み、毎日更新 もう少しだけお付き合いください 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ! ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。 エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。 ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。 しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。 「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」 するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...