婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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73.ヴィルヘルム公爵家の一大事

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「エリス様はーーー」



「ご懐妊です」


「「……」」


「おめでとうございます!」


この日を一度も想像しなかった訳じゃない。

自分とエリスの子なら驚くほど美しいだろうだとか剣の才能があるだろうな、とか何なら二人でそんな話もした。

けれどまさか、きっとあの調子ならエリスも気付いていなかっただろう。

とびきり素敵なサプライズに、普段は祈りもしない癖に神様にありがとうと心の中で感謝した。


レイヴンが「良かったな、おめでとう」とジョルジオに微笑むとさらに実感して、父親って何からどう初めればいいのかと不安にすらなってくる。



「嘘……、どうしようレイヴン」

「なんだ、嬉しく無いのか?」

「逆だよ。嬉しすぎて……、本当に俺とエリスに子が……」

「ふ、羨ましいな」


「まぁこれで乳母の心配は無くなった」と何故か誇らしげなレイヴンから宮廷医師に目線を向けると、彼もまたにこりと笑った。



「間違いありませんよ、閣下」

「エリスの様子は?」

「お疲れになったのか眠られていますよ」

「もう部屋に入っても?」

「ええ」


自分と入れ違いにセイランが来た音を扉越しに聞きながら、眠っているエリスの額にそっと口付ける。


「エリス、ありがとう」

「これからはお腹の子も君も、守るよ」


なんてまだ目覚めて無いのに呟くと、

予想外にも返事が返ってきた。



「ジョルジュが喜んでくれて良かった……」

「……エリス!」

「私、全然気付かなくて……この子は無事らしいです」

「ん、二人とも無事で良かったよ」



お腹に手を当てて大切そうに、優しく微笑むエリスはもうすっかり母親の顔をしていてなんだか神々しく見えた。


「レイヴン殿下と、セイラン様にお礼を言わなきゃ……!」

「無理はしたら駄目。働きすぎだって」

「……でも、」

「身体に負担が無いように考えよう?」

「はい……じゃあ、少し支度をしてから部屋を変えて皆でお茶でもしませんか?」


「んー、それなら……ソファにしよう」

「ふふ、ありがとうございます」



エリスとジョルジオに子が出来た事をセイランもまたとても喜んでくれた。


レイヴンに至っては「乳母」なんて呼び出す始末で、セイランに叱られて眉尻を下げていた。


「なんだ、もう決めただろ」

「けど、気が早いわ、エリスの返事も聞いてないのに……」

「私なら、喜んでお受け致しますよ」

「「!」」

「ね?ジョルジュ……」

「ああ、だから楽しみにしてるよレイヴン」

「努力しよう」

「んもう!レイヴンの馬鹿、恥ずかしいじゃない……」

「今のはジョルジュも良くないですよ?」

「ごめん、エリス……」


結局、妻達には弱いレイヴンとジョルジオの様子に皆で笑った。


こんなにも仲睦まじい四人の事など露知らず、王太子のスペアが先に子を作ったことにより過激派の者達は動き出す。


に芽を積んでおかねばと……。


けれども四人は束の間の平和な時間を過ごした。


特別な日の為に淹れた紅茶とふかふかのソファ、少しの甘いお菓子と他愛のない会話。

そんな時間が四人の多忙な日々で疲れた心身を癒しているが、その裏で不穏な動きをする者達もまた居る。


これからは、守るべきまだ小さな新しい命もまた彼らの家族に加わり一段と賑やかになる筈だ。


それでも固く結ばれたまま居られるのだろうか?


(こんな穏やかな日々がずっと続けばいいのに)


そう願ったエリスの願いが叶いますように。


「こんなにも幸せだと不安なるよ」

「馬鹿な事を言うな」

「そうよ~!ずっと、私たちはこうして幸せで居るのよ」

「ふふ、そうですねセイラン様」











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