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66.久しぶりに会っても碌なことない

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パスカル国は王太子の独断で行った事だとビリエンをあっさりと切り捨てたがエリス達のセントルージュ国を含む休戦地区の近隣国の殆どがそれに納得をしなかった。

その為に近隣国会議が開かれることとなった。

国の広さと、今回の事件の当事者だという事でセントルージュが開催場所に選ばれたのでエリス達も皆大忙しなのだ。


次々と到着する来賓への対応に追われているセイランの秘書としてエリスもまた対応に追われている。


その中でも南部エスターラの王、エスト・イヌ・エスターラはかなりの曲者である。若くして黄金の国であり南部最大の国の王である彼はとても大きなハレムを作り世界各国から美しい女性を集めている。


その中でも妻は十人も居り、外見も褐色の肌と艶やかな黒髪が似合う艶やかな美青年だ。


そして近頃やけにエリスに構うのだ。


ジョルジオは落ち着きなく執務机の上を指を叩く。


警備の件で訪ねているケールの眉間にもまた皺が目立っていた。



「ケール、エリスは?」

「今は王太子妃宮で執務中かと」

「エスターラ王の様子は」

「エリスを連れて帰りたいとしきりに言っているそうですが、来賓室で連れて来た女性達と戯れているそうです」

「……南部の軍事はどう?勝てそうかな?」

「気持ちは分かりますが、戦争になります団長」


エスターラを含む先に到着した国々の他にも各国が揃い、明日開かれる歓迎会には皆参加するだろう。


エリスもまたジョルジオのパートナーとして参加する予定だ。

あまりにもエリスが注目を浴びるのでジョルジオとしては気が気じゃない。
それでもドレスを見ればエリスに相応しいものを贈りたくてつい張り切ってしまうし、合わせた自分の装いも楽しみで仕方がない。


やはり美しく着飾って少し恥ずかしそうにしながらも、楽しそうにメイクや髪型の相談をメイド達としているエリスは可愛くてつい準備を終えていないのに覗きに行っては怒られてしまうのだ。


(楽しみだなぁ、ずっと忙しかったしね)


「そういえば、我が国と交流のあるセフラン国の公爵家からもハレムに入宮しているそうですね」

「へぇ……手広いな」


そう噂をしていれば、扉の前で慌てた声を出す使用人。


「か、閣下!此方へ向かうエリス様が道中トラブルに!」


「「!!」」

すぐにケールと執務室を飛び出し歩きながら事情を聞くと、エスターラのハレムの女達に取り囲まれ連れ出されたと言う。

女性同士の話ならエリスなら問題なく解決するかもしれないが相手は多勢、念の為使用人に案内されて向かうと、人気のない壁際に追い込まれて女達に睨みつけられるエリスが落ち着いた様子で腕を組んでいた。


(ちょっと様子を見るか)

頷いたケールを見て使用人を引き止めて成り行きを見守る。


「お久しぶりね、エリスさん」

「お久しぶりです。セフラン公爵令嬢」

「何その格好、顔を変えたの?あの地味なエリスが?」


どこから持って来たのか、丸い眼鏡を見せて皆で嘲笑う女達。


「エリスったらこんな眼鏡で髪を地味纏めて、冴えない子だったのよ?」

「まぁ!それがエスト様に気に入られようと背伸びを?」

「顔まで変えたの?」


クスクスと嘲笑いながらエリスを貶す女達に、エリスはどうでも良さそうに視線を空間に向けていたが、とうとう「顔は生まれつきですが」と切り出した。


「はぁ!?何?それって急に自慢してるの?」

「顔だけでしょ?冴えない子だって聞いてるわ」

「エスト様にもお知らせしなくちゃ!騙されてるってね!」



ため息をついたエリスな「この格好は私の婚約者に良く見せたいからです。エスターラ陛下は関係ありません」と少し強調するように伝え睨みつけた。


美人の怒った顔が怖いとはその通りであまりの迫力に言葉を失った女達がエリスの髪に手を伸ばした所でジョルジオとケールが滑り込んだ。


「俺の未来の妻に」

「妹に、」


「「何か御用ですか?ご夫人方」」





「……ジョルジオ閣下、えっ、貴方、トリスタンと」

「終わった話です。ジョルジオ閣下と婚約しています」


「……っ、トリスタンでも勿体無いと思っていたけれどジョルジオ様まで……それにエスト様だってこの子に夢中だし……」


ぶつぶつと何か言い始めたエミリア・セフランとジョルジオ達に見惚れる他の女達の間からエスコートするようにエリスを助け出した二人は振り返って鋭く睨みつけた。


「客人といえど、手出しは容赦し兼ねます」

「貴国の事はそちらで対象して下さい」


「二人とも、どうして……」

チラリと使用人が顔を出したのを見て納得するとエリスは呆れたように、けれど少し悪戯に二人を見て笑った。


「女と言うものは、好きな人を独り占めしたいものですものね」


「……エリス、兄がハレムからお前を守ろう」

「ケール、可愛すぎる。キスしていいかな」

「ダメです」


「ふふ、なのであの方達の気持ちも理解できますし……水に流しましょうか」

「エリス、でも……」

「良いんですジョルジュ。二人が来てくれて無事ですので」


女達の不審な行動に気付いて好奇心で探していたところ、補佐官と侍従を連れ途中から様子を目撃していたエスターラ王によってエリスがまた気に入られてしまったことにはまだ誰も気付いていない。


「ふーん、エリスって心まで美しいんだ」

「陛下、彼女はヴィルヘルム公爵の婚約者です」

「まだ妻じゃないし、そんなの何回だって奪って来ただろ」

「今までと相手が違います」

「ま、まずは口説いてみようか」

「陛下……」


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