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とある者の幼少期
しおりを挟む暗い路地裏、こんな所に来るのは物好きな奴か同じような奴だけ。
特に、僕に声をかける奴は気色の悪い奴ばかりだった。
何人も、何人も殺しては消した。
魔法は貴族の専売特許だが、生まれつき使いこなせたので大人を消す事ぐらい難しい事ではなかった。
「君か……。名は?」
「……」
「先に言っておくが私に変わった趣味はないぞ。愛しい妻と娘が居る」
「ーーー。」
「そうか、私は……ーーーだ。魔法は生まれつきかな?」
「そうだったら、何」
「君には才能がある。その力を、人を殺す事に使うのではなく、人を守る為に使うんだ君なら帝国一の魔導師になれるだろう」
殺して、逃げて、殺しては、消して、逃げる
もう限界だった。
どこに隠れても、その男はよく会いに来てはご飯をくれた。
返事もしないのに、色んな話をしてくれて色んな事を教わった。
ふた月程経ったある日……僕は彼の手を取った。
彼は、父のように優しく時に厳しかったが、父親を知らない自分にとって唯一の存在だった。
彼は魔法や教養を学ばせ、身なりを整えてくれた。
衣食住にも困らなくなった。
ただ一つ、彼は大富豪で多忙な貴族だと言う事を知った。
彼と一部の人達をのぞいては平民で孤児である自分を蔑み、見下した。
だが一つ、美しい髪と瞳、端正な顔立ちというのも控えめに感じるほどに麗しいその子を皆が欲した。
いくら彼が目をかけていると言っても、彼は使用人よりも身分の低い平民のしかも孤児だ。
ある時はお金で、ある時は脅迫で、彼をモノにしようとした。
扱いは使用人以下で、彼は知るたびにクビにしたり処分を下したが貴族達とは腐った奴らで大人になるにつれてまるで彼を人質に取ったような物言いで無知なその子を慰み者にしようとした。
親友も出来たし、アカデミーにも入れたし、好きな人もできた
魔法の才能も認められ、戦場の前線にも何度も立った。
けれども大切なものや賞賛が増えていけば行くほどに、奴等は僕を拘束し、しまいには皇帝までもが僕に取引を持ちかける。
「私は皇帝だが彼はーーーだろう、何を悩む事がある?奴など何とでもなるんだぞ。私の為に数年働けば欲しいものをくれてやる」
「お前の貴族殺しの罪はもう知っておる……それをーーーが闇に葬ってお前を表につれてきたそうだなぁ」
「見逃すことは容易い。手を貸してくれーーーー。」
「……必ず約束は守って下さい。役目を終えたら必ず全てをリセットすると」
(きっと、守ってみせるよ最期まで)
(いつか、君の隣に堂々と居られるように)
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