婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

文字の大きさ
上 下
43 / 77

43.ブランクなんて言ってられない

しおりを挟む

「エリスさん……が、俺を裏切るから……」


相変わらず何の話か分からないことを言うオーリスに気味悪さを感じながら彼を避けながらなんとかスザンナを抱き上げた。


恐怖と違う理由で小刻みに震える腕は、騎士の家系だというにも関わらず女だからと剣を握ることが滅法少ない所為でもある。

いくらエリスが剣を扱えると言っても華奢な身体で、細い指を最大限に使えると言うだけで兄のようにはいかないだろう。


だとしても、そんな事は言っていられない。


それでもオーリスを何とか倒すことが出来たとして、この不自然な状況では次に何が起こるか分からない。


仕組んだ者がいたならば病人を殴った令嬢や、令嬢らしからぬ行動と噂で婚約者のジョルジオの顔まで汚してしまうのが目的かもしれない。

倒れてしまったスザンナもまた、この不自然で何が起こるかわからない状況下で放っておくことはできないので守りながら行動するべきだろう。


(ここにも護衛や騎士を置いておくべきね……)


女性とはいえ自分より少し重いくらいのスザンナを抱き上げて動くのもそろそろ限界が近づいて来ている。

低いヒールが幸いしたが、それでも土踏まずがピリピリと痛む。


ズリズリと足をひきづる音や不規則な足音が聞こえ誰か他の者達が来たのだと顔を向けたものの尚更不安が募る。


いつもとは様子の違う患者達が血走った目でエリスを捉えていた。



それに加えて口々に理解し難い言葉を発していて不気味だ。

何故か皆が「裏切った」と思い込んでいるらしく、中には此処を取り壊すと言っている者まで居りとうとうコレはエリスを狙って仕組まれたものだと確信して、入り口で待機させた護衛騎士を呼ぼうと振り返ったが完璧に取り囲まれている。


「スザンナが邪魔だな……」

誰かがエリスのドレスに手をかけようとして、スザンナを引っ張る。


抵抗しているもののいつまで体力が持つか……と思っていると聞き慣れた声が二つと、指示を受けて何やら返事をするもう一つの声。


一人は自らの実の兄ケール、そして待機していた護衛騎士……

(公爵家の紋章……ジョルジオ様かしら)




「お兄様……っ」

「エリス、良くやったな」

「スザンナが、」

「ご夫人を守れて偉いぞ、さすがクロフォード家だ」

ケールが優しく微笑んだ後打って変わって冷ややかな目をする。

剣を使わずに素手で気絶させていくあたりケールもきっとこの状況が彼らによって作り出されたものでは無いと気付いている様子で、あっという間に血を流す事なく倒したものの、まず今は状況を調査すべきだと言うようにエリスに視線を寄越した。


「大丈夫か?」

「はい、お兄様のおかげで。このまま調査に移りましょう」


念の為行動を制限して各自部屋に軟禁し、スザンナの看病を他の者達に任せ護衛を付けると、公爵家の騎士の報告によってジョルジオがすっ飛んで来る明け方までは近くの宿で過ごした。



「ケール!!エリスは!?」

「殿下っ、ケール卿とはいえまだお目覚めでは……」


「団長。わざわざ足を運ばぬように伝達しましたが……」


「ケールは俺の声で目覚めるんだ、ジョセフ」

「すみませんケール卿……殿下を止められず」

「いえ、大体想定内です。団長エリスは一緒に居ます」


ほっとしたような表情のあとすぐに顔を青くして同じ部屋かと聞くジョルジオに呆れたように「安全の為です。それに兄妹ですので」と額を抑えた。



「……状況は?」

「目星は付いていません。目的も不明です。周囲に不審な動きが無かったか聞き込み中なのと患者達の精神状態を見ながら聴取するつもりです」


「そうだね、公爵家の暗部に調べさせよう。お父上の顔色が真っ白だったぞ早く処理を済ませて帰ろう」


部屋の中でまだ眠っているだろうエリスを想うように眉を寄せてジョルジオはケールに言うとすぐさま宿の周囲に警戒体制を貼ってエリスの起床を待つと別室を用意させた。


暫くして、病院に出入りする見慣れない人物の目撃がいつくか浮出て来た。


それは支度を済ませてジョルジオとケールと食事をするエリスにとってかなり見覚えのある特徴の者だった。




「まさか……」


(ロベリアが、何故今更こんな事を……)


下級貴族達の間で何故かエリスが精神を病んだ兵士に慰み者にされたと噂になっているようだと言う報告が耳に届くとますます彼女の仕業では無いかと疑念を抱いた。


「彼女は自由になって、財産も引き継いだのでは?」

「きちんと調べてみる必要があるようですね」



考え込むエリスを見てから、ジョルジオは窓の外に視線を移すと彼女には向けた事の無い凍てつくような瞳のまま笑った。


(潰しても、潰しても湧いて出る……情けなど必要なかったか)












しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...