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71.ヴィルヘルム公爵夫人になって
しおりを挟む本来の目的である近隣国会議は順調に進行し、エリス達も国賓を見送る支度に追われていた。
そんな忙しない雰囲気にも関わらず先程からニヤニヤと此方を見ている上司のセイランが気になって仕方がない。
「あの、セイラン様」
「なぁに?エリス」
「とてもやりにくいんですが……」
「ねぇ、ジョルジオと進展した?」
「えっ!」
「ふふん、やっぱりねぇ~」
「な、何もしてませんっ!」
顔を赤くして否定するエリスに近寄って「どこまで?」と尋ねるセイランに「ちゃんとしたキスをしました」と恥ずかしそうに言うとセイランはぽかんとした顔で「それだけ?」と驚いた。
「けれど、最近スキンシップが多くて嬉しいけれど戸惑います」
続けて「セイラン様はそう言う時はどう応えていましたか?」とまるで仕事上の応答でもするかのように尋ねるので思わず笑ったセイランに今度はエリスがぽかんとした。
「あのね、エリス。そう言うのは欲しいだけ受け取っちゃえばいいのよ」
「欲しいだけ、受け取る?」
「嫌なら言えばいいし、嬉しいなら貰っちゃえばいいの」
「嬉しい、です」
「じゃあ問題ないわね~ふふ」
初めて会った頃はまだあどけない少女だったというのに、すっかりと大人びた表情をするセイランにまるで追い越されてしまったような感覚すら覚えたが、上司であり、姉妹のような彼女の存在が心強いとより強く思った。
そんな話をしていたその昼頃、休憩だとセイランに執務室を追い出され大ホールへの御使いを頼まれたのでついでに届けに向かうとそこには見知った者達ばかりが揃っていて、兄や両親、両陛下に、レイヴン、先程別れたばかりのセイランまでも居て驚く。
宮廷楽団の演奏が始まり、訳の分からないまま立ち止まるエリスの手を引いたのはジョルジオでそのまま膝をついてエリスの手の甲に口付けた。
そして、エリスの左手の薬指にぴったりと収まるダイヤモンド。
上品でありながら豪華なその輝きに思わず目を細め、これから言われるかもしれない言葉を期待してしまい涙が瞳に溜まる。
あまりに綺麗にジョルジオが微笑むので、期待と共にさらに胸の音までもが大きくなって彼の形の良い唇が開く頃にはもう涙が溢れた。
「エリス、俺と結婚して下さい」
「はい……っ」
「よかった……!断られたらどうしようかと」
「そんなことありえないです」
「でもいざとなったら怖くてね、はは」
気が抜けたようにエリスの肩に凭れかかったジョルジオがそう言うとみんな口々に微笑ましげに笑い声をあげたり、祝いの言葉を述べた。
「エリス、騙すようなことをしてごめんなさいね」
「セイラン様、いいえ……とても幸せな気分です」
「「エリス!」」
エリスの元に駆け寄った両親とケールが彼女を抱きしめて、クロフォード伯爵がジョルジオと握手を交わす。
「娘を頼みましたぞ」
「はい、伯しゃ……お義父様……」
「エリス……、」
「お兄様……!待って下さい、ハンカチを….…」
「……け、ケール。泣くほど喜んでくれてる?」
「……団長、泣かせたら許しませんからっ」
終始無言だった筈のケールの表情は涙でぐしゃぐしゃで驚いたエリスと後ろで同じような表情のセイラン。
そして珍しくクスクスと笑いながらセイランの隣に立ったレイヴンにエリスが向き合う形で礼儀正しく礼をすると「おめでとう」とあまりにも優しい声色で祝福してくれた。
国王の声でレイヴンを筆頭に王と王妃までの道が開けるようにして人が分かれると、そこを二人で真っ直ぐに歩いて行く。
よく見れば夜会でも始まるのかと思うほど豪華に、美しく準備されたこのホールでは後日本当に結婚を記念したパーティが開かれるのだとジョルジオが後で教えてくれるのだが、エリスは今はただ感動していた。
「心から祝福するわ、ジョルジオ、エリス」
「私からも、祝福を……本当に良かったよ」
「王妃殿下、国王陛下……ありがとうございます」
「とても、光栄でございます。感謝を申し上げます」
二人を祝福する国王夫妻の表情を見て皆の雰囲気が和らぐ。
証人を申し出て、それでも良いかとクロフォード伯爵家に尋ねる国王夫妻にエリスの母が光栄なことだと涙し、父もまた厳格な顔を緩ませた。
まるでもうこれが挙式でも良いのではないかと思うほどに豪華なプロポーズは見事成功し、貴族の結婚としては速い方だがひと月の準備をかけて挙式を王宮で挙げることになった。
あまりにもセイルが泣くものだから宥めるケールの涙の跡を見てエリスが思わず笑ってしまうまで、数秒……
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