婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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41.あまりに見通しが良すぎて

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「どう言う事だ!!?」

王宮の一角、立ちはだかるトリスタンを見て眉を顰める。

聴取の為に命じられて登城した筈の彼がエリスを見つけるなり凄い剣幕で怒鳴りかかって来るものだから驚いて思わず一歩下がる。

怯んだと思われたのか勢いを増して「何のつもりだ、お前の仕業だろう!」と詰め寄ってくるあたり相当周りが見えていないのだろう。


「そちらこそ、どう言うつもりですか?」


「私に人身売買の嫌疑がかけられた!お前の仕業だろうエリス!!」


全く意味の分からないトリスタンに首を小さく傾げて、言葉の意味を汲み取ろうとするエリスだがどう考えても心当たりが無いのだ。

それでも流石に状況くらいは理解している。エリスはセイランの筆頭秘書官でセイランの使いでジョルジオやレイヴンを補佐する事もあったからだ。


王太子妃であるセイランだけではなくレイヴンにとってもまた優秀な部下であり友人でもあるエリスに一連の事件とトリスタンの召集の話が知らされない訳は無く見事に後は連行するだけという完璧な姿で提出されたらしい資料を陛下が受理するのには時間がかからなかったとも聞いている。


(だからと言ってそれが何故私の所為になるのかしら)


「不思議な思考回路ですね、ルーシュフル小侯爵」

「馬鹿にしてるのか!?動機はなんだ?腹いせか!?」

「そちらこそ、動機は?人身売買の話は私も知っています」

「わ、私は無関係だ!ただ離縁しただけ……!」


離縁しただけだ、後のことは知らないとそう言えば逃れられると思っているのだろうトリスタンの浅はかさに呆れる。


金のやりとりはゴルジエから押収した帳面で明らかになるはずだし、ロベリアは見返り次第だとしてもミナーシュは証言するだろう。


ミナーシュはミナーシュの罪で牢に入っているが、彼女はエリスを襲ったのもトリスタンの指示だったとまで言っているそうだ。

それが罷り通る訳はないが、トリスタンとゴルジエの罪の証人となることで減刑を主張する算段だろうとジョルジオが言っていたのを思い出す。



「婚約を解消するほど愛していた筈なのに何故離縁を?」


エリスの進行方向、トリスタンの背に丁度ケールとジョルジオが見えて証言をとるならば今だとエリスは二人に目線で合図した。


察した二人が気配を消して話が聞こえる距離まで来ると物陰に身を隠したのを確認してエリスは口籠るトリスタンに続けて尋ねた。


「二度も離縁するなど、それこそ名誉に傷がつくのでは?」

「君を襲っただろう!事件の騒ぎに巻き込まれて家門に傷がつくよりはマシだと思った!それに……あんな低俗な女愛してなどない」


「てっきり貴方の指示で襲撃に合ったのかと……」


「違う!あれはミナーシュが勝手にした!私は君を傷つけたりしない……っ!」


「あの時は、酷く驚きました……」


しおらしく瞼を伏せたエリスにピクリと反応したトリスタンはまるで、自分は味方だと主張する。「信じられません」と顔を背けたエリスにとうとうトリスタンが口を滑らせた。


「信じてくれ!ミナーシュに新しい首輪を作ってゴルジエの元へとやったのは私だ!君の為に報復した!!!」


「そう……らしいわ、お兄様、ジョルジュ」

「は?」

エリスの言葉に勢いよく振り返ったトリスタンは一気に顔を青ざめさせて、エリスに掴み掛かろうとしたが、エリスも騎士の家門の娘だ。

軽い身のこなしで躱す、ヒールに少しよろけたのをジョルジオが上手く抱き留めるとケールがトリスタンを確保した。


「証人は三人居ます。抵抗は無駄です」

「ケール!!もとは義兄弟になる筈だったんだぞ!情もないのか!」

「ならなくてよかったです」


「ふ」

「ジョルジュ、また笑ってますね」

「ん゛ん、まぁこれでミナーシュの証言も嘘だと裏付けられたね」

「はい……これで全てが明るみに出るでしょう」


その後、トリスタンは廃嫡されミナーシュもまた絶縁された。

裁判が終わる頃にはトリスタンがミナーシュだけではなく多くの女性に手を出して居た事まで明るみになり、ミナーシュもまた多くの子息に言い寄っていた事が皆に知れた。

ゴルジエに関しては借金のカタに平民の娘を攫ったり、貧乏な貴族の娘やトリスタンのような者から別れた妻を買い取っていた事が帳簿と証言によって明るみになった。


愛隷の契りと、新しいミナーシュのチョーカーの鍵のことをゴルジエは最後まで言わなかった。

鍵の無いチョーカーは永遠に外れないものとなってしまったが、持ち主の居なくなったそれはもう命を脅かすものでは無くなった。


ミナーシュとゴルジエは牢獄での生活を強いられる事となり、トリスタンもまた一生幽閉を強いられることになった。

ロベリアは妻としてゴルジエの残った僅かな財産で小さな家を建てたらしい。名ばかりのフリンチェ伯爵夫人、平民よりも貧乏な貴族として慎ましく暮らす他ないだろう。


「エリスに立ちはだかるモノが無くなったね、ケール」

「ええ、見通しが良すぎるくらいに」

「ヴィルヘルム公爵夫人には幸せになって貰わないとな」

「時々、団長の腹が真っ黒なのではないかと怖くなります」

「敵には容赦しないのが、戦場で生き残るコツだよ」

「……そうですね」


それでもケールは知っていた。

彼が戦意のない者の命は取らない事を、仲間の為に身を挺して守る事も。


そして何より身内をとても大切にすることを。


「だから、団長が好きです」

「男はお断りだね」

「女ならいいと?」

「ばっ、そんな訳ないだろ!エリスだけだよ!」



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