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74.割れる王宮とスペア
しおりを挟むエリスは、水の入ったグラスをそっと置いて護衛騎士のシーエスを見た。
言葉を発さなければバレないと思ったのか、いつもの給仕のメイドによく似た女性を彼が取り押さえた。
「貴女は誰?」
「えっ……私はリナですよ……」
「そう?じゃあ耳の後ろを見せてくれる?」
シーエスによって強制的に後ろを向かされたリナによく似た女性の耳の裏、首筋近くにはやはり黒子が無い。
リナの首元、耳裏の近くには少し大きめの黒子がいつもあったのに。彼女には確かに見当たらない。
「リナは何処?」
「……」
エリスの言葉にシーエスがその者の首に刃を立てると、震えながら「町外れの馬小屋に」と言ったその者の声はリナのはっきりとした声色とは全然違った。
念の為に全て銀食器に取り替えられたスプーンを水に入れると、色が変わってそこに毒が入っていたのだと分かる。
けれど、こんなにも分かり易いことをするのは警告の意だろう。
あわよくば、とは思ってはいるだろうがあくまで「命を狙っているぞ」と主張するためだけにこんなにもずさんな方法で人を送り込んだのだ。
けれど、それほど迄にエリスの子が邪魔な人物が思い当たらなかった。
「ジョルジュに報告するのよね?」
「はい……緊急ですので」
「なら、特定を手伝って貰えるようにお願いしてもいいかしら……」
「閣下は、喜ばれると思います」
シーエスは多少言葉足らずではあるが、表情とその足らない言葉で十分伝わる。
ジョルジオはきっと頼られる事に喜んでくれる、
疎ましくや、面倒に思ったりはしないと言う事だった。
甘え慣れないエリスは照れ臭そうに微笑んでシーエスに尋ね、シーエスはその願いを受け入れた。
「なら、私から話してもいい?」
「ご一緒します」
エリスはシーエスとはとても打ち解けたと思う、元よりジョルジオに忠実である彼はエリスにも初めから親切だった。
シーエスからすぐに報告が来たジョルジオは暫くしてすぐにエリスの元へと戻って来た。
「エリス……っ!無事で良かった……!」
「大丈夫です、リナも保護されました。けれど……」
「あぁ……王太子派の仕業だった」
「おうたいし……?」
「けど、違う。レイヴンじゃない」
「ええ。私もそう思います」
警戒を強め、調査することにした二人は後日レイヴン達もまた何者かから刺客が送られたことを知った。
「……差し向けた犯人は多分同じだ」
「レイヴンは俺を疑わないの?」
「無いな」
「ふ、俺達もそう言ったんだ」
「たち?……あぁ、そう言えばセイランも騒いでいたな」
レイヴンはハッとしたように呟いた。
「私達を仲違いさせようとしてるのよ!!」
そう言ったセイランの言葉を思い出して、強ち間違っていないのかもしれない。そう思ったからだった。
だとすれば、理由は?
エリスでは無く、ジョルジオの血を引く子?
ジョルジオもまた、思惑に気付いたのか途端に表情を凍らせてレイヴンと顔を見合わせた。
「貴族達から見るスペアが変わったんだ」
「俺達を仲違いさせて、継承権のある子を消そうとしてる」
絶望、二人の表情はまさにそれだった。
けれどジョルジオには理解できない部分あった。
「レイヴンが俺の子を消したと思わせて、何の得が?」
「きっと、お前を俺に消して欲しいんだよジョルジオ」
「俺に継承権など無いに等しいのは知ってるだろ皆」
「俺たちに子が生まれなければ、お前の子が未来の王太子だ」
「そんな、先走りすぎだよ……」
自分達の知らぬ所で、貴族達が水面下に暴走している。
エリスも、子も、そしてジョルジオもがその標的だった。
「大丈夫だジョルジオ、すぐに終わらせよう」
「そうだね、方法は沢山ある」
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