婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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65.パスカル国王太子、ビリエン

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休戦地区とはいえ敵を目前に、どころか敵を誘い込むような手段で誘拐を目論んだパスカル国は敵ながらあまりにも不用心で驚く。


確かにもう少し頭のキレるものならばもっとマシな方法が思いついただろう。けれども防具どころか変装もしないでギラギラとしたやたらと高級品ばかりをぶつかり合わせた服装に妙な髪型。



「的はここですよ~」と誘っているような遅い歩み。

(いや、あの腹と頬ならかえって防具になるか)


「お前達は……!!まさか、王太子とヴィルヘルム公じゃ……!」



罠かも知れないので部下達に周囲の警戒を強めるように指示して彼の元へ近づくと挨拶も弁明も無しに横柄な態度で指をさすだけ。


休戦地区に面する国は皆が当たり前に守っていることを破ったという認識は無いようで明らかな臨戦態勢だろう陣営は特に誤魔化す気もないらしいあまりに太々しい様子にレイヴンは眉を寄せた。


(まだ狩りだとでも言い訳でもすれば可愛いものを)



「まさか影武者か?」

「そうかもしれないな」



「失礼な!!私こそパスカルの王太子ビリエンよ!」



「だろうな、見覚えがある」

「王族にもこんなまぬけが居たのか」


「なんて無礼な人達なんだ!!!お前達こんな休戦地区に何をしに来た!?」


(それは其方にも言える事だが)


微妙な顔つきのレイヴンを見てついに笑ってしまったジョルジオに段々と顔を真っ赤にしたビリエンが怒りを露わにする。

不恰好に剣を振り回す様子にとうとうレイヴンまでもが笑いだしてビリエンは怒りの感情のまま二人を捕らえよと命じた。


「ふ、やめろジョルジオ」

「レイヴンだって笑ったくせに。さ、逃げよう」


意味深に笑ったレイヴンとジョルジオは何故か同じ方向へ真っ直ぐに逃げる。


そのまま真っ直ぐに追いかけてくるビリエンとパスカルの兵。

最短で向かうのはエイワ森林地区の境。

気付かせぬように煽ることも忘れない。



「遅いな、体重の所為か?」

「まさか!ただ鈍臭いだけじゃ?」


「な、何だと……!!馬を狙え!!!」


「おっと、それじゃ届かないよ」

(何せ俺の馬は国一番速いし、レイヴンは国一番の馬の扱いが上手い)


順調に誘い込む背後と両側を段々と此方の兵に包囲されていることも知らずにただ真っ直ぐにジョルジオとレイヴンを追うパスカルの者達。



エイワ森林地区をもうすぐ出るという所でビリエンの部下が気付く。



「殿下!このままでは休戦地区を出てしまいます!!」



(ほう、気付いたか)



「何!?止まれ!止まれ!!!!」

「無理です!背後からクロフォードを名乗る兵が!!」


「ケールだな」

「そうだね」


もう逃れるにはたった二人しかいない目の前を通過するしかない。


どう見ても包囲されている状況に気づくと意を決したように突っ込んでくるビリエン達にニヤリと笑う二人。


左右二手に分かれて一見逃げたように見せかけたところでビリエンの進行を防いだのはクロフォード伯爵だった。



「娘が、世話になりましたな。パスカルの王太子よ」


「な!何のことだ!私はな、なにも!!」


「誘拐してくる筈のレディを待って居るのでは?」


「何故それを!!!!」


「それならば、王太子妃殿下は来ませんよ」



彼らにもう逃げ場は無かった。

わざわざ説明してやる義理こそ無かったが、クロフォード伯爵の娘自慢ついでにパスカルの策は打ち砕かれたことを伝えてやるとエリスへの恨み言を呟きながら力無く膝をついた。



ビリエンは二人を追っている筈がずっと三方を包囲され追われていたのだ。

その上に唯一の進行方向も塞がれてしまった。

そして待ち望んでいた人質はもう来ない。




最後の足掻きだと応戦するが虚しくあっというまに制圧されたビリエン率いる兵達は全員が捕縛された。


今にも殺しにかかりそうな四人の男達にビリエンは怯えるが、母国からの救援は来ないし交渉に応じる様子も無いだろう。


「セイランとエリスは無事だろうか」

「王宮に居るし念の為セイルに護衛させてるよ」

「あの騎士はそれほどか?」

「まぁもう少し鍛えれば。公爵家うちに来たいらしい」

「惜しいな」

「エリスにべったりだからな、そっちへやりたいがまぁ信用できる良い騎士だよ」


珍しく物分かりの良いジョルジオに怪訝な顔を向けるレイヴン。

それに少し笑って「毎日応戦中、嫉妬はもちろんしてるよ」と少し楽しそうに言葉を投げた。




「お、お前達……友好国への無礼だぞ!分かってるのか!!」

「おっと、忘れてた……どうしましょう?殿下?」

「そうだなヴィルヘルム公……」

「お二人共、この件はクロフォード伯爵家で受け取りますが?」




「で、相手が誰が分かりましたか?殿下も閣下も、父上もあなた方もよく知る冷酷で有能な人達の筈ですが」



ニヤリと笑ったケールの剣先が既に喉元を掠っている事にひやりとする。


エリスの面影を感じるその横顔にジョルジオは思わずケールを引き止める。


「手を汚すのは此方の専門だ、ケール」

「ですが団長!」

「エリスに似た顔でそんな怖い顔をするな」

「……」

レイヴンはジョルジオのあまりの緊張感の無さに額に手を置いた。

















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