婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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68.南部一の色男エスト

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エリスを正妻にしたいなんて馬鹿げていると思うが、彼もまた他国の王族だ。

今まで散々無理を通して来ただろう。

会場にいる者達はまさか本当にそんな事があり得るかもしれないと騒がしくなる。

エリスの表情から感情は読み取れないが、視線で直属の上司であるセイランを探し何やら意思疎通した後、陛下達の顔を俺越しに見たのが分かった。



そして、俺を見てからエストにどこか冷たさすらも感じる笑顔で丁寧に返事をする。


「光栄ですが、お断りしますわ。エスターラ国王陛下。私には愛する婚約者がおります故どうかご理解下さいませ」


「そんな事は知ってて言っている。そこの優しそうな男がそうか?」


俺の方を挑発するような目で見るエストは態とやっている。

ジョルジオ・ヴィルヘルムを知った上で優男だとそう言っているのだ。

無駄にはだけだ褐色の艶のある胸元と個性味のある甘ったるい香りは女を誘うだけの為にあるようなものだろう。

やんちゃで頭もキレるようだが、剣を握る機会の少ない綺麗な手と、運動神経は良さそうだが圧倒的に戦場に出た事のない隙だらけの所作。


(どっちが優男なんだか)


ジョルジオは自分の肩に手を置いたエストの手をまるで愛撫するように撫で上げて指を絡ませると眉間に皺を寄せた彼に妖艶に微笑みかけた。


エリスが少し眉を顰めたのが分かったが、今はなりふり構っていられないというのが本音で俺も相当頭に来ているようだ。


「……離せっ、まさか男が好きなのか?」

「綺麗な手だな……羨ましい、まさか陛下は剣を持たれないのですか?」

「は……?」

「それにこのまるで美術品のような筋肉と傷一つない肌は艶やかで、まるで陛下の方が……美しい獅子だと聞いていたが本当にそうですね」

「憎たらしいな、何が言いたい。遠慮せず直球で言え」

「じゃ、お言葉に甘えて……」


やりとりから目を離さず三人の元へと向かうレイヴンはこれ以上事を荒立ててくれるなと願いがら焦る。

レイヴンに気付いたエリスの助けを求める瞳に同情するがどうにももう手遅れにしか思えない。

(それ以上煽るな、ジョルジオ)


「俺の妻になる人よりも、弱そうな男に……」

「エスターラ陛下!!」


ジョルジオを遮るエリスの珍しく上擦った声。

ここで争っては何の為の交流か分からなくなる。

エリスには我慢させるがこれが正解だろうとエリスがとりあえず仲裁するのを時間稼ぎに声をかけてくる来賓達を躱してひたすら目指す。



「エリス……なんだ?嫌味な男より俺がいいか?」


「エスターラ陛下……ご存知ないかもしれませんが、私の家門はクロフォードです私の夫は必ず私よく強く家族を守ってくれる方ではないといけません。そしてありのままの私を愛してくれるこの人でなければならないのです」


「……それは、俺がエリスより弱く見えると?」


(怒ってるわね……仕方ないわ……っ)

父が機嫌を損ねた時の母の行動を思い出して、うまく利用できないかと考える。自分の所為でこの交流を台無しにする訳にはいかないのだ。



エリスはジョルジオの手をエストの手から解いて甘えるように甲に口付けると「任せて下さい」と小さな声で強請るように言う。

あまりの可愛さにジョルジオが内心どころかあからさまに悶えている内に、意を決したように今度はエストの手をがしりと掴んだ。


「エリス…….っ」

エストが惚けていることなど気づかないし、気にも留めないエリスはゆっくりと、はっきりと子供に尋ねるようにエストに言う。


「私の手は、陛下の知っている女性の手とは違うでしょう?女性にしては硬く、剣を持つ指は真っ直ぐではありません」



「!!」


「小心者でもある上に、私は大切な人達が居ないと背筋も伸ばすことができませんでした。それに必要であればはしたなくスカートを切って剣を振ります」


「そんな事……、問題ではない」


「いいえ、面白くない筈です。私は鳥籠の中に入るのを甘受する性格ではありませんしきっとどんな状況でもジョルジュを愛します」



「それでも私がいいのですか?」


エリスの目を見れば誰にでも分かる。

問いかけているように見せかけて.エリスはこっぴどくエストを振った事が。


だってエストの手には負えないのだ。

どう考えてもこんな状況なのに落ち着きを取り戻したジョルジオがエリスに見惚れているのも、セイランが大笑いしているのも、父と母の目が嬉しそうに細まったのも、俺の口がつい緩むのも……


エリスだから、そうだし

俺たちだから、エリスもあんなに誇らしげなのだ。


(後は任せました。って顔してるなエリス……)


もう興味が無さそうにエリスの毛先に口付けているジョルジオに、
自分で始末しろと恨めしく思うものの、セイランのあんなにも楽しそうな顔を見ればどうでも良くなる。



「エスターラ陛下は……」

「エスト」

「?」

「エストと呼んでくれるなら今日は諦める」

「……エスト陛下は、魅力的です。あなたを愛しているご夫人方を大切にして下さい。では失礼致します」



「……っ、やっぱり欲しいな」



とんだ地獄耳だと思った。


振り返ったジョルジオが「あげないよ」と呟いたから。


背中がゾクリとするような殺気に、優しげな笑顔。


(俺が獅子なら、あいつは死神か何かか?)


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