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59.どうや審議の目は厳しいらしい
しおりを挟む本来ならばセイルに品定めされる筋合いは無いが、どうしてだか敵意を剥き出しにしているにも関わらず悪意を感じない彼が憎めないでいる。
本当にエリスを心配して、本気でエリスを慕っていることを感じて彼女達の幼馴染という事も相まって無下にもできないでいる。
貴族社会の中でこんなにも純粋であからさまな一途な好意は珍しく、貴重な心強い味方ともいえる。きっと彼は恋心が無くなったとしてもエリスを裏切る事はないだろうそう感じていた。
「認めませんから……っ」
見学に来てはちょこちょこと騎士団の訓練場をウロウロとしているセイルを見つけて稽古を付けてやるというと、
口ぶりこそ生意気なもののまるで犬の尻尾がはち切れんばかりに振れている幻覚が見えるほどのニヤけ顔を無理矢理膨らませて付いてきた。
そしてセイルは今、何度目かの地面に突っ伏しながら憎まれ口を叩いている。
「閣下は……僕の憧れだけど、遊び人じゃないですかぁ!!」
「うわ!いきなり立ち上がるなよ、驚いただろ」
「エリスも酷いよ、ずっと相手にしてくれない上に閣下とすぐに婚約してるなんて!」
「セイル……遊び人というのは語弊があるな」
「……閣下」
「なんだ?」
「絶対に守って下さいね、これからも」
セイルは留学中にエリスの身に起きたことを一部始終聞いたらしく、これでもジョルジオに感謝していた。
彼がエリスの側にいて良かったとさえ思っていた。
優しすぎるエリスはきっと自ら退場する道を選び、これ程までに綺麗に奴等を懲らしめることはできなかっただろう。
だからジョルジオくらい腹の黒い人間が居て良かったというのがセイルの気持ちだった。
けれど彼は、ジョルジオはそれだけじゃなかった。
「ああ、必ず守るよ」
高貴な輝き、紅く何処までも深いその瞳にはエリスだけが映っていると確信できる。芯の通った穏やかな声はきっとエリスにだけ愛を囁くのだろうと信じられる。そんな感じがした。
不思議な人だとセイルは思った。
「君の姉上は俺にまかせなさい」
「僕は弟じゃない!!!」
呆けていると「弟的な存在」だとちゃっかり釘を刺してくるあたりがヴィルヘルム公爵らしいと感じた。セイルは皆が見る表面的なジョルジオではなく彼の想像する大胆かつ冷酷でテリトリーを硬く守るヴィルヘルム公爵を求めていたからだ。
本当はエリスの近くに居たくて志願する予定のヴィルヘルム公爵家の騎士団だが、当主がジョルジオならば光栄なことだな……と試験を受ける前から考えている。
「ははは!じゃあ続き、しよう」
「……次は負けませんから」
「どうかな?」
剣を交えるといろんな事が分かるというが、お互いに交えた剣から
「上手くやれそうだ」と感じている事にはまだ自覚がない。
「護衛騎士なんてどうだ?貴族でもあるからパーティーにも出席できるだろう」
「閣下に護衛は必要ないと思いますが」
「あれ?俺の妻になる人を慕ってきたんだと思ったけど……」
「えっ!?はぁ!?いや……っ」
「お前案外俺の事も好きなんだ」
「ぜ!絶対違いますからっ!!別にっ、」
動揺した瞬間にまた弾かれた剣にまずいと思った瞬間に地面に沈められたセイルはケールの姿をジョルジオの後に見つけて「まさか」と思い付く。
「団長、そろそろ……お迎えに上がりましたがそこで偶然……」
「ごめんなさいジョルジュ忙しかったですか?」
(やっぱりエリスも居る!!)
「うっうっう~エリス~っ、痛いよぉおお!」
「え……」
「団長、やられましたね」
「セイル!?どうしたのこんなにボロボロになって」
「閣下が、僕に厳しくするんだ」
「ジョルジュが?そんな筈ないわ……」
まさか僕の言葉を信じないなんてと顔に出して驚くセイルに、ふふんと鼻で笑ってやったジョルジオが「有望なのでつい無理をさせたかな」と微笑むとエリスはセイルの近くに膝をついて頭を撫でて、子供にするように軽くハグしてやる。
カチリと石化した様子のジョルジオに今度はセイルがふふんと笑って、エリスの肩にこつりと額を当てた。
「まぁセイル、良かったわね?」
「そんな、僕なんてまだまだだよ……」
「頑張ってて偉いわね、ジョルジュにお礼をしなきゃ」
(相変わらず、子供の頃のままねセイルは)
「僕のエリスなんだから、認めないぞ」
口の動きだけでゆっくりジョルジオにそう言うと違和感を感じて覗き込んだエリスに「なんでもない」と笑った。
「やられた」
「厳しい姑か、ライバルが出来ましたね」
「俺が勝つよ」
「じゃあまずあれを自力で引き離してこないと」
「そうだな……」
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