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67.歓迎会での宣戦布告

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華々しく着飾った令嬢達は他国の高貴な未婚男性に見初められようとより気合が入っているし、男達もまた他国の美しい令嬢を射止める為にいつもよりも完璧に準備してきたようだった。


その中でも、幾らかの人間はより目立つ。


レイヴンやセイランは勿論、ジョルジオやエスト、そのほかの他国の貴賓達の一部、そしてエリス達兄妹もまたそう、この中では身分こそなので控えめだがあまりの外見の良さにかなり目立っていることに二人は気付いていないが人目を惹く容姿と圧倒する雰囲気は賜った才能でもあるとジョルジオは思っていた。


「今の所順調で安心しました……」

「そうだね。陛下方からの評判も良かったよ」

「ジョルジュは忙しくはありませんか?」

「無いよ!今日は、エリスと居られる」


隠しきれない甘ったるい雰囲気に周りは思わず目を釘付けにしたり、逸らしたり……レイヴンは内心で悪態づく。


(何だあれは。ジョルジオの奴、だらしない顔をして……)


視線の端に見えた母親、王妃の表情はとても嬉しそうで国王である父もまた甥であるジョルジオをずっと心配していた所為か安堵しているように見えた。


ジョルジオの黒い部分を王妃は知らないが、国王はよく知っている。


それもあって、貼り付けた穏やかさでも清々しいほどの冷酷さでもない、あれ程までに人間らしいジョルジオの様子が嬉しいのだろう。


ジョルジオの事だから、隠しもせずにど真ん中であんなに惚気ているのは他を牽制するという意味合いも含まれていそうだが……


(計算高いが、まぁ俺も同じようなものか)

先程からセイランを片時も離さない自分の嫉妬深さは自覚しているのでもう彼の事も考えないようにする。


各国の陛下方もまた上階でそれぞれ仲睦まじそうに並んで座っているし、その他の者達はこの会場で交流を楽しんでいる。

ふと、上階の空席があまりにも目立つものだからどの国の席だったかと思案する。目線に気付いたセイランが「エスターラ国よ」と教えてくれた。
おおよそまた女性でも口説いているのだろう。



あんなに沢山の妻や愛人が何故必要なのか理解できないが、無能な王じゃない事は知っているので、まぁ悪癖とでも思っておこうと他人事で考えていたが、そうならまだよかった。


他人事であれば、まだマシだったのだ。



挨拶を交わすジョルジオの目を盗んで近づき、エリスの手を取って甲に口付けたエストと、エリスを睨みつける数人の婦人達。

彼はまだ正妻を立てておらず、女達は自分こそがその座にと躍起になっているらしい。そうなればあの睨みつけるような視線も自然だろう。



「見て、ウチのエリスは何処に出しても見劣りしないわね」

「そんなことを言っている場合か」

「でも一番綺麗だわ。それにケールとジョルジオが居るもの」


「大丈夫よ」とセイランは言うが、寧ろ大丈夫じゃないのはエストではないだろうかと心配している。

武の心得がある者にはもう分かるだろう、穏やかな表情をしているジョルジオの雰囲気が一瞬にして変わった事が。


表情だけ見れば特に変化はないがジョルジオはエリスに対してこんなにも不躾な男を許さない。


「エリス嬢、今日も美しいな」

「エスターラ陛下、光栄ですが些か大袈裟な挨拶かと」 


表情を崩さずに堂々と言ったエリスは流石だが、全く堪えている様子の無いエストはさり気無く振り解こうと引き戻した手を離さないように握り返したように見えた。



「我が国では珍しい事じゃない」

「そうですか、それでは私達は……」


ジョルジオに早く行こうと目線で促すエリスが騒ぎを起こしたく無いのだと読み取ってジョルジオは頷いたがそんなエリスの手を離すどころか思いっきり引いて腕の中に閉じ込めたエストに会場が騒めき、ジョルジオから笑顔が消えた。



「エスターラ王、どういうつもりでしょうか?」


「ジョルジオ公の妻だったか?これは失礼したな」


まるでまだ妻ではないだろうと挑発するような表情にジョルジオの目からとうとう光が消える。


(まずいな……)



「私はまだ妻ではありませんが、正式な婚約者です陛下」

「結婚していないならまだチャンスがあるな」

「陛下、お戯れが過ぎるかと」


笑顔すら怖いジョルジオがエリスの肩を引き寄せて抱きしめるようにして彼女を取り戻すと「はっ」と自信ありげなエストの笑みが溢れた。

令嬢達が黄色い声をあげ、男達が舌打ちする。

確かに色男なので心配になって何となくセイランを見るが、興味無さそうに据わった目でエストを見ていた。


「礼儀を知らないのね」

「そうだな」





けれどさらに驚くべきことは、エストが礼儀どころか怖い者知らずだという事だった。



「エリス嬢、貴女を正妻として迎えたい」


「「!」」


「勿論、ハレムではなく王宮にだ」



ああ、もうこの歓迎会は終わったな、そう直感した。


「セイラン、母上と少し待っててくれ」

「分かったわ」






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