婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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48.息抜きも必要

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「婚約パーティー、ですか?」


ジョルジオが神妙な顔つきで提案した婚約パーティーという言葉にまるで、初めて聞いたかのようにぎこちなく返すエリスは可愛いが、婚約者となって暫く経つので遅ばせながらそろそろ婚約パーティーを開くのはどうかと提案したのだった。


「一通り落ち着いたしね」

「主催するのは初めてなので少し不安です」

「俺と一緒だから大丈夫」

「ですが私の評判は……」

「ふ、それも心配ないよエリス」


優しく微笑んだジョルジオにエリスは心臓の動きを早めた。

心から信頼を感じる表情、髪を梳かすように撫でる心地よい手の全部が温かくて本当に大丈夫かもしれないという気にさせる。


ゆっくりと頷いたエリスに「どんなパーティーにしようか」と希望を聞いてくれる彼は令嬢達の理想を具現化したような完璧な婚約者に見える。


「ありがとうございます。とても、楽しみです」


はにかんだエリスの少女のような表情に胸の中を鷲掴みにされた気分のジョルジオは自分の理性を脳内で必死叩き起こし続けた。

実際、エリスは仕事で忙しい王太子妃の補佐を見事に務めている。


パーティーや、お茶会、その他公式的な行事を補佐するだけでなくレイヴンや両陛下からの信頼も厚い彼女は政務においても他の重要な案件を他の王族の腹心と共に補佐することもある。


そんな彼女が仕事に対して不安を口にしたり、失敗した事は一度もないが、こうやってエリスの弱音を見せてくれると年相応で守ってあげたくなるなとジョルジオは内心でデレデレしていた。



段々と素顔を見せてくれるようになったエリスが嬉しいのと可愛いのとで言葉に言い表せなくて思わず抱きしめると普段はしっかりしている癖にこれには相変わらず頬を染めて大人しくなってしまって、また可愛くて悶える。




「エリスがこんなにも可愛い人だとは、嬉しい誤算だな」

「可愛いだなんて……っ」
 
「可愛い」

「やめて下さい」

「やめない」

そう言って顔を覆うエリスの両手をやんわりと奪って、じっと目を見つめた。

深い愛情に微かな欲が交じる赤い瞳に灼き尽くされ、心が熱く燃える。

もっと彼の熱を感じたくなったエリスはそんな心境を表すかのように無意識に彼の手に頬を寄せて擦り寄せていた。


「ーっ、」

(分かってやってるのか?……これはキツイな)

「ジョルジュ……」

「これは試されてるな」

「はっ!私なにを……っん!」


ジョルジオはエリスに初めて深く口付けた。


驚いて少し彼の胸を押したものの本気で抵抗しないところをみると、顔を真っ赤にしながらも必死にジョルジオの動きに付いてこようとするほどには受け入れているようだと考えて止めることはしない。



息ができないとジョルジオの胸を叩くまで重ねていた唇を離すと、キャパシティオーバーだと言わんばかりにエリスは彼の胸の中に顔を埋めた。



「これ以上は勘弁してエリス」

「それは私のほうです……」


「「……ふっ」」


顔を赤くしたまま二人でひとしきり笑ってから触れるだけの口付けをひとつ。



「続きは今度」

「ーーーっ!」


「さ、まずは息抜きしなきゃね」

「息抜き……ですか?」

「オーロラのブティックを貸し切ってあるんだ」

「!」

オーロラのブティックは国一番の店、余程の者でなければ貸し切る事など不可能だと言う事はエリスでもよく知っている。

ジョルジオがどうやったのかは知らないが相応の対価と資格があれば身分など関係なく売るオーロラのことだ、肩書きで店を貸し切れた訳じゃない筈。

彼の人柄を好いているのだろう。今ならばそれが理解できる。


ジョルジオと婚約してから人からの当たりは良くなったものの、婚約者のお陰で王族に大切にされている顔だけの女だと噂話をする者も少なく無い今、彼と自分が釣り合っていないのではないかと時々不安になる。



「とても信頼されているのね、彼女の噂は知っています」


「きっとエリスのこともすぐに気に入るよ」


「……! そうだったら嬉しいです」

(ジョルジュが言うと本当にそう思えるから不思議ね)



ふわりと微笑んだエリスにジョルジオもまた優しく微笑んだ。


言葉こそ少ないもののいつもさりげなく支えてくれるジョルジオの優しさにエリスは必ず下らない噂から名誉挽回して、社交会で認められようと決心した。



「さぁ、行こうか未来の公爵夫人?」


「! ……はい、未来の旦那様」



眼鏡はもう恋しくなかった。


ただ真っ直ぐに見つめてくれるこの瞳をずっと見て居たいと思った。













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