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54.初戦の結果は如何に?
しおりを挟む社交会を凌駕すべく第一歩目の夜会はすぐに訪れる。
貴族にとって社交会もまた仕事の内で、多方面においての手っ取り早いアピールの場所でもあるのでパーティーや夜会なんてものは社交会シーズンでなくてもある所にはあるし、お茶会なんかは令嬢や夫人達が一年中何処かで開催しているのだから。
社交会シーズンである今は特に貴族達が首都に持つタウンハウスに集まっていて、今日の夜会でもまた多くの顔ぶれが見えるだろう。
「今日も美しいよ、エリス」
「ジョルジュも。とても素敵です」
ジョルジオ達の瞳を連想させる濃い赤のドレス。
同じ赤を基調とするジョルジオの燕尾服。
二人の初々しい表情のどこ見ても仲睦まじいと思うだろう。
そしてジョルジオ、エリスともに個人で見てもまたそれぞれ素晴らしい人物と言えるだろう。それほどまでに二人は完成されていた。
けれどもエリスは今まで培われた自己肯定力の低さから不安な気持ちでいっぱいだった。
「さぁ行こうか。レイヴン達も待ってるよ」
「そうですね」
セイランに付き添う為か、任務以外では社交会に出る事は無かったエリスは近頃クロフォード伯爵令嬢として活動することになってある意味任務ともいえる「社交会の華になる」という事にかなり気が入っているようにも見えた。
ジョルジオは小さく笑って握り直したエリスの手の冷たさに驚いた。
なるべく安心してもらえるように白くて自分のよりも柔らかい手を包み込んで命を吹きかけるように手の甲にそっと口付けた。
「大丈夫だよ。全て上手く行くよ」
「……! そう、ですね。ありがとうございます」
心の内がバレている事が恥ずかしいのか、照れているのか頬を染めてはにかむエリスの美しさが可愛さに染まっていく。
その瞬間を知るのが自分だけだったらいいのにと考えながら吸い込まれるようにその琥珀色の瞳に釘付けだった。
「ヴィルヘルム公爵とクロフォード伯爵令嬢のご入場です」
相変わらず慣れない入場を伝える大声、隣のエリスもきっと同じことを考えているだろう。そんなことが微かな表情で分かる程には彼女との仲は深まっていると自負している。
けれど俺には慣れたこの視線。
羨望、憧れ、妬み、品定、敵意、好意……様々な感情が一気に向けられて人々の感情が自分を呑み込まんとする。
熱いような冷たいような視線が肌をビリビリと刺す感覚だ。
エリスにとってはどうだろうか?
心配になり不自然に感じられない程度に視線を動かしてエリスを見た瞬間
ーー呑まれた
形良く縁取られた琥珀色は一際強く輝いているように見えて、口角の上がった美しい唇もまた勝気に誘惑するようだった。
伸びた背筋が、凛とした表情が雰囲気が、エリスを纏う全てがより一層彼女を引き立たせている。
一歩踏み出す足の動きから髪をはらった仕草、目があった知り合いに微笑む姿までもが優雅でゆっくりと瞬きをして刺さる視線を返すように周りを見た瞳の奥の強い光に体に電撃が走る。
悟られぬようにエスコートするも一歩進むごとに流し見る会場の者達も俺と同じ、雷にでも撃たれたかのような反応で歩みと共に広がる清潔感のある香りに身体の芯からジンジンするような、力が抜けるような感覚に襲われているように見えた。
呑まれるどころか、見事に会場を飲み込んだエリスにやっはりゾクリとして口角が上がるのを止められない。
(セイランの大丈夫はこう言う事だったのか)
「よく来たな」
「待ってたわよ、二人とも」
陛下方に変わって出席するレイヴンとセイランに挨拶するべく二人の席へと行くと何故か自慢げな二人の表情に「なんで二人がその顔なんだ」と言いそうになるが人々の注目の最中辞めておくことにした。
「エリス、流石ね」
「……やりすぎでしょうか?」
「先制あるのみよ、大成功のようね」
惚ける皆を見渡してから声を落として俺たちにだけ聞こえる声で言ったセイランにそこだけは共感するよと込めて首を縦に振った。
一方、人々の目など気にもしていないようなエリスはそっと扇子を開いて皆を振り返り目を細めた。
「セイラン様、勝ちましたか?」
「そうねエリス。今日の勝者は貴女よ」
(エリスは任務になると、やり切るのよね~!)
「その顔が自然に出来るようになれば上出来だが」
「レイヴンったら!」
「俺は、その顔も独り占めしたいけど」
「ジョルジュ……っ」
引き寄せた腰と二人の重なる視線に会場はまた湧いて、セイランは完璧なるヴィルヘルム公爵と近い未来の夫人の勝利を確信したらしい。
「よく出来た部下と、運のいい従兄弟だな」
「社交会は貰ったわ」
「セイラン……まぁこればかりは俺がやれないからな」
(に、しても私の優秀なエリスをどうやってここまで夢中にさせたのかしら……やはりジョルジオは恐ろしいわね)
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