63 / 77
63.失いたくない
しおりを挟む来賓室を借して下さったお陰で一度帰る手間が省けたなと一感謝しながら頭の真ん中ではもう今から会議する準備や実際に誘拐した者と居た時間で収集できた情報なんかが激しく回転していた。
とりあえず湯から出て、簡単なドレスを着て一通りの身支度をすると見計らったかのように扉を叩く音が聞こえて「すぐ行きます」と言いかけてやめた。
聞き覚えのある愛しい声だったらからだ。
「入ってもいいかな?」
(ジョルジュ……?)
「ええ……どうぞ」
けれど想像していたよりもかなり弱々しく不安気に揺れる瞳にどきりとする。
まるで何かを切に訴えかけているかのように見つめたあと、ぎゅっと強くエリスを胸の中に閉じ込める彼のこんなにも不安気な姿は初めてだったから。
「君を失うかと思った……、もうあんな無茶はやめて」
「ーっ、当然の行動でした。けれど……ごめんなさい」
「もうしないとは約束してくれないんだね」
「ジョルジュ……私はっ」
勿論ジョルジオはエリスの次に言わんとすることが予測出来ている。
その上でエリスにこんな無茶はやめて欲しいと願っているのだ。
「セイラン様の秘書官で、クロフォードなのです……」
「なら、ヴィルヘルムになればいい」
「!!」
「俺は君が傷つくことが嫌だ。君は万能じゃない王族に近くなればなるほどこのままじゃ俺は……エリスをいつか失う」
「だからって、そんな簡単に結婚を……っ」
(ジョルジュは王族なのよそんな簡単に許される筈がないわ)
ジョルジオの燃える瞳に灼かれそうだと思った。
不安げな筈なのに瞳の奥は爛々としている。
そんなジョルジオの視線、触れ方、言葉……ひとつひとつ全てのことに気づかされてしまった。
いや、十二分に伝わってはいるが言葉ではなんとも表現し難いストンと心の中に突然落ちてくるような、心の中にすでに住んでいるのを今更内側からノックされて気付いたかのような妙な、けれど幸せな感覚。
嘘偽りなく純粋にエリスの事を心配して、エリスを失うことを恐れている。
そしてエリスを深く愛していると……。
「なんだってする。だから側に居てくれ」
「は、い」
「これがプロポーズなんてダサすぎるから、ちゃんと改めるけど……これは返事でいいんだよね?」
「あっ!……思わずっ」
「はは、もう撤回させてやらない」
ジョルジオはもう一度ぎゅっと抱きしめてから真剣な顔つきで赤くなったままのエリスにゆっくりと話した。
「仕事は続けてもいい」
「はい」
「剣だって練習してもいい」
「……偶にしかしませんが。知ってたのね」
「セイランへの忠義も誇らしく思ってるよ」
「はい」
「でも、命を捨てる覚悟だけは許さない」
「……分かりました」
「クロフォードの強い令嬢はもう俺のだ」
「ーっ、はい。貴方のエリスです」
「だから幸せ以外の未来は許さない」
心音が早くて思わず呼吸が乱れる。
顔も身体も熱くて、あまりにもくすぐったい。
込み上げるように「愛してる」が追ってきて喉元につっかえる。
愛されるとは、大切にされるとはこんなにも暖かくてどうしようもなく心を乱されるものなのかときゅっと胸が締め付けられた。
「ジョルジュが居なければ幸せじゃありません」
「!!」
「ジョルジュもずっと傍に居てくれますか?」
「俺は危険を避ける事はできないけど、約束する」
ジョルジオは片膝を立ててエリスの手を取ると、剣を床に立てた。
どき どき どき と時計なんかよりも余程早い心臓のせいでやっぱり息がし辛くて、彼の全てに魅せられてしまって言葉が出ない。
その様子にジョルジオがふわりと笑ってから二人は目が合う。
「必ず、エリスの元に戻ってくる」
「……絶対、ですよ」
やはり喉元に引っかかって出てこない。
すぐに伝えてしまいたいのに、まだ恥ずかしく感じる。
(いや勇気がないだけね)
まるで全て察したかのように軽く目を見開いては、そのまま立ち上がってエリスに口付けたジョルジオがやっぱり先に伝えてしまうから自分もつられてしまうのだ。
「愛してるよ、エリス」
「私も、愛しています」
こうして、すんなりと出てから嬉しくなる。
こう言う事を感じるのも、伝えるのも苦手だと思っていた。
自分はつまらない人間だと何処かで諦めていた。
なのにジョルジオはこうも私の中を乱して、見つけてくれる。
照れたみたいにはにかむあなたを見るだけで思わせてくれる。
(幸せ、だなぁ)
13
お気に入りに追加
1,523
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!
桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。
令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。
婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。
なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。
はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの?
たたき潰してさしあげますわ!
そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます!
※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;)
ご注意ください。m(_ _)m
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))
書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる