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英雄の帰還と母の想い

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「ヘスティア……?」


ティアラが不思議そうにエバンズを見つめる。



だがそのティアラの容姿、謎の声の主から感じる弱々しい力がティアラの魔力と一致することを考えてふと一つの仮説がエバンズの中に生まれた。



ヘスティアの呪いが解けて聖女がこの時代に生まれたのは、美の女神ヘスティアの加護を持って生まれたティアラが生まれたからなのだと。



そうなれば、この光の言うのはアシェルの事を指すのではないだろうか?



そこまで考えると、ハッと顔をティアラの方へと向けて言った。



「ティアラ、まだ失っていない」



「エバ様……、何故だか私もそう感じます」




ティアラがその光に触れると、辺りの空気が軽くなる。




「私も貴女と同じで、彼を愛してるの……」




とまるで物語の過去を知っているかのようにヘスティアへと語りかけるとティアラが近くにいるのに何処か遠くて不安になったが、何故か彼女に触れる事は出来ず、ただ見守ることしかできない。




光から感じる力はゆっくりとティアラに溶け込んで、彼女の魔力に馴染んでいくのがエバンズにも感じた。




すると、荒野だったヒスタリシスは見る見るうちに美しく浄化され、緑が繁り、色とりどりの美しい花が咲き、抉れた大地には美しい湖が……


『愛する人を見つけて、私の愛し子ティアラ』



「あなたは……ヘスティア?」




『ええ、そしてあなたは私よ。これで私も救われる……』




「ヘスティア、待って……!」




エバンズが感じるヘスティアの気配とティアラの様子では


消えた、と言うよりはと言う方がしっくり来た。


ヘスティアの加護なのか、ティアラの力なのかもう分からないその力はもう見渡せるヒスタリシスの全てを美しい場所へと変えていた。



そして、透き通るような湖の真ん中に浮かび上がるのはアシェルで、


瞳を閉じている彼の両手はしっかりと握られており、両側には魔王と呼ばれていた筈のゼファーと、アシェルによく似た美しい女性が眠っていた。






「あぁ、やっと闇が晴れたよ。父さん、母さん」




そう言ったのは紛れもなく、アシェル本人の声で愛して止まないその声を聞き逃す訳のないティアラは線が切れたように声を上げて泣き始め、


エバンズもまた安堵したように涙を流した。



未だ、目が開かない三人がどこか別の所から意識が戻っていないことは容易に予想出来たがアシェルによく似た女性の瞼がぴくりと動き、反応する。



「貴女はきっと、ティアラ嬢ね……ありがとう」


「私、何も…….」


「全部知ってるわ、全部見てたのずっと長い間……この子を酷い目にあわせてしまったわ……ゼファーも、貴女も」



そう言ったセレスティーヌの瞳と銀色の髪は何処かアシェルに似ていた。



先程アシェルが「父さん、母さん」と呟いたその言葉の通り目の前の女性はきっとアシェルの母で、記されていた容姿と一致するヴォルヴォア侯爵だろう。



セレスティーヌ・ヴォルヴォアで間違いがない筈だ。




「あなたは、セレスティーヌ様ですね」


「ええ……アシェルは私が名付けました。私の子です」


「そうですか……そうだったらいいのにと思っていました」


「そう……嬉しいわ。私の魔法を解いてくれたのも貴女ね」


「いえ、無意識で……」


チラリとエバンズを見たセレスティーヌは一瞬、肩を跳ね上げさせたがそのエメラルドグリーンの瞳が皇帝とは違うものだと気付くと眉尻を下げて微笑んで「ごめんなさいね」と言った。



「いえ……、ティアラと調べて行く内に父があなた達にどれほど酷い仕打ちをしてきたのか知りました。憎まれて当然です」



「貴方は、違うでしょう?貴方に罪は無いわ」

「ーーっ」



「そろそろ、起きるわね」


そう言ってアシェルから何処か衰弱した様子なゼファーを守るようにそっと抱き寄せて、アシェルと距離を取ると「来るわよ、備えて」と仕方なさそうに笑った。






「ティアラ……」


かすかに、そう聞こえた瞬間だった。

アシェルの瞳が開いたのと同時に、まるで別の何処かから彼の魔力が、その存在自体が舞い戻ってくるかのように彼を纏う。


その膨大な魔力の圧はとても生身で耐えられるものではなく、思わず魔法で伏せぐエバンズがティアラを引き寄せようとすると、


「ティアラ危険だ!」


「エバ様、ありがとう!でも行かなきゃ!」


そう言って嬉しそうにアシェルの元へと駆け寄って、アシェルの圧などものともせずに彼を抱きしめた。





「アシェルの馬鹿!生きててよかった……!」



「ティアラっ!?エバンズ!!」


「すまない、アシェル。私では力不足だった」



「……ありがとう」


驚いたような表情でティアラを見つめるセレスティーヌにエバンズはやれやれというような顔で「彼女はヘスティアの加護を受けた魔導師です」と言ってから何処か切ない表情で続けた。




「そして、アシェルの最愛の女性です。だからアシェルの魔力はティアラだけは傷つけない……」



「はは、よく気付いたねエバンズ。僕の制約に、僕はどれだけ強くなってもティアラにだけは勝てない」



「そうだったの…?私、ずっと一緒に居たのにアシェル、貴方の事を全然知らないの」



「それは僕が悪いんだ……一生をかけて償うから、愚かな僕にチャンスをくれる?」




「考えるわ」


「えっ」



「嘘よ、でももう浮気は許さないから」



「うん、約束するよ。絶対に傷つけたりしない」



「約束よ?」


「ああ、本当にごめんなさい。ティアラ……」




そう言って唇を寄せたアシェルの口元を両手で封じて、ツンとした態度でティアラはそっぽ向いた。


「そこまで許すとはまだ言っていないわ」



「え"」


「ふっ!!」


「あははっ」




そんな二人のやりとりに思わず笑うエバンズとセレスティーヌ。


すると、セレスティーヌがティアラとエバンズに「全て見せます」と言って「信じてくれますか?」と光を纏う指を二人に向けた。





「「ええ、勿論です」」



「どうか、アシェルを見捨てないであげて」




光が二人の額に的中すると、暗い場所にぽつんと自らだけが置かれる。



そして、断片的だが確実に時系列を辿った記憶が皇帝とゼファーとセレスティーヌが若い頃から始まり、アシェルやゼファーの苦しむ姿、



そして、エバンズと共にヒスタリシスへやってきたアシェルが魔王改め、彼の父ゼファー・マゲニス公爵と対峙する場面に辿り着いた。





「君、名は?若いが中々の魔導師だね」










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