婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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58.強敵?公爵の心配事

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結局次の日の夕刻まで止まなかった嵐のお陰で、婚前にエリスとまるで新婚のようにゆっくり過ごせた予期せぬ嬉しい休日の次の日。

清々しい朝の訓練で溜まりに溜まった煩悩を振り払っていると、遠くでこちらを眺める青年が目に入る。

「あの者は?歳はそう遠くないかな、入団志望者か?」


「団長、この者はセイル・レクシット卿です」


ケールの手招きで近くに来たレクシット男爵家の嫡子らしい彼は留学から帰ってきたところで、ケールの幼馴染でエリスよりも一つ歳下らしい。



将来有望な騎士だとケールが言うのだから間違いないだろう。

どこなくあどけなさの残る可愛らしい顔立ちと相反する鍛え抜かれた身体と剣だこは彼の魅力と言えるだろうし、必然的にエリスとも幼馴染と言う事になる。


「会えて嬉しいよ、レクシット卿」

「こちらこそお会いできて光栄です!公爵閣下」

(これは、夫人方に可愛がられるだろうな)


丸くて愛らしい薄緑色の瞳が薄茶色の少しだけ癖のある柔らかそうな髪と同じ色のまつ毛に縁取られていてそれを少し細めて笑う彼の笑い方が少し、ケールとエリスと似ている気がして思わず親近感が湧く。


「幼馴染だと聞いたよ。騎士団希望かな?」

「いいえ……僕はヴィルヘルム公爵家の騎士を志望するつもりです」

「へぇ、君なら王宮騎士団にでも入れるだろう」

「私では力不足でしょうか……?」

「いや、充分やっていける筈だ。なにせケールのお墨付きだからね」



入団試験を薦めると、喜ぶ姿は無邪気で年齢より少し幼くも見えるが弟が出来たような気分だ。

けれど愛らしく懐っこい、感じのいい青年に感じる違和感……。



そんなセイルに、ケールが少し驚いた表情の後に小さく「セイル、お前まだ……」と言いかけてやめた珍しく煮え切らない彼の行動。


(何かあるのか?)


兎に角、ケールがこうして紹介すると言う事は少なからず危険人物ではないということでそこは信頼しているが……

(性格に難ありとか?いや、俺じゃあるまいし……)

思案していると視界の隅に、かなり遠くはあるがそれでも感知する愛するエリスの面影。

視線を其方に向けるとまさに本人で、エリスは此方を見てもいない。

方向的に王太子妃宮からレイヴンへの使いだろうか、何か手紙のようなものを抱えて完璧たる所作で歩くエリス。


「エリ……」
「エリスっ!!!!」

「ーっは?」

「すみません、団長」

自分よりも先に馬鹿でかい声が彼女を呼んで、少し驚いたように見える彼女が足を止めるのが見えると一目散にエリスの元へと行くセイルに唖然とする。



「……何だあれは」

(やたらと足が速いのも癪だな)


「と……兎に角、追いましょう」


大人の余裕と何十回も心の中で唱えながらエリスの元へと行くと、セイルと話している彼女が顔を此方に向けて陽が差したように微笑んだ


「ジョルジュ、お兄様。ごきげんよう」

「エリス悪いね、仕事中に引き止めて」

「ジョルジュに会えて嬉しいですよ」


「!!」

(嘘だ……あのエリスが?僕には久しぶりねとしか言わなかったのに)


「あの、エリス?本当に婚約したんだね……」

「ええ。紹介しようと思ってた所よ」

あの男トリスタンの時とは違う……」

「セイル、止めろ」

「ケールさんは黙っててよ!!」


セイルの反応を見て気付く、いつからとは分からないがきっと彼はずっとエリスが好きだ。あの男とはきっとあの間抜けな元婚約者だろうし今にも泣き出しそうに涙を瞳に溜めている所を見ると相当堪えているようだ。


「セイル、悪いな……」
「うわぁぁん、嫌だ、僕認めないからっ!!」

「え"」

「……団長、間に受けないで下さい」

「……なるほどな」

(わざとか)


困ったような表情で、まるで子供をあやすようにセイルの頭を撫でたエリスはきっと彼がもう成人男性だというのにまだ子供の頃のままの感覚でいるのだろう。


母か、姉かのような慈悲深い声で「セイル、ジョルジュはいい人なのよ」と言い聞かせるが「やだ!エリスがまた取られちゃう……」と瞳を潤ませて腕を伸ばしたまま少し距離を開けてエリスの腰に両手を巻き付ける。


向かい合っていて、しかもジョルジオに見せつけるようでもあるにもかかわらず困った顔のエリスとセイルは姉弟にしかみえないが、

(それでも、)


「見てられないな」

「ジョルジュっ……っ」


エリスを奪って腕の中に閉じ込めると胸元で顔を上げた彼女は照れた顔で笑った。

「ジョルジュまで子供みたいですよ」

「妬けるものは妬ける」

「じゃあジョルジュは後で……」

弟のような存在が居るからか、どこか大人びて見えるエリスにどきりとしていると腕から抜け出したエリスはセイルの涙をハンカチで拭いてやりながらこちらを振り返って「仕事のついでに彼を門まで送ります」と仕方がなさそうに眉尻を下げた。


「……やはり、強敵」

「団長、心配ないと思いますが」

「いや、あざと可愛い系がモテるらしい」

「エリスは貴方が好きですので」











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