婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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63.失いたくない

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来賓室を借して下さったお陰で一度帰る手間が省けたなと一感謝しながら頭の真ん中ではもう今から会議する準備や実際に誘拐した者と居た時間で収集できた情報なんかが激しく回転していた。


とりあえず湯から出て、簡単なドレスを着て一通りの身支度をすると見計らったかのように扉を叩く音が聞こえて「すぐ行きます」と言いかけてやめた。

聞き覚えのある愛しい声だったらからだ。


「入ってもいいかな?」

(ジョルジュ……?)

「ええ……どうぞ」


けれど想像していたよりもかなり弱々しく不安気に揺れる瞳にどきりとする。

まるで何かを切に訴えかけているかのように見つめたあと、ぎゅっと強くエリスを胸の中に閉じ込める彼のこんなにも不安気な姿は初めてだったから。



「君を失うかと思った……、もうあんな無茶はやめて」

「ーっ、当然の行動でした。けれど……ごめんなさい」

「もうしないとは約束してくれないんだね」

「ジョルジュ……私はっ」


勿論ジョルジオはエリスの次に言わんとすることが予測出来ている。

その上でエリスにこんな無茶はやめて欲しいと願っているのだ。


「セイラン様の秘書官で、クロフォードなのです……」

「なら、ヴィルヘルムになればいい」

「!!」

「俺は君が傷つくことが嫌だ。君は万能じゃない王族に近くなればなるほどこのままじゃ俺は……エリスをいつか失う」


「だからって、そんな簡単に結婚を……っ」

(ジョルジュは王族なのよそんな簡単に許される筈がないわ)

ジョルジオの燃える瞳に灼かれそうだと思った。


不安げな筈なのに瞳の奥は爛々としている。


そんなジョルジオの視線、触れ方、言葉……ひとつひとつ全てのことに気づかされてしまった。

いや、十二分に伝わってはいるが言葉ではなんとも表現し難いストンと心の中に突然落ちてくるような、心の中にすでに住んでいるのを今更内側からノックされて気付いたかのような妙な、けれど幸せな感覚。


嘘偽りなく純粋にエリスの事を心配して、エリスを失うことを恐れている。


そしてエリスを深く愛していると……。



「なんだってする。だから側に居てくれ」

「は、い」

「これがプロポーズなんてダサすぎるから、ちゃんと改めるけど……これは返事でいいんだよね?」


「あっ!……思わずっ」


「はは、もう撤回させてやらない」


ジョルジオはもう一度ぎゅっと抱きしめてから真剣な顔つきで赤くなったままのエリスにゆっくりと話した。


「仕事は続けてもいい」

「はい」

「剣だって練習してもいい」

「……偶にしかしませんが。知ってたのね」

「セイランへの忠義も誇らしく思ってるよ」

「はい」

「でも、命を捨てる覚悟だけは許さない」

「……分かりました」

「クロフォードの強い令嬢はもう俺のだ」

「ーっ、はい。貴方のエリスです」

「だから幸せ以外の未来は許さない」


心音が早くて思わず呼吸が乱れる。

顔も身体も熱くて、あまりにもくすぐったい。

込み上げるように「愛してる」が追ってきて喉元につっかえる。

愛されるとは、大切にされるとはこんなにも暖かくてどうしようもなく心を乱されるものなのかときゅっと胸が締め付けられた。


「ジョルジュが居なければ幸せじゃありません」

「!!」

「ジョルジュもずっと傍に居てくれますか?」


「俺は危険を避ける事はできないけど、約束する」


ジョルジオは片膝を立ててエリスの手を取ると、剣を床に立てた。

どき どき どき と時計なんかよりも余程早い心臓のせいでやっぱり息がし辛くて、彼の全てに魅せられてしまって言葉が出ない。



その様子にジョルジオがふわりと笑ってから二人は目が合う。



「必ず、エリスの元に戻ってくる」




「……絶対、ですよ」



やはり喉元に引っかかって出てこない。

すぐに伝えてしまいたいのに、まだ恥ずかしく感じる。


(いや勇気がないだけね)


まるで全て察したかのように軽く目を見開いては、そのまま立ち上がってエリスに口付けたジョルジオがやっぱり先に伝えてしまうから自分もつられてしまうのだ。




「愛してるよ、エリス」



「私も、愛しています」



こうして、すんなりと出てから嬉しくなる。


こう言う事を感じるのも、伝えるのも苦手だと思っていた。

自分はつまらない人間だと何処かで諦めていた。

なのにジョルジオはこうも私の中を乱して、見つけてくれる。

照れたみたいにはにかむあなたを見るだけで思わせてくれる。


(幸せ、だなぁ)









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