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52.社交会の華となれ
しおりを挟む「エリス、社交会の華となって頂戴」
「……意味がわかりかねます」
上司のセイランから言われた突然の新しい指令があまりにも抽象的だった為に思わず間髪入れずに聞き返した。
「社交会の華、即ち中心となって私の目となり耳となって欲しいの」
「成程……他に適任者は?」
「居ないわ」
「非現実的過ぎます、セイラン様」
まるで作りものかと疑うような顔を憂鬱に染めるエリスは本心からそう言っているのだと分かる。
(スペックと自己肯定度が比例してないのよね)
どう考えてもエリスしか適任者はいないこの指令にセイランはかえってどうしてこんなにも悩むのかも問いたい程だが、エリスの性格はよく知っている。
「富で力を付けて来ている貴族派や近頃現れた革命を語る者達の事を考えるとこの静かな争いにおいて女の領域もまたある意味戦争となるわ。……他に信頼できる人が居ないのエリス」
「……! セイラン様の仰せのままに」
「上手く纏め上げなくてもいいわ。ただ信頼出来る者が頂点に居ることが大切なの特に王宮主催のものでは目を光らせて欲しい」
「分かりました。誠心誠意務めます」
「で、落ち着いたら乳母になって頂戴!」
「えっ!?」
「同じ王宮にいる事だし、子供達も共に育つと良いでしょう?」
「き、気が早いです」
セイランは悪戯に笑って「勿論私と共によ」と言った。
一人にはさせないと言う意味だ。
共に社交会を掌握し反旗を翻す者達から愛する者達を守る為。
私達できる事で一番大切なことは情報ーー
「高級娼館にとある人を匿ってるわ」
「とある人?」
「隣国ルーンメイトの王女ヒアリス様よ」
「!」
「先日亡命してきたばかりで、どうやら内部クーデターに合ったみたい」
稀代の悪女と名高い彼女に会った事は数回。
(確かに妖艶だけれど悪女には見えなかった)
「自由で美しい人よ、きっと仲良くなれるわ」
「……ヒアリス王女と何を?」
「社交会で生き残る狡猾さ、そして魅了する振る舞いを学んで欲しいの」
「!」
「無理に変わらなくていいわ」
「いえ、邁進いたします」
「そのままの貴女が好きよ。だからただ手に入れて、手段を」
申し訳なさそうに、けれども生き生きとした瞳。
そんなセイランに「やりません」と言う訳がなかった。
なぜなら、
「私も守りたい人達がいます」
「!……ふふ、そうね」
「まずは貴女です。セイラン様」
「エリスっ!!!」
セイランが執務机を乗り越えんばかりに身を乗り出してエリスに飛び付いた所でとを叩く音と共に扉が開く。
「あ、レイヴン」
「何だ、取り込み中か?」
「ふふふ、そんな所よ~」
「ご挨拶致します、殿下……」
「いい。堅苦しい」
頭を上げろと指をクイクイと何度か上げたレイヴンに従うと呆れた様子にも見えるがどこか楽しそうにセイランに笑った。
「なんだ職権濫用か?側室は許さんぞ」
「ぶ」
「「……」」
思わず笑ってしまった所で二人のきょとんとした表情を見て我に帰る。
「申し訳ありません。殿下がジョークを仰るとは……」
「ふっ」
「……セイランっ」
とうとうセイランがお腹を抱えて笑い出し、気まずそうなレイヴンは咳払いする。
「ジョルジオにはこちらから話す」
「ジョルジュにですか?」
「花には蝶が群がるからな。ビジネスだと言い聞かせないと」
「あ……」
ぽかんとしたエリスにまた笑ったセイランと、驚いたようなレイヴン。
「お前でもそんな顔をするのか」
「ふっ!あははは!エリスは嫉妬なんてされないと思ってるのよ」
「……勿体無いです」
「そんな事な……」
「それに、」
「「??」」
「私も人間なので予想外のことには驚きます」
「「……」」
「「「ふふっ」」」
三人で笑い声を上げた所で、執事が扉を叩く。
「ジ、ジョルジオ閣下が除け者にされてると……!」
「まさかわざわざ訪ねに来たのか?」
「はい……」
「通せ、どうしようもないやつだ」
(まぁジョルジオったら休憩の時間を把握してるのね)
「ジョルジュは何の用でしょうか?」
「きっと大した用はない筈よ……怒り狂った貴女の兄を引っ付けて来るわ………」
「団長!いい加減に仕事をして下さい!!」
「あぁ、エリスの顔を見てからね」
「ね?言ったでしょう?」
そう言ったセイランの表情は呆れた言葉のトーンと裏腹に楽しげだった。
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